第2話
それからは流れるような作業だった。クラリスが突然「みんなの前で宣言しましょう」と言うと、あっという間に200を超すホムンクルスたちを広間に集めた。
そうして私の前には200を超えるホムンクルスたちが頭を下げている。
私が旅に出るだけでこんな大事になるなんて……だいたい、いつからエルフの国を再興する、なんて言ったっけ?
そもそも私は国を
国を疎かにするくらいだから当然、世界を捧げられても困る。
それにクラリスの言っていたエルフの国の再興ってどうするつもりなんだろう。そもそもエルフの生き残りは私以外にいないから、国を復興するって言うのは絶対に無理なんだよ。
聞きたいことは山ほどあるけど、まずはギフト。セシルの言っていたギフトを見つければ私は元の姿に戻れるのだ。
そう考えただけで鼓動が跳ね上がる。私は男に戻るためにこの500年間、研究を続けてきた。
私は気持ちを落ち着かせ、ホムンクルスたちの期待に応えるべく、なるべく威厳があるように口を開いた。
「セシル」
「は、はい!」
私の近くに立っていたセシルが緊張した声をあげる。
「近場に人里はあるのか?」
「そうですね……ここからですとウィロウ村があります」
500年も引きこもって生活していた。人の多い街よりちょうど良いのかもしれない。
たしかに村の人口は少ないかもしれない。でも少ないからと言って、無視して良いわけじゃない。探すということは、そう言うことだ。
「わかった。ではさっそく、そこに――」
「まずはその村を打ち滅ぼすのですね。そしてセラフィナ様の名を、ひいてはエルフの国再興のための名声を高める第一歩にする、と」
クラリス、そんなに攻撃的じゃ無かったよね?
そもそも打ち滅ぼしたら、私が男に戻るためのギフト探しどころじゃないんだけど。
「いや、違う。クラリス」
そこで戸惑いを全面に出さないで欲しい。言ってることおかしいのわかるよね?
「どういうことでしょうか?」
「……どんな目的であったとしても、まずは彼らと話をすべきだろう?」
「……! そういうことですか。さすがはセラフィナ様です」
本当にわかってる?
そもそも私の目的は男に戻るギフトを探すことであって、決して世界征服をしようとか考えてないからね?
私は帰ってきたときに「世界征服は終わりましたか?」とか聞かれるのかな。少し不安に思いながら、話を続ける。
「ではセシル。私をウィロウ村に案内してもらえるかな」
「え、あ、はい。私は大丈夫ですが……」
「お待ちください! セラフィナ様!」
頭を下げていたホムンクルスのうちの一人が声をあげた。ルナだ。彼女は人族のホムンクルス。
そんな彼女が顔をあげて私とセシルの会話に割り込んできた。
今度はなに? と少しげんなりしながらも、気を抜かず
「なんだ?」
「その役目、セシルではなくわたくしにお任せ下さい……!」
「案内か?」
「はい」
私はジーっとルナの目を見る。その目は私にすがるような目。どうしてそんな必死なんだろう。だれかと張り合ってるのかな?
張り合う理由はよくわからないけど、こんなに必死なら私としては断る理由もない。セシルがいればウィロウ村までは行けるしね。
さすがに全員来たい、って言われると困るけど一人くらい増える分には問題ない。
「良いだろう。だがセシルも一緒だ」
「……! あ、ありがとうございます!」
こうして、500年ぶりの外出が始まったのだった。
☆☆☆
そんな出発から数時間ほど。村にはすぐに着いた。でも歓迎されていないらしい。
私たちはいま、武器を持った屈強な男たちに囲まれているのである。
「お前たち、何者だ!?」
槍を突きつけていた一人が、怒鳴り散らす。
私のことを聞いてるだけだよね。そんなに怒らなくていいのに。
「この……! セラフィナ様に向けて、どういうこと!?」
……ルナの態度と、この言動じゃ怒鳴られても仕方ないかもしれない。
セシルの方は私の横で縮こまっているけど。
「ルナ、やめろ」
「……で、でもセラフィナ様……!」
「私の言うことが聞けないのか?」
「いっ、いえ! そんなことはありません!」
私の言葉にルナは、しまった、と言う顔をしながら敵意を収めてくれた。
私たちの方は受け入れる準備ができたけど、相手の状況は良くない。
あくまでギフトを探したいのであって、争いたい訳じゃないんだよね。
ともかく相手にも冷静になってもらわないと。私は槍に手を添え、ゆっくりと矛先を変えながら一歩前に出る。
矛先を変えさせられた男は顔を真っ赤にしている。
あれ、武器を降ろしたら冷静になって話もできるかなって思ったんだけどなぁ。いや話をすればきっと分かってくれるはずだ。
「私たちは争いたいわけではない。少し話をしないか?」
「なんだと……!?」
「そう言って俺たちを……!」
私が槍の矛先を変えたことで他の男たちも武器を向けてくる。
その瞬間だった。
「待て!!」
後ろから明らかに周りの者とは違う雰囲気の男があられた。
「相手をよく見たらどうだ? 女性が三人……しかも一人は怯えているじゃないか。そもそも彼女たちが盗賊団に見えるか? 今までこの村を襲ってきた連中とは明らかに違うだろ」
「確かに……」
「そういわれれば……」
「それに彼女らに敵意がないのはわかるはずだ。お前たちも、矛を収めろ」
現れたリーダーらしき男が、周囲の男たちを収める。
なるほど、盗賊団ね。それで私たちを警戒していたのか。
「ほら、行け。彼女らは俺が相手をするから」
私たちを囲んでいた男たちが散り散りになる。残ったのは目の前の男だけだ。
「すまなかったな、君たち」
「いや、誤解が解けたようで良かった」
セシルはほっとした様子で胸をなでおろしている。
でもルナは拳を握り締め、唇を噛みしめていた。
え?
まだ許せないことがあるの?
「そっちの女の子は許してはくれていないみたいだな」
「……軽々しくセラフィナ様に話しかけるな!」
……いやいや、私が誰と話しても良いと思うんだけど。
そりゃ500年も引きこもってたよ?
でも話しかけるなって言うのは過保護すぎじゃないかな。
「……ルナ。やめろ」
「でも……!」
でも、じゃないよ。せっかく冷静に話が出来る人がいるのに、聞き分けのない子供みたいにごちゃごちゃ言わない。
「ルナを連れてきたのは失敗だったかな?」
「なっ! セ、セラフィナ様……! そんなことはありません!」
ルナは世界から切り離されてしまったかのような、絶望の色を顔に浮かべている。
「ではもう少し静かにしていろ」
「は、はい……分かりました……」
しゅん、としながらもルナは肯いている。その様子を見て、私は少しだけ罪悪感を覚えた。でも悪いのはルナだからね?
帰れって言ってるわけじゃないし、そんなに落ち込まないでよ。
そんな私たちのやり取りを見ていた男が話を切り出してきた。
「……セラフィナ、と言うのかな? 君はどこかの王族なのかい?」
「様をつけなさい、男。ですが、良い質問ですね。セラフィナ様は、すべての頂点に立つ唯一無二の存在にして、我々の創造主であり、この世界において最も偉大なる御方です。力と知恵の象徴であり、すべての者が敬い、恐れ、そして崇めるべき究極の存在——」
前言撤回。
ルナはもう少し落ち込んでも良いかもしれない。
「ルナ?」
「……あ、いえ……なんでもありません」
私がルナを見ると、身体を縮めて目をそらす。
目をそらしても、やったことは変わりないんだけど?
「ははは、えーっと、とりあえず凄い人なんだね。俺もセラフィナ様、と呼んだ方が良いかな?」
「もちろ――」
私がルナを見ると、バツの悪そうな顔をして体を縮こまらせて黙った。
悪いことをしたって言うのは分かっているみたいだけど……やっぱり連れてこない方が良かったのかな。私はさっそく後悔し始めていた。
「いや私は気にしない。普通で良い」
「そうか。堅苦しいのは苦手だから助かるよ。おっと、そうだ。俺はガルシウス。えーっと、君はセラフィナで、他の二人は?」
「こっちの目つきが悪いのがルナ。落ち着きがなさそうなのがセシルだ」
二人とも私の評価を聞いて少しショックを受けているのか、顔を引きつらせている。
「そうか。いきなりの無礼、本当に申し訳なかった。今この村はピリピリしていてね……というのも、村に何度も盗賊団が来ていて気が立っているんだ」
「それで私たちにもあの対応、というわけか」
「ああ、そうなんだ。言い訳をしているのは分かっているのだが……許してほしい」
そういう理由があったのかと、思った矢先だった。
「ぐわああああ」
男の苦痛の声が村中に響き渡った。視界に映ったのは馬に乗った盗賊団の姿だった。
「奪え!」
馬にのったリーダーらしき男が指示すると、彼の背後にいた盗賊団たちが、いっせいに村の住人に襲い掛かる。
これじゃ話し合いどころじゃない。いや、もっと悪い。
もし私の探しているギフトを持っている人がこの中にいたら……そう考えると私は背筋が凍る思いがした。
そんなことは絶対に阻止。阻止だ。
「私の邪魔はさせない……!」
盗賊の頭を睨みつけ、私は言い放った。
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