第80話 後始末

「ちょっと待ったー!!!」


 聞きなれた声が耳に届いた。


 俺はなんとか斧を止め、マーカスの首を刎ねるのを防げた。


 次の瞬間には、隣にシエラとアーシャ、それにカゴリア公爵が降りてきた。


「アーシャ!? それにシエラも! よくやってくれた!」

「へへん! あたしとシエラにかかればこんなもんよ!」

「さすがだ。だが、まずはカゴリア公爵」


 俺は斧はそのままに、カゴリア公爵へと首だけを動かす。


 彼は両足をガクガクとさせていて、顔色は真っ青だ。


「な、なんだね! 僕はカゴリア公爵! 由緒正しい名門貴族で……」


 ズバン!


 俺はハルバードを彼の足元に振り下ろした。

 彼のベルトだけが斬れ、ズボンがストンと落ちる。


「カゴリア公爵」

「は、はひっ!」

「すぐにカゴリア騎士団に降伏をさせろ。でなければ貴様がそのベルトと同じになるぞ」

「マーカス! 降伏だ! すぐに降伏をしろ! 早く!」

「……かしこまりました。降伏のドラを鳴らせ!」


 その音が響き続けるにつれて、戦場の喧噪は徐々に落ち着いていく。


 すると、アーシャが近付いてきて、俺に囁く。


「ユマ様。皆期待してる」

「ああ、分かっている」


 俺は周囲に向かって片手を突き上げる。


「我々の勝利だ! 勝鬨かちどきをあげろ!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」

「ユマ様最強!」

「グレイルこそが最高だ!」

「一生ついて行きます!」

「最強のカゴリア騎士団を打ち破った偉業だ!」


 周囲の者達はそう口々に言い立てて、戦が終わったことを喜ぶ。


 それから、カゴリア騎士団は全て戦闘を停止、武器を捨て、俺達の勝利となった。



 ちなみにどうしてカゴリア公爵があそこに来たかと言うと、アーシャとシエラが魔法で姿を隠して捕らえてくれたからだ。

 カゴリア公爵は騎士団に絶対の自信を持っている。

 なら、その姿を見に来ようとするだろうと思ったのだ。

 それに、俺が敗れる様を見たいという想いや、カゴリア騎士団がいかに強く、素晴らしい雄姿だったかを王女に伝えたいのではないか……とも思った。


 今回、アーシャやシエラはあまり活躍する場所がなかった。

 だからこそ、カゴリア公爵捜索という任務を与えて、成し遂げてくれたということだ。

 もちろん、カゴリア公爵領から偵察兵などを色々と引き戻していたのも、彼を捕らえられればすぐに終わるからだと思っていた。


 ということがあり、戦後の処理をこれからする。

 敵の武器は全て取り上げて俺達が回収し、落とし穴をそのまま埋めてもらう。

 当然、全員生き埋めなんてことはしない。


 それから、なんとか生きていたヴォルク殿の元に向かった。

 彼は臨時で設営された天幕のベッドで寝ていて、斬られた跡の包帯から血がにじんでいた。


「ヴォルク殿、この度の助力、感謝する」


 俺はそう言って彼に頭を下げる。


 彼はのそりと起き上がり、高らかに笑う。


「ばぁっはっはごぶっ!」

「ヴォルク殿!?」


 俺が顔をあげると、彼は笑ったかと思ったら血を吐いていた。


「ヴォルク様!」


 彼の部下が慌てて駆け寄るが、彼は気にするなとジェスチャーをする。


「この程度では儂は死なん……。しかし、助けたと思ったらまた助けられてしまったわ」

「いや、あれは関係ないだろう」

「そうでもないわ。まったく……いつになったら返せるのやら」

「もう返してもらっていますよ」

「それでは儂の気が済まんと言っておる。それに、こんな所で油を売っている場合ではない。ほかにもやることがあるのだろう?」


 いいから行けということで、彼に追い出されてしまった。


 俺が彼の天幕から出ると、シュウが近づいてくる。


「ユマ様。最終的なご報告があります」

「ああ、聞こう」

「こちらの最終的な死者は2049人。けが人は2305に上ります」

「そこまでの被害が出たか……」

「はい。ですが、カゴリア騎士団を相手にしてこれは快挙と言っていいかと」

「だな……」


 ほぼ同数のカゴリア騎士団相手にこれは本当に快挙。

 というか、ゲームのユマですら、カゴリア騎士団とぶつかるのはもっと後。

 国を統一するのかどうか……という時でなければ基本的には戦闘にならなかった。

 そんな相手とゲーム開始前に戦わされた身にもなってほしい。


 呂〇とはいえ、五虎〇将軍全員と同時に戦うようなものだ。

 普通に勘弁してほしい。


「まぁ……後はこれからのことだな」

「はい。とりあえず騎士団は重要なメンバーを残して、兵士は帰した方がいいと思いますが、いかがですか?」

「ああ、そうするつもりだ。だが、詳しいことはこれからキチンと詰めないとな?」

「ええ。カゴリア公爵には……自裁すら覚悟していただかねばなりません」


 ということで、俺達は後始末を終えた後に、それぞれの帰路につく。

 俺達はカゴリア公爵と騎士団の上層部を連れてグレイロードに。

 カゴリア騎士団はカゴリア領に。

 ヴォルク殿達はクルーラー伯爵領に。


 ということで、俺達は帰り、これから一番大事な話し合いになった。


 ただ、そこで、メア王女の恐ろしさを知ることになる。

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