第10話 ダンジョン・コア

「じゃあ、ダンジョン・コアに触れるよ。」


「うん。」

マリは心配そうに頷いた。


アキラはダンジョン・コアに触れた。その瞬間、光の線が伸びてダンジョン・コアに繋がった気がした。すると引き込まれる感じがして、気がついたら光の空間の中にいた。


新宿一番ダンジョンときと同じだ。


成功した?ダンジョン・コアの中に入ったのだろうか?しかし魔法陣らしきものは何もなかった。意識を集中した。


臍や眉間のあたりが光り出した。


知識に関するところなら眉間かな?今度は眉間にだけ意識を集中した。

眉間の光がさらに強くなる、それをどんどん広げていった。知りたい、このダンジョンのことを知りたい、そんな思いを乗せて、広げていった。


何かに触れた感じがした。


次の瞬間、魔法陣が目の前に現れた。次々と無数に。周囲は魔法陣だらけになっていた。


ひとつの魔法陣に意識を集中する。すると、それが何を意味しているのか何となく分かった。この中にあるはずだ。心と体を入れ替える、「魂の魔法陣」が。別の魔法陣に意識で触れてみる。これも違う。片っ端から触れていった。


どれだけの時間が経っただろうか?多すぎて気が遠くなりそうだ。


突然魔法陣が流れ出し、次々と消えていった。ま、待ってくれ!まだ知りたいことがあるんだ!アキラは叫んだ。しかし突然意識が消えた。


「アキラ、アキラ」

遠くからマリが呼ぶ声が聞こえる。


「アキラ、戻ってきて、アキラ」

だんだんと声が近近づいてきた。


「アキラ、戻ってきて、私を置いていかないで、お願い。」

目を開けると、泣きそうになっているマリが目の前にいた。


「魔物?」

がばっと体を起こす。周りを見たが魔物はいなかった。


「何かあった?」

涙目のマリに尋ねた。


「アキラがあれに触れてから、しばらくして体が光りだしたの。どんどん光が強くなっていって…光の卵みたいになって。恐ろしかった。あのまま消えしまうんじゃないかと思って…引っ張って、離したの」


「そうか…」


マリが抱きついてきた。ぎゅーっと締めつけられた。

「マ、マリ、苦しい!」


「え、えっ?ご、ごめんなさい。」


「も、もっと優しくして…」

本来のマリ口調にそっくりだったので、ドギマギして赤面した。

自分の声で赤面して、どうすんだよ、と思ったアキラだった。


「どれくらいの時間光っていたのかな?」

「たぶん5分も経ってないと思う」


ダンジョン・コアの中の体感時間は外とは違うようだ。


「ねえ、何か分かった?」

「うーん、分かっと言えば分かったんだけど…」


「何よ。はっきりしてよ!」

「もの凄い量の情報で、全部読み取れなかったんだ。残念だけど、心を入れ替える方法は今のところ見つかっていない。でも、もう一度触れば、きっと…」


「ダメ!」

マリが大声で遮ってきた。


「消えそうだったのよ!アキラが、アキラが消えたら…私…生きていけない…」

マリは泣きだした。


アキラは無言で宙を見つめていた。しばらくして


「うん、分かった」

軽く返事をした。


「ほんと?ほんとうよね?嘘じゃないよね?絶対よ?」

マリが念を押してきた。


「うん、触らないから」

軽く頷く。


しばらくして、


「さて、最後の仕事をしようか!」


アキラは元気に立ち上がった。


「えっ?何?」

マリがアキラの両肩をがっしり捕まえた。


「い、痛いよ、マリ。ダンジョン・コアを壊すだけだから」

「あれを壊すの?」


「うん」

アキラはダンジョン・コアを指さして、そうつぶやいた。マリは恐くてダンジョン・コアから目をそらしていた。


アキラはダンジョン・コアの中で知った。ダンジョンは一定時間、おそらく七年経過すると崩壊し、魔物を放出する。ひとつの魔法陣に触れた時、それを確信したのだった。


「壊さないと、いずれ大災害が起こる。だから壊す」

アキラはキッパリと言い放った。


マリは大きく深呼吸してから、息をはいた。

「分かったわ」



二人でダンジョン・コアの前に立った。


「マリ、さっき練習したようにすればいいから」


そう言って銃身を二人で握った。


アキラは、マリの手から光の線が伸びていく様子をイメージし、さらに自分の手からも光の線を伸ばす。二人の光の線が銃床へ伸びていき銃床の全体を覆うようにイメージした。


「いくよ!三、二、一、えい!」


壊れろ!とアキラが念じて、銃床がダンジョン・コアに当たると、弾けて光が溢れた。

二人は光に包まれていった。


光の空間の中にいた。


様々な術式の魔法陣が現れては、消えていった。


きっとあるはずだ。さあ、来い!魂を入れ替える魔法陣「魂の魔法陣」よ、来い!


アキラは祈るように、流れては消えていく魔法陣に意識を集中していった。やがて光が消えるとともに、アキラの意識も消えていった。



二人は明治神宮の道の真ん中にいた。

そう、ダンジョンがあった場所だ。


二人は無言で見つめ合っていた。


「ダメだったか…」

アキラがつぶやいた。


マリが怒った顔で睨んでいた。

「嘘つき、もうしないって約束したわよね」


アキラは気まずそうに眼をそらしたながら、

「触ってはいないだろ。」

と言った。


「あれの中に入ったでしょ」

マリが怒って、手を挙げた。


「ス、ストップ!その馬鹿力で殴られたら顔が変形するから止めて」


マリがグッと拳を握りしめて手を降ろした。


「騙したようになってゴメン。でも、ちゃんと消えずに戻れることが分かっただろ」


今回は魂を入れ替える情報は得られなかった。でも得るための手段は分かった。しかも、他に多くの情報を得たのだ。アキラは前向きに考えることにした。


魔石がたくさん転がっていたので、拾って、渋谷へ向かって歩きだした。



途中、食べ物を探した。さすがに腹が減っていた。


瓦礫に埋もれたコンビニの前で、二人は残念そうに立っていた。瓦礫の隙間から覗いてみると、食べられそうなお菓子や無事なペットボトル飲料が見えたのだ。しかし、人が通れそうな隙間がなかった。


「二人であの瓦礫をどかしてみよう。そしたら通れるかも?」

アキラは人間の倍以上あるコンクリートの瓦礫を指さして、マリを見た。


マリは、そっぽを向いた。

「無理に決まってるじゃない」



するとアキラは両手で、マリの手を包み込むように握って、目を閉じて、マリの臍に意識を集中した。マリの臍が強く光り、それが全身を輝かせる、そんなイメージを思い浮かべた。

目を瞑って、強く強くイメージしていたら、マリの臍が本当に光出し、それが全身に広がり、全身が光出したように見えた。目を開けてみると、実際に光っているわけでない。でも目を閉じてると見えるのだ。これが魔力だとアキラは思った。


アキラが祈るように、真剣に、マリの手を握っている。その姿にマリは、少しドキドキした。そして、お腹の中が温かくなったような気がし、何故か力があふれてくる感じがした。


「もう、仕方ないわね。一回だけだからね」

と言って、瓦礫を持ち上げてみた。


すると、ゴ、ゴゴ、ズ、ズゴーと音がして、瓦礫が動き出した。


「嘘!」

マリは驚いた。すかさずアキラが


「今だ、横に投げて」

と叫んだ。マリは無我夢中で言われるままに、瓦礫を横に放った。


人ひとり通れる隙間ができた。


マリはポカーンと口を開けたまま、瓦礫を見つめていた。


「入るよ。食べ物を探そう」

アキラが、そう言って、マリの手を引いてコンビニに入っていった。


「ねえ、何かしたの?」

「あとで説明するから。今は食べ物が先」


アキラは嬉しそうに、コンビニで食べ物を漁った。




半壊したコンビニの前で、二人は食事をした。


マリがアキラに尋ねた。

「ねえ、あれはどういうこと。早く教えて」


アキラが嬉しそうに答ええた。

「あれは、魔力で全身を強化したんだ。身体強化ってやつ」



「マリは、何か感じなかった?お臍のあたりとか」

「そう言えば、お腹の中が温かくなって、力が湧いてくるような感じがしたわ」



アキラは身体強化の説明をした。


それから、今夜の寝床を探しながら、マリは身体強化をやってみた。


結果、マリは常に軽い身体強化状態だった。しかし自分では、さらなる強化はできなかった。魔法のときと同じで、光のイメージができず、魔力操作ができないからだった。アキラが魔力操作で補助したらスーパーマンみたいになった。だからアキラは残念でならなかった。



その夜、ホテルの一室。


アキラは、ウォーターとファイアを使ってお風呂の準備をしていた。

明治神宮のダンジョンの中でウォーターの魔法陣を見つけたのだ。


それを眺めながら、マリはつぶやいていた。

「いいなー、私も魔法が使いたい」


「光のイメージトレーニングをしたら、できるようになるよ」

アキラは、平然と答えた。


「はー、できる気がしないわ」

マリは、ため息交じりに返事をした。


「お腹の中の温かい感じが分かったんだ、練習すれば、いつかできるよ」


マリは、さらにため息をついた。


お風呂に入り、食事をしたあと、二人は寝た。

ベッドが一つしかなかったから、窮屈だったけど仕方がないと諦めた。


まだ暗いうちに、寝苦しくなって、アキラは目を覚ました。


男の顔が目の前にあり、生温かい鼻息が顔に当たった。


思わずビックリして、ベッドから飛び上がった。それは、見慣れた自分の顔だった。自分で自分の顔に驚いて、正直しょげた。明日からは、ベッドは別々にしようと、アキラは思い、再びベッドに横たわって寝たのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る