ご神木の累
ノムラさんが住んでいる村には神社があり、その神社には畏敬の念を持たれているご神木があるそうだ。
彼は『ご神木っていうのは本当にあるんですね』と語る。
まだノムラさんが中学生の頃、彼はそのご神木の近くに人があまり近寄らないのを良いことにそこでタバコを吸っていた。今ほどタバコが高額では無く、タバコで大騒ぎをしない程度に世の中がおおらかといっていいのか、とにかくそんな時代だった。
今では考えられないが、タバコを吸っているのが当然の時代があったというだけのことである。
彼はタバコを吸い続け、家族の財布から時々お金を拝借し、タバコを当時はまだ珍しくなかった個人経営のたばこ屋で購入していた。今では中学生がタバコを買ったら大騒ぎになるだろうが、当時は眉をひそめられる程度で分かっていて見逃されていた。
ただ、大っぴらに吸うと皆注意せざるを得ないので、各自隠れて吸っていた。とはいっても学校の校舎裏で吸っている程度の隠れ方で十分な程度には緩かったのではあるが……
彼が高校に進学するころ、祖父母が肺を患った。年齢からして珍しくないのだが、二人同時に病に襲われたので、彼は私立高校に進学を出来ず、金銭的な理由から公立高校を選んだ。
両親は介護に労働にと尽力したのだが、金銭面で楽になることはなかった。ただ、祖父母共に病を患ってはいても亡くなることは無く、『苦しい』というのが口癖だったが、命は危険にさらされなかった。
両親は彼を大学に進学させたがっていた。しかし、彼は荒れる家を見てタバコに逃げた。ご神木の元でこっそり吸いながら悪態をついていた。アルバイトをせざるを得ないほど金銭面では苦しかったが、バイト代の幾らかはタバコで溶けていた。
彼が高校も三年制に上がる頃、彼を大学に進学させたがっていた両親まで肺を患った。一応奨学金で進学できる予定だったのだが、金銭面でも両親の介護という面でも進学は諦めざるを得なかった。
そうして彼は四人の介護と生活費を稼ぐためのアルバイトで日々を必死に生きている。
ただ、彼は健康そのもので高校の時に受けた健康診断でもどこにも異常はないと言われた。
「俺はね、思うんですよ。悪いことをしたとして、それが自分だけの責任で片付くなら良いんですがね。そのツケを払うのが自分とは限らないんですよ」
それから一呼吸置いて彼は吐き出すように言う。
「何がひどいって誰一人死んでいないことですよ。俺のせいなのかも知れませんが、祖父母から両親まで、苦しいとはいいながらも死ぬことだけはないんですよ。思うんですがね、もし皆が死ぬとしたら、俺が死んだときなんじゃないかなって考えるんですよ。きっと俺を苦しめるだけ苦しめて、死なせることすらしないんじゃないかな。確かに俺のやったことが褒められることだとは言えませんが、ここまでの罰を受けることなんでしょうかね?」
今でも彼は家族の介護とアルバイトで何とか生活費を稼いでいるそうだ。祖父母はもうかなりの高齢で、いつ亡くなってもおかしくはないそうだが、皮肉にも一向に伏せる以上に何か起きることは無いそうだ。
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