第19話 スーパーマリ

翌朝、アキラとマリは、貯水槽のところに来ていた。


近隣から多くの人が水を求めて、やって来たため、水がみるみる減っていたのだ。


アキラは、小さい魔石を持っていた。ゴキブリの魔石だ。そして、スイッチを入れたら魔力が尽きるまで水を出し続けるという、まるでウォーターサーバーのような魔法陣を起動し、魔石を貯水槽に放り込んだ。魔石は網に入れられていて、あとで回収できるようにしていた。


目黒が感心して見ていた。

「アキラ君は、次々と、面白いことをやるね」


アキラはうなずき返した。

「必要は発明の母ですから」


マリは何度もつぶやいていた。

「私も魔法が使えたらなー」


「マリは身体強化が使えるじゃないか。オレは身体強化が下手だから、マリが羨ましいよ」

「ままならいものね」「ままならないもんだね」

アキラとマリが同時につぶやいた。


アキラも身体強化を試みているが、強化しようと魔力を注ぎ込むと、すぐお腹が痛くなって、あまり強化できなかった。どうやら人によって得手不得手があるようだった。


しばらく、貯水槽を眺めていた。


貯水槽が満タンに近くになったとき、水が止まった。


アキラがつぶやいた。

「ゴキブリ一匹水満タン」


マリが怒った。

「もう、変なことを想像するから、やめてよね」


その時である、「救世主さーまー」と言う声が聞こえた。


みんなギョッとして、うんざりした声を出した。

「また来たか」「またかよ」「もう、しつこいわね」


マリはアキラを抱きかかえて、猛スピードで逃げて行った。


「青春だな」

目黒がつぶやいたが、誰もつっこまなかった。


その後、田中はアキラを探し続けたが、諦めて田所のところへ向かった。


やがて田中は帰っていき、田所は、それを見送りながら

「どうしたものか」

と嘆息していた。



夕食のとき、

「あの人きらい!イライラするわ」

マリが怒りをあらわにしていた。


アキラはため息をついた。

「はー。明日もくるのかな?」


「だったら明日は外にいくか?物資を探しにいくのはどうだ?」

目黒が提案した。


「いいですね」「やったー、服とか探したい」

アキラとマリもその話に乗った。


横浜組が立ち上がって敬礼した。

「目黒隊長、我々も、ぜひお供させてください」


「仕方ないな。わかったよ」

目黒は横浜組の隊長にもなっていたのだ。


横浜組は大喜びした。

「ありがとうございます」



翌日、アキラたちは渋谷駅近くのデパートにやってきていた。田中と遭遇しないよう朝早くから。


偵察のため先行していた朝比奈が戻ってきた。


「近くに不審人物はいませんでした」


アキラは安堵した。

「田中はいない。よかった」


目黒が号令をかけた。

「よし、入るぞ!」



ここら辺りは、散々物色された後なので、飲食物はもう残っていない。それ以外なら残ってるものも割とあり、今回はマリの希望で衣類をメインに集めることになっている。衣・食・住と言うが、重要度では食が一番で、衣は最後になる。水の心配がなくなったので、目黒の隊員も服が気になり始めていた。


一階に入ると、ネズミがいた。


「ネズミが増えてきたな。そろそろネズミ駆除をしたほうがいいかもしれない」

目黒がつぶやいた。


「ネズミを食べるんですか?」

アキラが尋ねると


「まさか、この前のカレーの肉って…」

マリの顔が青くなった。


「ちがう、ちがう。衛生上の問題だ。ペストは怖いだろ?まあ食料がなくなったらネズミも食べることになるだろうけど」

目黒は笑って答えた。


二階も魔物があばれたようで、瓦礫や物が散乱していた。


「三階への階段は全滅で上に行けそうにないか」

目黒はつぶやいた。


「三階に行きたい!アキラ、手伝って」

マリが、階段の瓦礫をじっと見ながら決意した。


「マリがその気なら、いくらでも」

アキラは答えた。そしてアキラがマリに魔力を注入して、最大まで強化していく。


「服のためなら、何だってやるわ!」

マリが瓦礫をつかんで、持ち上げていく。


一つ一つ持ち上げては瓦礫を片付けていく。横浜組はその様子に驚愕し、目黒は、マリの服に対する執念に驚いていた。


半分くらい撤去したところで、マリは、はー、はーと辛そうに息をしていた。


しかし背を伸ばして、瓦礫を見つめた。

「アキラ、もう一度魔力をちょうだい」


諦めるつもりなど毛頭ないようだった。


「お、おう、分かった。無理するなよ」

アキラは、マリの気迫に押され、魔石の魔力を注入していった。


マリは再び瓦礫を撤去していった。

「負けるもんですか!」


「超人だ」「スーパーマンだ」「人間ブルトーザーだ」

横浜組は口々に驚きを言葉にしていた。


誰かが、ぼそっと


「スーパーマリ」


とつぶやいた。すると、


「スーパーマリ」「スーパーマリ」「スーパーマリ」

の連呼が起こった。


「スーパーマリ、決定だな」

アキラがつぶやく


「気が散るから、黙って!」

マリの怒声が飛んできた。みんな、その迫力に身が縮むような気がした。


ようやく三階への階段が開けた。


マリは嬉しさに、飛び上がるように三階へ入っていった。しかし三階も魔物に荒らされた跡で、マリの気に入る服はなかった。


階段の前の瓦礫を見つめながら、マリは気合をいれていた。

「四階にいく!魔力をちょうだい」


アキラから魔力を貰って、瓦礫を動かしていった。

「さあ、いくわよ!待ってなさい!」


その時、マリとアキラの上の天井がメリメリと音とともに崩れ落ちた!


マリは目にも止まらぬ速さで、アキラに覆いかぶさり、二人は天井の下敷きになってしまった。


目黒も横浜組も一瞬のことで動けず、呆然となった。


ハッと我に返り、落ちてきた瓦礫に近寄ろうとしたとき、瓦礫の一部が押し上げられ、中からアキラを抱いたマリが出てきた。


「アキラ、大丈夫?」

「ああ、う、うん。大丈夫だと思う」


「アキラが無事でよかった」

マリは、傷ひとつないアキラを見て、安堵した。


「助けてくれてありがとう。マリは、大丈夫?」

「えっ?うん、そうね…大丈夫みたい」


アキラは、マリの身体強化が予想以上で驚いていた。マリは泣きそうになるのを、堪えながら笑って答えた。


「愛だ」「愛の力だ」「愛はすべてを超える」「愛は地球を救う」

横浜組が口々に絶賛し拍手した。


最後のおかしくね?とアキラは思ったが、口には出さなかった。


マリは立ち上がると、天井に空いた穴を見つめて、かがんだ。

「やってやるわ!」


叫んだあと、全身全霊でジャンプした。そしてみごと四階に着地した。


「やったわ!ロープをなげてちょうだい」


そして、みんながロープで四階へ登った。


四階は、魔物に荒らされた跡はなく、白骨以外は綺麗なものだった。マリは喜び飛び回った。服のことで頭が一杯で、もはや白骨は目に入ってなかったようだ。


「アキラ、こっちに来て。これも素敵。こっちもいいわ」

色んな服を物色していた。


マリの身体強化がまた一段レベルアップしたなあ、とアキラは感心していた。

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