俺のとなりの発明品
如月倫音
プロローグ
いつもどおり教室の窓際の1番後ろの席、陰キャの特等席と言っても過言ではないここで物理の授業を受けている《寝ている》俺、
体を揺らされたことにより、自分の腕を枕にしたまま目を開けると、隣の席の子と目が合ってしまった。
わざわざ俺みたいな陰キャのことを見る理由なんてないのに見つめているということはもしかして俺のことがすきなのか。
今まで気にしたことなかったけどよく見れば可愛いし、告白されたら快く受けよう。という考えがすぐに思い込みだということが分かった。
なぜなら俺がごちゃごちゃ長々とうぬぼれている間に頭をあげたのだが、その時に隣の席の子以外のクラスメートの目もこちらを向いていたからだ。
どうやら教師直々に起こされたためにクラスの注目を集めたらしい。
と、まあこんな感じでいつもどおりやる気のない普通の男子高校生をやっているうちに、チャイムがなり尽くしやがった。
なぜこうもまあ、俺がキレ気味なのかは言うまでもない。授業を寝て過ごしている身からすると、時計なんて見ているわけもなく、急にそこそこの音量であんなものを鳴らされると、びっくりしてキレない方が難しい。
決して俺が短気というわけではない。
決して。
そうこうしているうちに、毎時間恒例の流れ
もう一度眠りにつこうと顔を伏せると、この学校で教師以外に耳にすることがある数少ない声が聞こえてきた。
「今日も相変わらずおやすみモードだな、誠一さんよ。」
「今日も相変わらず睡眠の邪魔をするんだな、大切さんよ。」
こいつは俺と仲良くしてくれる数少ないクラスメートの一人である、
名前に使うにはとても珍しい漢字が紛れ込んでいることについては、俺ではなくこいつの産みの
「それはそうと誠一、もうすぐ中間テストだぞ?ほんとに寝てて大丈夫なのか?」
「お前、去年俺の何を見てきたんだよ。」
今の発言から分かる通り、大切とは1年のときから同じクラスでそのまま一緒に2年に上がって今に至る。
「とりあえず卒業できればそれでいいんだよ。」
あの辺にいるわいわいグループみたいに青春を謳歌したいとも思わなければ、俺とは逆側の教室の端にいるあいつのように勉強していい大学に行こうとも思わない。
そうです。
僕は卒業後のことを大まかにすら考えていない、そう! 男子高校生の恥です!!
「なんでお前そんな自慢げな表情浮かべてるんだよ。」
どうやら声には出なかったようだが、顔には出てしまっていたらしい。
そんなことより俺は今、大切に言いたいことがあったのを思い出した。
「お前そういえば昨日春風からLINE来てたぞ。『最近大切が冷たい。』って。」
「あ〜練習試合が近くて最近部活が忙しくてさ。また謝っとくよ。」
「俺から勝ち取ったんだから春風のこと泣かせたら俺が許さねえからな。」
会話に出てきた春風って子は俺と大切と同じ中学出身で俺が好きだった…いや、今も好きな
さっきの会話で察してくれた通り大切の彼女でもある。
あーあ、そうですか。俺よりあいつの方が魅力的でしたか。そうですか。
と、今でもたまに...いや、頻繁に思う。
とか考えているうちに大切は俺を置いて部活仲間のところへ行ってしまった。
手持ち無沙汰になった俺は再び寝ようとして左手を枕にして右側に顔を向けた。
「あ・・・・・・」
もう一度隣の席の子と目が合ってしまった。
さっきは『よく見ると可愛い』と言ったが訂正する。よく見なくてもかなり可愛い。春風にも引けを取らないくらいには。
そしてさっきはクラス中が俺を見ていたが、今度はこの子しか見ていない。
もしかして本当に俺のこと……
やばい、ニヤけてしまう。
ってかこんなに不自然に目が合い続けるのは良くないのでは?
俺はとっさに顔を伏せようとした。でも…
出来なかった。
だって今、俺に笑いかけてきたんだもん! 口角上げて可愛すぎたんだもん!!
と、完全に取り乱してしまったが、今度こそしっかり顔を伏せようとした。
出来なかった。
隣の席の子がなんと俺に喋りかけてきたのだ。もちろん口角をあげたまま。
「寝癖、付いてるよ。」
寝癖?まじかよ。
手を髪の毛に伸ばして探索開始。
隣の席の子が左耳の上辺りを指さした。
言われるがまま俺もその辺りに手を伸ばした。
確かにしっかり跳ねていた。
「寝癖って授業中の居眠りで立つものなの?」
笑いかけながらそう言う。
「どうなんだろうな。」
そう言いながら俺は席を立って更に続ける。
「教えてくれてありがとう。トイレで直して来るよ。」
「いや、もう無理だと思うよ?」
「えっ なんで。」
俺がそう言うとチャイムがなりやがった。
「ね?」
隣の子が言うように確かに無理だった。
そして何も変わったことは起きずに50分が経ってもう一度チャイムがなった。
本当のことを言うと俺の目が珍しく授業中も開いていたという、とても変わったことが起きてはいた。
俺は足早に教室を出て、トイレで寝癖を直す。
髪の毛を湿らせながら自分の席に帰ってきた。
「寝癖直してきたんだね。」
「うん。お陰様でびしょびしょだよ。」
「乾かさないの?」
「髪の毛を乾かせるものを普通は学校に持ってこないだろ。」
「そう?私は持ってるけど。」
なんのために持ってきてるんだよ。水泳部とかなのか?
「使う?」
「いや、ありがたいけどコンセント使うわけには行かないし。」
「コンセント、要らないよ。」
???
どういう意味だ?電気を使わないドライヤーなんて存在するのか?
「はい。」
そう言いながら隣の席の子は机の中から何かを取り出した。
「それは… 鉛筆削り?」
「半分間違い、半分正解、かな。」
隣の席の子は更に鉛筆削りに線で繋がってる、小さなドライヤーらしきものを取り出した。
「これはね。鉛筆削りを使って作り出した、小型ドライヤー。」
「君が作ったの?」
「まあね。すごいでしょ?」
本当にすごい。なんていうか、すごすぎて声が出ない。うなずいておくことしか出来なかった。
「これ持って。 行くよ〜」
そう言うと隣の席の子は鉛筆削りの回すところを回し始めた。
そして俺に渡した、小型のドライヤーから心地よい温度の風が吹き始めた。
「す、すごいね。」
「でしょ? 電気不要の小型ドライヤー!! 腕疲れるし、早く使ってね。」
「あ、ありがとう…」
言われるがまま俺は濡れた自分の髪を撫でるように乾かし始めた。
大体乾かし終わったところで隣の席の子が再び口を開いた。
「もう、十分だよね。腕疲れたしおしまい。」
そう言うと小型ドライバーからこぼれていた心地よい温度の風は静かに止まった。
「助かったよ…どうも。」
何が起こったのかまだはっきりしていない俺はそんなことくらいしか口から出てこなかった。
それから何度もうるさいチャイムが鳴って放課後になった。
この学校で『美人だ』という理由で絶大な人気がある俺たちの担任、
隣の席の子が原因だろう。
あの『自分で作った。』という言葉がどうしても俺の奥深くに眠る少年の心をくすぐってくる。
他にもあんな感じのものをたくさん作っているのだろうか。
とか、
どうやって作っているんだろうか。
とか、色々考えているうちに学校が終わっていた。
外はすっかり赤く染まっている。
俺が赤色の空に挨拶をしていると、数時間前にも聞いた気がする声が後ろから飛び込んでくる。
「あれから起きてたんだな。お前が寝ずに1時間授業受けるだけで珍しいのに、半日以上起きてるとか明日、にわか雨でも降るのか?」
普通はそういうときはもっと大袈裟に台風とかだろ。にわか雨じゃ弱すぎる。
「ああ、今日は凄いもの《ひと》を見つけてさ。」
「何を見つけたんだ?」
なんとなくこいつに俺の身に起きた、隣の席の子が織りなす素晴らしいロマンの世界に干渉してきてほしくない。
これが独占欲というやつか。
「教えろよ〜。」
俺は大切の声を完全に遮断して”いつものあれ”が来るのを待つ。
「誠一ちゃん〜〜、意地はってないで話しちゃえよ〜。」
耳に入ってくる音がどんどん鬱陶しくなってきてそろそろ殴りかかってしまいそうなのはこらえつつ、”いつものあれ”を今か今かと待ち続ける。
まだホームルームが終わってから5分くらいしか経ってないから言うほど待ってはないんだけど。
「君のことが大好きなのに〜、嫌いになりたくないし〜、早く、お・し・え・て?」
そろそろかな。でも…
ごめんな、大切。限界だ。
3…
2…
1…
ドカーーンッッッ
ガラガラ
俺の心の中のカウントダウンが0を告げたと同時に2つの異なる効果音が教室に響いた。
1つは鬱陶しさが最上級まで達した俺が大切を殴り黙らせた音。(身内ノリだから威力は全然大したことないよ。)
そしてもう一つは…
「おはようござい…‥って起きてる〜!!」
幼馴染みであり、大切の彼女である春風がいつものように俺を起こすついでに大切を
「一緒に帰ろ?」
と誘いに来た音。
俺が”ついで”じゃなくて大切が”ついで”だから。
「すごいね。誠一が私のモーニングコールなしで起きてるなんて。明日はにわか雨だね。」
それ、お前らカップルの間で流行ってんのか。
「じゃ、誠一が起きてたことだし、今日の私は『誠一を起こす。』っていう副業はせずに『大切のお迎え』っていう本業だけこなせばノルマ達成だね。」
分かってはいたが、大切ではなく俺が”ついで”だった。
っていうか春風、昨日俺に『大切が冷たい。』って愚痴って来てたよな?吐き気がするほどラブラブじゃねえか。クソ。
「それで、今日見つけた凄いものって何なんだ?」
興味津々で春風もその話題に乗っかってきた。
もうこの際、教えた方が教えずにこの先ずっと迫られて生活するよりましか。
って言うのを表向きに、本心は名前通りの春風を連想させる薄い桜色の肩辺りまでしかない短すぎず、長すぎずのボブ気味の髪の持ち主が上目遣いしてきてるんだもん。可愛すぎるから教えざるを得ないって。
俺から春風を奪いやがって。
そして俺は意を決して、机の中を探り始めた。
数時間前に握った感覚と同じものを確かに手にもう一度感じてそれをがっちり掴んだまま、余っているもう一方の手で制カバンを手に取る。
2人の不思議そうな顔かつ、ワクワクした顔をしっかり確認したあと勢いよく立ち上がり、その勢いで隣の席の子が作ったと言っていた、『鉛筆削り型ドライヤー』を、これが俺が見つけた凄いものだ。と言わんばかりに机の上に叩きつけ、俺的にはとてもスマートに何も言わずに教室を出て、下校した。
きっと2人にもスマートに写っただろう。
俺はウキウキで校門をくぐった。
◇
「いや、なんか言えよ。」
「これだけじゃナンノコッチャだよね。」
もちろん誠一の予想は大きく外れ、全くスマートには写っていなかった。
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