第6話 入れ替わった幼馴染

アキラはひどい頭痛がして目を覚ました。ゆっくりと記憶をたどる。ダンジョンから脱出しようとして光に包まれて落ちていったような気がする。


ここはダンジョン?魔物がいるかも?


急いで逃げなければと思い、起き上がろうとしたが全身に痛みが走り、動けなかった。周りを確認しようと目を開けようとしたが、さらに頭痛がひどくなり、とても開けられなかった。


どうすることもできない。このまま死んでしまうのか。短い人生だった。いろいろ考えていたが、そのうち考えるのを止めた。諦めの心境で、ただ呼吸だけをした。しばらくすると臍のあたりが暖かくなり、光りだした。そこから全身に光の線が伸びていく。その光景に意識が釘付けになった。


頭まで光の線が届いたとき、頭痛が消え、目を閉じてているのに視界が明るくなった。そして、光が波のように脳から臍へ、臍から全身へ、そして全身から臍へと循環し始めた。不思議な感覚だった。いつのまにか体の痛みも消えていた。


ゆっくり目を開けてみてた。


星が見えた。外に出られたんだ!ほっとした。


「そうだ、マリは?」


思わず手足を動かして体を起こしたが、痛みはなかった。周りを見回すと、近くに人が倒れているのが見えた。急いで駆け寄り、顔を覗き込み、仰天した。


それは九条アキラにそっくりだったのだ。


思わず周りを見回し、大声で「マリー!マリー!」と叫んだ。そしてさらに驚いた。女性の声だった。しかもマリに似ていた。恐ろしい考えが浮かんだ。


確かめなくてはと思い、恐る恐る両胸を触った。大きくて柔らかかった。冷汗が出てきた。さらに股間に手を伸ばす。本来あるべき物がなかった。愕然とした。


心と体が入れ替わってしまったのだ!


呆然と男の体を見つめていた。冷たい風が頬をなでていった。


しばらくして、男の体が小さくビクッと震え、眉間が険しくなった。さっきの自分みたいに痛いんだ。なら意識は戻ったんだ。


「マリ、何も考えず、ゆっくり深呼吸するんだ」

また眉間にしわが寄った。


「力を抜いて、ゆっくり深呼吸」

何回も耳元で叫んだ。ようやく眉間のしわがなくなり、静かな呼吸になった。


さっき自分がやった光の循環をマリもできれば、きっと動けるようになるはずだ。しかし、どうやったら教えることができるのだろうか?言葉で伝えるのは正直難しいと思った。目を瞑って思案していたら、男の体の臍のあたりに光が見えた。そこに意識を集中させたら光が強くなってきた。


もしかしたらうまくいくかもしれない?さっき自分がしたように、光の線が全身に広がるのを想像した。意識を集中すればするほど、光の線は輝き全身に届いた。そして循環させるようにしてみた。急に全身がうっすらと光に包まれて、やがて消えていった。うまくいった。そう確信した。


「マリ、聞こえるか?聞こえたら目を開けて。」


ゆっくりと男の瞼が開いた。


「あなた、誰?」


九条アキラの声で返事が返ってきた。


マリは瞼を開いて、驚き、困惑していた。自分とまったく同じ顔の女の子が、「よかった。よかった」と自分の体を揺すっていたのだ。何が起こっているのか、まったく理解できなかった。


「そうだ!アキラは?」と体を起こした。周りを見回したが、アキラの姿は見えなかった。そしたらマリの体をした女の子が抱きついてきた。恐ろしくなり、その子を突き飛ばした。


「アキラ、どこ!」


そう言って、立って逃げようとした。


「マリ、オレだ、アキラだ」


マリの姿形をした女の子が、マリと同じ声で、腕をつかんできた。


「離して!」


腕を振り払って、そして自分の声に驚いた。アキラの声に似ていたからだ。手を見た。それは男のように大きく太かった。顔を触ったらゴツゴツしていた。恐る恐る胸を触ったら、胸のふくらみはなく、平だった。何が起こったのか分からず、キャーと大声を出し、その後のことはよく覚えていない。



泣きながらマリがつぶやいた。

「仕事なんか受けなきゃ良かった…ねえ、元に戻れるの?」


「たぶん可能だと思う」

「えっ…ほんと?ほんとなの?」


しばらく沈黙した後、アキラが口を開いた。

「もう一度ダンジョンに入って、あの時と同じ状況を再現するんだ」


マリは俯いて黙り込んだ。当然の反応だ。でも、それしか手はない。そして、なぜか分からないけどできるという変な確信がアキラにはあった。


しばらくして、マリが尋ねた。

「本当にダンジョンに入らないといけないの?」



強い口調でアキラが返事をした。

「うん」

「わかった」


すすり泣きながらマリが身を寄せてきた。


「マリはオレが守る」

「バカ」


二人はお互いをいたわるように抱き合った。

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