空っぽじゃ無いか
最近では心霊写真を特集した番組が急速に減り、今ではほぼ見たことのない人まで居る。これには写真のデジタル化もあるだろう。カメラのフィルムに写るならなんとなく分かっても、カメラセンサーにデータとして残るかと言われると少し奇妙に思えるからではないか? そんな中、ユウキさんは心霊写真を撮影したことがあると言う。
「心霊……って言うんでしょうか? 霊が写ったとかそんなことはないんですが、少なくとも普通では無いものが写りましたね」
それは夏の暑いとき、大学の仲間で集まって墓場で肝試しをしようとしていた。そのときはその前に居酒屋で飲んでいたこともあって全員の気が大きくなっていた。地方出身者の集まりなので大学近くの墓に誰か知り合いが入っているというわけでも無い、無関係なら多少迷惑をかけても直接迷惑は無いという身勝手な気持ちで肝試しをすることになった。
全員がしっかり長袖長ズボンで、虫除けスプレーもかけておく。一応関東なのだが、田舎というものが無くはないので、その場で肝試しをするのに全員きっちりした格好で集まっていた。
奥の方には寺も見えるのだが、とても誰かが夜にいるとは思えないような廃れ方をしていたので、誰もが問題無いと思い男女ペアで三組に分かれた。ユウキさんにはあまり欲のなさそうな男性がついたそうだが、イマイチその後に起きたことで記憶に残っていないそうだ。
肝試しの内容は、墓地の奥まで行って、そこでスマホのインカメラで自撮りをしてくるというものだ。きっと親密度が上がりそうなどの下心もあったのだろうけれど、今となっては全て後の祭りではある。
始めの組が奥の方までスマホのライトを頼りに進んでいった、堂々といくものだから残された四人が不安になるほどだ。それから時間を置かずに帰ってきて、スマホに映った自分たちの姿を見せた。それで肝試しで行くのはその写真が撮影された墓のところまでということに決まる。レギュレーションが決まったので二組目は普通に進んでいく。
彼と彼女も別にどうということもなく帰ってきた。墓の前で撮影した写真を自慢気に見せてくる。薄暗くてろくに見えたものではないが、一応そこまでは行ったのだろう。
最後にユウキさんたちの組が二人して墓地の奥へ行った。別に何も怖くないと言うのが本音で、何事も起らずカメラにうっすら映っていた墓についた。男の方のスマホで自分たちを撮影し、元の場所に帰った。
そして撮影した写真を見せると、三組の写真を見せ合う流れになったので、それが撮られたスマホを皆で見せ合った。どうやらきちんと同じ墓にたどり着いたようで、墓石には同じ名前が掘られているようだった。
「なあ、これおかしくないか?」
始めに墓までいった男が声を上げた。写真を拡大すると、そこに写っていたのは墓のお供えだった。
「何がだよ? この時期ならお供えくらい誰かしてるだろ」
時期は夏、お盆の時期であり、墓参りがされているのは珍しくない。だが、彼は他の二組の写真も同じところをアップにした。そこに写っていたのは開封されたカップ酒と、最中の入っていたであろう袋だ。
「おかしくね? お前らまさか墓のお供えを拾い食いなんてしてないよな?」
「する分けねーだろ馬鹿らしい」
と、その言葉で全員が沈黙した。誰もイタズラをしていないならこれはいつの間にか開封されてしまったことになる。この墓の入り口には二組が待機していたのだから、どこか別の入り口から入って開けたことになる。それはおかしいので全員揃って確認に行くことになった。
そこで全員は絶句する。確かにカップ酒も最中の袋も開封されてはいない、ただカップ酒は中身が空っぽになっている。開封せずに空にすることなど出来るのだろうか?
最中の袋を振ってみるとなんの音もしない、一人が恐る恐る開けると中身は空だった。開ける前に押さえていたので密封は確かにされていたはずだ。
全員気まずくなって墓地を出ると解散となった。後で祟りなどがあったわけでは無いが、彼らが全員で集まることは大学を卒業するまで無かったという。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます