第8話 生存者
翌朝、都庁前の広場に戻ってきた。魔石を拾うためだ。
「君たちは、どこから来たんだい」
いきなり後ろの方から声がした。
ハッとして振り向くと、討伐隊の隊員服を着た男が二人いた。アキラ達から二十メートルほど離れた場所にいた。
生存者がいたんだ、良かった!
アキラもマリもそう思った。マリが大きな声で答えた。
「横浜からです」
するとサングラスの男が銃口をこちらに向けて叫んだ。
「荷物を置いて帰れ」
もう一人の口髭をいっぱい生やした男が、嫌らしい目つきでニヤケていた。
「うっひー、金髪の女の子がいるじゃねーか!」
アキラとマリはゾッと背筋が寒くなった。
アキラが何か言おうとしとき、マリが右腕でアキラ庇い、下がらせた。
「アキラは黙ってて、私に任せて、ね」
マリがキッパリと言った。
「敵対するつもりはありません。生存者同士助け合いましょう」
髭親父が怒鳴った。
「俺達の縄張りに入って盗みを働いたくせに、良く言うぜ」
「な、縄張りって何ですか!誰が決めたんですか?せっかく生き残ったのだから…」
バァーン!
マリがしゃべり終わる前に銃声が鳴ってマリの近くに当たった!
キャッ!マリが小さな悲鳴を上げた。
銃を撃った髭親父が、ニヤケ顔で言った。
「ゴチャゴチャと
そして、ゆっくりと近づいてきた。
「おい、止めろ!相手はまだ子供だぞ。」
サングラスの男が髭親父を止めにかかった。
マリは恐怖で足が震えていた。
「わ、分かった。荷物を置いて帰るから」
「動くんじゃねえ!手をあげて正座しろ!」
髭親父が怒声を上げて近づいてきた。
ヒッと息を飲んで 、マリは震えながら正座した。
アキラもリュックを下ろして正座した。
髭親父が銃口を向けながら傍まで来た。下衆な笑みを浮かべながら。
「金髪の外国人のお嬢さんか!近くで見るとすげー
髭親父がアキラに手を伸ばそうとした時
「おい、止めろと言っただろうが!」
サングラスの男が髭親父の肩を強くつかんで叫んだ。
「せっかく生き延びたんだ。俺達も少しは楽しんでもいいだろうが!いつも大隊長ばかり……」
サングラスの男がを髭親父睨みつけた。
「俺達の任務は物資を集めることだ」
バァーン!銃声が鳴ってサングラスの男が倒れた。
「いつも、いつも
倒れたサングラスの男をひと蹴りして、そう言い放った。
髭親父が背中を見せたそのとき、アキラは右手を髭親父に向けた。右手には魔石が握られていた。
その瞬間、ファイアが髭親父を襲った。髭親父は火だるまになりながら数メートル先に吹っ飛び、ぎゃーと泣き叫びながらのたうちまわった。
アキラは髭親父に駆け寄り、なおもファイアを浴びせ続けた。
あっという間に髭親父は黒焦げになって息絶えた。
アキラはハー、ハーと荒い息をし、震えながら歩き出した。
人を…殺してしまった…何とも言えない嫌な汗が流れ出して気分が悪くなってきた。
マリのところまで来て、手を差し伸べた。
「行こう」
マリの手を取ろうとしたとき、マリの手が震えているのが見えた。
アキラは差し出した手を見て、ひっこめた。
「人殺しの手…」
アキラが小さくつぶやいた。マリが素早く立ってアキラを抱きしめ、ささやいた。
「アキラは悪くない」
温かい…と感じ、アキラは少し落ちついた。
「銃声がしたが、何かあったのか!」
遠くから声が聞こえた。
二人ともハッと我に返った。
くそ!仲間がいたのか
「走るよ!」
アキラはそう言うとリュックを引掛けて走り出した。
しかし立ち止まって振り返り、サングラスの男に近づき、落ちていた銃を拾った。
「何してるの!早く!」
マリが小さく叫ぶ。
二人は無我夢中で渋谷に向かって走っていった。
遠くから声を掛けた男は、銃声が聞こえてきた方角を双眼鏡で見た。
黒焦げの死体と一人の隊員が倒れている、そして高校生らしき二人が走って離れていくのが見えた。金髪の女の子が銃らしきものを肩にかけていた。
急いで、黒焦げになった死体の所にやってきた。
「こりゃあ酷い、火炎放射器か?」
そしてサングラスの男に敬礼をした。
「撃たれて死んだのか、副隊長…」
残念そうに合掌し、黙祷した。
「副隊長の銃がないな。あの二人がやったのか?渋谷に走っていったな。目黒のやつらか?」
「こりゃあ、大事になりそうだ」
タバコに火をつけながら、男はそう言いながら立ち去って行った。
二人は、「捕まれば確実に殺される」そんな思いに駆られて、全速力で走り続けた。
気がつけば明治神宮に来ていた。追いかけてこないみたいだ。アキラは足を止めて、座り込んだ。どっと疲れが出てきた。
「はぁ、焦った!」
アキラはふぅーと息を吐き出し、一息ついた。
「アキラ、行きましょう」
平然と立ったままのマリが、手を差し伸べてきた。
「マリ、元気だね」
「うん、全然平気よ。アキラの体って凄いわ。いくらでも走れそう」
「えっ?嘘だろう?体育の時間、マリの方が走るの速かったじゃないか」
「あれ?確かにそうだったわね?火事場の馬鹿力?」
いや、いや、どう考えてもあり得ない。ダンジョンに入る前のアキラでは絶対に無理だ。ダンジョンが関係しているのではないか?アキラはそんなことを考えていた。
マリが催促した。
「考え事はあとにして。急ぎましょう」
アキラが立ち上がった。そのときである。ワァン、ワァン、ワァンと数匹の犬の鳴き声がし、鳥が一斉に羽ばたいた。追手か?二人は身構え、振り向いた。
何とそこにはダンジョンがあった!
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