第20話 浮遊魔法

アキラは、ベッドの中で飛行魔法について考えていた。マリが三階から四階までジャンプしたのを見て、羨ましくなったからだ。だから魔法で同じことができないかと思案していた。


風魔法は、すでにゲットしていた。一応浮くことはできるが、ロケットの噴射みたいにものすごい量の風を出さないと浮かなかった。燃費が非常に悪かったし、バランスをとるのが難しく、実用は難しいと、一度断念した。


もっと簡単に体が浮くような魔法があればなあと、つらつらと考えていた。


そう言えば、ダンジョン・コアは浮いていた!


あれって重力に逆らっているよな!その様子を強く思い浮かべたとき、ひとつの魔法陣が目の前に現れた。


ベッドから起き上がり、急いで魔石を持ってきた。手に取って、魔法陣を起動してみると、魔石は空中に浮かんだ!上昇や下降などせず、ただ地面から数センチ浮かぶだけだった。


その魔石を上にポィッと放り投げると、ゆっくり下降した。重力に逆らっている!


これに風魔法を追加したら上昇下降が簡単にできる!


さっそく風魔法の魔法陣を起動させ、下向きに風を発生させると、魔石が上昇していった。風を止めると、ゆっくり下降した。


やったー!これで飛べる!とガッツポーズをした、アキラであった。



翌朝、アキラ、マリ、目黒、横浜組は広場に集まっていた。


目黒が興味深々に尋ねてきた。

「なんか面白いことをするんだって?」


マリが不審そうにアキラを見た。

「アキラがこんな事をするときは、大抵ろくな結果にならないよのね。心配だわ」


アキラは、集まった人を見廻し、手を広げた。

「じゃあ、みなさん、よーく見ていてくださいね!」


するとアキラの体が一メートルほど浮き上がった。


おおお、という歓声があがった。


マリが目を丸くして驚いていた。

「嘘、浮遊魔法なの?いつできるようになったの?」


「浮いてる」「浮かんでるぞ」「本物の天使みたい」

目黒も横浜組も、ただただ驚いていた。


「へへへ、どんなもんだい!では、もっと高く飛んでみせましょう!」

アキラは一気に二十メートルも上昇した。


しかし、その後両手をバタバタさせたかと思ったら、頭から急下降してきた。


「危ない!」みんなの顔が青くなった。


マリはとっさに飛び上がり、アキラをキャッチした。


「バカ!死ぬ気!危ないじゃない」

アキラを抱っこして、睨みつけた。


「ご、ごめんなさい」

アキラは、ばつが悪そうに俯いた。


「浮遊魔法は禁止!わかった?」

「そ、そんな」


「青春って残酷だなー」

と誰かがつぶやいた。


そこに「救世主様ーー」という声が聞こえた。


マリはアキラを抱っこしたまま走りさった。


「青春っていいなー」

と別の声が聞こえてきた。


オレの青春、どっちなんだよーと、アキラは心の中で叫んでいた。



翌日、目黒駐屯所の司令官室に、田所、アキラ、マリ、目黒が座っていた。


毎日田中がやってくるものだから、みんな辟易していた。そしてまた、田中がやってきた。入って来るや否や、


「救世主様、お会い出きて、うれしく思います」

目をギラギラさせながら、アキラの手を取って握手した。


「ど、どうも」

アキラはタジタジだった。


田所がゴホンと咳払いして、ソファーを勧めた。

「どうぞ、お座りください」


しかし田中は、ソファーに座らず、アキラに深々と頭を下げた。

「救世主様、どうか市ヶ谷に足を運んではいただけませんか?」


「市ヶ谷の人たちから、殺されかけたことがあるので、嫌です」

アキラは、きっぱり拒否した。


しかし田中はグイグイとアキラに迫った。


「救世主様のお怒りは、ごもっともと思います。しかし救世主様の威光をお示しになれば、みな感動、感激し、目黒と市ヶ谷は一致団結いたしましょう。そうすれば争いがなくなり、平和な世となります。なにとぞご再考のほどをお願いします」


アキラは涙目になっていた。


「田中先生、本人も嫌がっていますから、そこらへにしていただけませんか?」

田所が止めに入った。


「田所さん!」

田中が叫び、目を見開いて睨んだ。


しかし、すぐに

「声を荒げて申し訳ありませんでした。今日はこれで失礼します。また明日来ますので」

と言って、踵を返して出ていった。


「えっ?」

みんな思わず、素っ頓狂な声を出した。


「嘘だろ!明日も来るの?もうやだよー」

アキラが涙目で田所を見た。


「アキラ君が直接断れば、あきらめると思ったんだが」

田所は困惑していた。


「あの人、怖い」

マリは睨みつけた。


「すごい青春だな」

目黒がつぶやくと、アキラとマリは目黒をにらんだ。


「諦める様子はないし、こう毎日こられては、君も迷惑だろう。アキラ君、ここはひとつ、彼の願いを聞いてくれないか。市ヶ谷と争わなくて済むのは、こちらとしてもありがたい」

田所は言った。


はあっと、大きなため息交じりにアキラは答えた。

「仕方ないですね」


田所は急いで田中を追いかけていった。


アキラたちが部屋を出たとき、遠くから田中が走ってくるのが見えた。

「ありがとうございます!救世主様!」


「もう、くんな!」

アキラは叫んで、その場から走って逃げていった。

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