第9話 今に見ていろ。勇者の復讐劇
男が召喚された。
召喚直後にしばらく意識を失っていたらしく、未だに体にだるさを感じる。
「ゴフォン。ここは何処だ。俺は、ゴホンゴホン。何故ここに居るんだ。病気のため、ゴホン。病室で寝ていた筈なんだが、ゴフォンゴホン。」男は咳き込みながら辺りを見渡した。
石造りの大広間に絵が掛けた魔方陣。中央に座する豪華な佇まいの男とそれを取り巻く鎧姿の騎士達そしてローブを纏った男たちは、ニヤつきながら、彼を見下ろしていた。
「気分はどうかね。」豪華な佇まいの男は、この国の王だと名乗った。王の隣の宰相らしき男が、「今日から、君は勇者として魔王軍と戦ってもらう。もちろん、君には拒否権はない。」
「ゴフォン。何で俺がそんな事をしなければならないんだ? ゴホンゴホン」
「何故て、君の首には従属の首輪が填めて有るから!君は奴隷なんだよ。王国の為に命を捧げて、魔王と死ぬまで戦うんだ。」
「チクショウ。ゴフォンゴホン。この首輪を外しやがれ」飛び掛かろうとするが、体に力が入らない。地面にひれ伏し 大きく咳き込んだ。
宰相は、「無理はいかんな、体を大事にしなければならないよ、王国の為に魔王と戦う体なんだ。」
「お前たち、勇者を部屋へ連れて行くんだ。丁重にな。ファハハハ。」
勇者は、兵に連れられ与えられた部屋で横になりながら考えた。
召喚時に神?より与えられたスキルにより、まず現在の身体能力を確認した。
体力 D (病気による体力減少)
智力 A
魔力 S
器用 A
剣術 S 全魔法 S 探知 A 空間収納 A 識別 S
まずまずの能力である。しかし、咳が止まらない。
だが、この恨みは必ず晴らしてやる。と王国への復讐を誓った。
翌日より、訓練が始まる。時より激しく咳き込むがスキルによる身体能力の向上で、何とかなりそうだ。
まだ、熱で体の不調が続くが、体を騙しだましで訓練を進めていく。
勇者は、あの日以来 逆らうこと無く、従順を装った。心中を悟られない様に。
数ヶ月のち、訓練を終了と同時に魔王軍との戦いが始まる。戦いは勇者の力で五分五分で進んで行ったが、徐々に王国軍が、押され気味になる。王国軍に病気が蔓延し始め、咳き込み寝込む兵が増え始め、戦える兵が減少し始めていた。
城の中や王都でも咳の音が響き渡り、熱で倒れて死ぬ者まで出始めた。王も宰相も将軍さえ、ベッドで横たわっている。完全に軍は機能を失い始めていた。
城中にまともに警備が出来る兵はなく、ベッドに横たわる王の枕元まで勇者は進んだ。
「王よ。体調はどうですかな。国中に病気が蔓延しており、貴方を守る者すら居やしない。自分はこの時を待って居たんだ。
アァそうそう!宰相様は、先ほど亡くなったよ。大層苦しみながら涙をこぼしていたョ。勿論、自分は殺してない。この首輪が有る限り 手が出せないからな。まして、助けるなんて、真っ平ゴメンだが!」
「次は、王よ!お前の番だ。お前が死ぬ前に真相を話してやるよ。お前も死に切れないだろうから。」
「召喚前の俺は、肺病を煩い入院していた。その中で召喚された、後はあんたが知ってる通りさ。しかし、召喚時に得たスキルの力により、俺は生き延びられた。最も、お前たちへの復讐心が原動力だがな。
それからは、従順の振りをして、辺り一面に咳をしては病原体を巻き散らした。有難いことにスキルで俺の体は強靭になったと同時に病原体まで強靭になって居たんだよ!嬉しかったよ。そしてこの病原体はこの世界では未知の存在だから、この世界の薬や魔法が効かないんだ! そう、これが俺の復讐さ。王よ。よく見るんだ。お前の家族を!お前の国民を!お前の国の最期を! 俺は、この国が滅びるまで、お前を死なせないから安心しな。お前が、この国の最期の一人になるのだからな!そしてお前が死んだ時点で首輪は、外れて自由になるのさ。まぁもう少し先だがな。」
しばらくして、勇者の復讐は終わった。そして一つの国が滅んだ。
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