第6話

 畏怖の目で私を見る盗賊たちを前にして、私は新たな問題に直面していた。


 ギフトってどうやって調べるんだろう。

 既に30人以上とらえているが、調べ方が分からないんじゃ、ギフトも探しようがない。


「セラフィナさん、もしかしてギフト調べようとしています?」


 脇に隠れていたセシルが顔を出しながら話しかけてきた。

 たしかに一緒に来たほうがいい、と言ったけどずっと逃げてたら意味ないんじゃないかな。私はそんな感想を飲みこみつつ、セシルに答える。


「まあ……そうだな」

「やっぱりそうですよね。私も調べ方についてはすっかり頭から抜け落ちてました……うーん、困りましたね」

「どういうことだ? ギフトを調べるのでなんで困るのだ?」


 男に戻る、もしくはそれが可能なギフトを一人一人調査して当たっていくという、なんとも地道な計画を立てていたんだけど。


 セシルの困った表情をみて、とても嫌な感覚が背筋を伝った。


「ギフトの調べ方って限られていて、普通は10歳の時に神官が調べてくれるんです。なので本人に聞いたりもできますが……」


 うなり声を上げそうな表情のセシルを見て、私の感覚がほとんど確信に変わる。


「ギフトってその人の大事な商売道具だったりもするので、あまり教えたがらないんです」


 そういうことね。セシルが困ったと言った意味が分かった。

 つまり今の私がギフトを知る方法――それは本人に協力してもらうこと。


 無理じゃん。詰んでる。

 恐怖で支配された巨漢の男なら答えてくれるかもしれないけど、他はどうか分からない。


 そもそもこの場は良いとしても、移動したらどうなる?

 そのたびに脅して聞きだすってこと?

 うーん、クラリスじゃないけど恐怖の支配者にでもなったほうが早いまである。ハハハ……どうするのこれ。


「あの、セラフィナさん。一応それ以外の方法もあるにはあるんですが……」

「あるのか?」


 下から食い気味に寄っていったのがセシルの琴線きんせんに触れたのか、微笑ましいものを見るような目で見てくる。

 おい、私は子供じゃないんだぞ。


「ええ、まあ。その、冒険者ギルドにある貴重な魔道具を使う、という手があります。それにしてもセラフィナさんは本当に可愛いですね」


 可愛いって言うな。可愛いより小さいの方が嫌だが、可愛いというのも別に好きじゃない。

 わかるか、私は男でなんなら男だったころは、とても漢らしかった…………はずだ。500年も前なので記憶はやや怪しいが、そうだったと思っている。記憶を美化しているとは言わせない。


 ともかくそんな私が可愛いと言われて嬉しいはずはない。


「可愛いくなどない」

「またまた、そんな謙遜けんそんは良くないですよ? あんまり謙遜けんそんしすぎるのも嫌味に聞こえますからね」


 謙遜けんそんでもなんでもないんだが?


「ええい、可愛いと言うな! ともかく! セシル、お前が言うには冒険者ギルドの魔道具を使えばギフトを調べられるんだな?」

「可愛いのに……」


 私が睨みつけるとセシルは目を逸らしながら続ける。


「ギフトはそうですね。もともと神官が使う魔道具もギルドにある魔道具と同じものと言われていますから、できるはずです。しかし先ほども言ったようにかなり貴重なので、手に入れるのはかなり難しいかと」


 手に入れる?

 そんな必要はない。魔道具ということは作れるということだ。たとえどんなに貴重だろうが、作ってしまえば関係ない。


 となれば次の目標は決まった。


「ならば冒険者ギルドへ行くとするか」

「あの、セラフィナさん? 聞いてました? 魔道具は貴重なんですよ?」

「わかっている。子供を諭すように語りかけるな。どれだけ貴重な魔道具だろうが、見て作れないということはないだろう」

「え、作るんですか!?」

「なんだ、なにかおかしいか?」

「あ、いえ……まあアーティファクト作ったっていうセラフィナさんなら魔道具くらい作れますよね、うん」


 アーティファクトを作るのも、村での様子から一般的ではないようだし……魔道具も一緒なのか?


 まさか魔道具やアーティファクトの産出はダンジョンだけ、なんてことはないよな。もし仮説が正しいなら、貴重だというのも頷けてしまう。自分の能力と今の世界の現状の差に少し冷たい汗を流しつつ、ギルドへ向かう方法を考える。


 行くだけなら問題ない。問題なのは捕らえた盗賊。これは私が男に戻るためのギフトを所持している可能性が捨てきれない以上、このままおいておくわけにはいかない。


 加えて盗賊は奈落の瞳なる連中に追われているらしいので、安全も確保しなければいけない。


 かくまうなら私の家が一番いい。あそこは検知が難しい結界が張ってあるから、かなり安全だろう。


 よし、そうと決まればクラリスに連絡だ。念話を送ることが出来るアーティファクトを一つ取り出し魔力をこめる。


 するとすぐにクラリスから反応が返ってきた。


「セラフィナ様ですか? 珍しいですね。どうかなさいましたか?」

「頼みたいことがある。こちらに来てもらえないか?」

「わかりました。ただいま向かいます」


 クラリスとのつながりが切れ、すぐに私の目の前にゲートが現れた。クラリスの持っている能力の一つ、空間転移だ。


「セラフィナ様、お待たせしました」


 クラリスを呼ぶといつも一瞬で来るから待つなんてことないんだけど。私がそんなことを思っていると、クラリスがとたんに険しい表情になる。クラリスがこんな表情になるなんて珍しい。どうしたんだろう。


「……ルナ、これはいったい、

「え、な、なんでクラリスお姉さまが!?」

「セラフィナ様に呼ばれたのです。それよりも、ルナ。どうしてこんなことになっているのでしょうか? よもや

「……いや、その……そんなことは……」


 なんでエルミナが出てくるんだろう。もしかしてルナが何かを知っているようだったのは、彼女に関係することかな?


 気になる、気になるけど、私はもっと優先すべきことを口にした。

 そう、私は一刻も早く冒険者ギルドへ行き、ギフトを調べる魔道具を使いたいのだ。


「クラリス、それよりも私の方を片付けて欲しいのだが……」

「申し訳ございません、セラフィナ様。その……ご用件は何でしょうか?」

「ああ、実はこの者たちを少し預かっておいてもらえないか」


 盗賊たちを指さすと、クラリスが汚物を見るような目で盗賊を見渡す。

 え、いいじゃん! 私の家だよ!? 私が誰を家に置こうが良いと思うんだけど!?

 たしかに皆にも協力してもらって作ったけどさぁ、その皆を作ったのは私だからね!?

 こういうときくらい神格化して私を見て欲しいかな!?


 そんな私の願いが通じたらしく、汚物を見るような目をしていたクラリスの目がハッと見開き納得した表情になる。天啓でも舞い降りたのかな。


「セラフィナ様、分かりました。来るべき時のため……と言うことですね」


 ……うーん、来るべき時のため?

 ギルドに行って魔道具を見て、魔道具を作るまでだから『来るべき時』なのかな?


 まあ納得してくれてるならそれでいいか。私もクラリスさえ納得できてれば、その納得した理由を深く知る必要はない。

 終わりよければすべてよし。


「そういうことだ。頼んだぞ、クラリス」

「お任せください、セラフィナ様。必ずやセラフィナ様のご期待に沿えるよう、鍛え上げて見せます」


 ……鍛える?

 うーん、なんか変な方向に納得してない?

 ちょっと心配だけど、まあいいか。


「ところでルナ」


 そんな楽観的思考をしていると、クラリスが再び口を開く。


「セラフィナ様の大いなる意思があったのであれば、なぜ先に言わないのですか? あなたも

「え、あ、はい! そうなんです、クラリスお姉さま!」

「そうでしたか。ではエルミナにはようですね」


 これ、絶対変な方向に納得してるよね。大丈夫?

 大いなる意思もなにも私は男に戻るための意思しかないけど。


「あのぉ~……セラフィナ様」

「どうした、ルナ」

「その……クラリスお姉さまと通じ合ってたセラフィナ様の考えてること……あとで私にも教えて下さい」


 むしろ私が教えて欲しいんだよね。

 大いなる意思って、誰の意思?


 でも私のことを神格化してるルナを含めたホムンクルスたちの前で、そんな弱気なことは言えない。ここは堂々と適当なことを言っておけばいい。


 もし大したことないじゃん、こいつみたいに思われて付け込まれたら、きっと私は可愛いってずっと撫でられる。私は今日、確信した。その未来が見える。それだけは何としても避けねばならない。


「良いだろう」

「ありがとうございます、セラフィナ様!」


 私とルナの話がまとまったところで、クラリスが再び口を開いた。


「セラフィナ様、それでは私はこの者たちを鍛えておきますので」


 そう言うと、クラリスは乱暴に盗賊の男たちをゲートの中へとぎゅうぎゅうと押し込んで去って行った。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る