第39話 斬り込め
トスッ。
風切り音はセルヴィー騎士団長を捕らえている男の眉間に突き刺さった。
「ぐぅ!」
「はぁ!」
騎士団長はその隙を見逃すことなく、敵を蹴り飛ばしてこちらに走ってくる。
「誰だ! いや、逃がすな! 捕らえろ! 魔法は使えない!」
レックスが慌てて叫ぶけれど、騎士団長は捕まらない。
騎士団長の身体能力が高いのもあるが、捕まりそうになると、捕らえようとした者が矢で撃ち抜かれていく。
「クソ! どこから飛んできている!? どこにいるんだ!?」
レックスが叫ぶけれど、見つかる訳がない。
森から矢を放っているうえ、これはきっとアーシャの隠蔽魔法を使った弓矢だろう。
戦闘中に飛んでくるそれに気づける奴はそういない。
「騎士団長!」
「ユマ様!」
俺は騎士団長を回収し、彼女の護衛をしながら森に向かう。
俺は一人でも問題ないが、彼女は囚われていたのだ。
近づいて見ると怪我などはないみたいだけれど、服の下はどうなっているかわからない。
急いで森に向かうけれど、敵の数は圧倒的でこのままいくと……。
「ユマ様。私のことは気にしないでください。ユマ様まで死んでしまったら申し訳が立ちません」
「ならん! お前は助ける! これまで父上に尽くしてきてくれた! 仕事を果たして続けてくれた! 忠臣を死なせるようなことを、俺はしない!」
俺はそう言いながら近づいてくる敵を斬り飛ばしていく。
「退け! 死にたい奴だけ来るがいい!」
剣を振るごとに敵は血しぶきをあげていく。
俺は返り血で塗れているけれど、この戦場の高揚感はそれを気にさせない。
敵は常に襲い掛かってくる。
それを斬り殺すことは出来るが、森に近づくことは遅々として進まない。
アーシャからの援護もあるのだけれど、それだけでは敵の数は……。
そう思った所に、物凄い熱風が肌を焼く。
「!?」
「ダーリン! お手伝いするわ! 邪魔する奴は燃えなさい!」
シエラは危険な上空にいて、そこから火と風の魔法を放つ。
その魔法は以前見た炎のロープのような魔法で、俺達の周囲にいる敵を焼き尽くしていく。
「あははは! その程度の敵なの!? 全部焼けちゃうよ!」
シエラはそう言って楽しそうに魔法を振るっている。
でも、今のままでは危険だ。
「シエラ! 助かったが下がれ! 狙われるぞ!」
俺は騎士団長を連れて森に走りつつ、シエラに叫ぶ。
「大丈夫よ! あたしはそんな簡単には落とされない! ちょっとは時間を稼いであげるわ! だから早く戻ってきてちょうだい!」
「あの魔法使いを撃ち落とせ! 弓隊! 何をしている!」
「しかし! 味方がいます!」
「狙える奴だけ撃て!」
「かしこまりました!」
レックスがそう叫ぶと、敵の弓隊からまばらな矢が飛んでくる。
しかし、その弓はシエラに届く前に弾き飛ばされていた。
「うふふ、そんな程度の矢じゃあたしには当たらないわよ? それに……」
それからすぐにシエラに向かって放たれる矢は減っていく。
どうして……ということであれば、シエラを狙っている矢を放っているところに矢が打ち込まれている。
「アーシャがシエラを守ってくれているのか」
「すごいですね……申し訳ありません」
「騎士団長にはずっと助けられてきたのだ。気にするな」
それから俺はシエラの魔法に助けられながら森に到着する。
「では中に入っていろ」
「かしこまりました」
俺は騎士団長の縄を解き、森に進ませる。
彼女が森に隠れるのを確認してから、俺は再び敵に向かう。
しかし、アーシャとシエラが来てくれているとはいえ、3対1500……どこまでやれるか。
普通に考えたら撤退かもしれない。
だが、セルヴィー騎士団長が逃げる時間は考えておかないといけない。
「なら……これか
「一人にして申し訳ありません。なんとか間に合いましたか?」
「シュウ?」
俺が敵に向かおうとすると、シュウが森から出てくる。
彼の側にはすぐに入ったはずの騎士団長もいた。
「情報員が緊急で来たので、急いで戻ってきました。歩兵300しか連れてこれませんでしたが、使ってください」
「ああ、助かる。これで少なくとも逃がすことはないだろう。ついてこい! 勝利はすぐそこだ!」
「おおおお!!!!」
俺は兵士達を連れて敵陣に再び突撃する。
300の兵士でもいればある程度の戦闘はできる。
それに、ただの300人ではない。
ユマ・グレイルが率いる300人の兵士。
並大抵の敵に止められることはない。
「陣形を立て直せ! 数はこちらが勝っているんだ! クソ! 矢が邪魔だ!」
アーシャは時折レックスを狙っているが、ギリギリの所で剣で弾かれている。
だが、そのお陰で敵の動きが悪い。
「あはは! 構える余裕があると思うのかしら!?」
そして、ある程度構えて俺達が突撃する少し前にシエラが魔法で敵を攻撃してくれた。
「ぐあああああ!!!???」
「熱い! 熱いぃぃぃいいぃぃ!」
そんな悲鳴と共に陣形は乱れる。
動揺する敵兵士達に向かって、俺は……いや、俺達は突撃する。
「さぁ邪魔は居なくなった! 斬り込め!」
俺は先頭で敵陣に斬り込む。
「無理だ! 強すぎる! レックス様! ささえきれぎゃあああ!」
「どうやったらこんな奴らに勝てるんだ! レックス様! レックス様ああああ!!」
「もう無理だ! 隊長もやられた! 逃げろ! 逃げろ!」
「ここで逃げないと死ぬぞ!」
敵は今さらながらに逃げようとする。
だが、バメラルの村であんなことをしておいて、逃げられると思うのだろうか。
「すり潰せ! 敵を決して逃がすな!」
俺はそう言いながら敵陣を斬り裂き続けるけれど、流石に敵の後方は逃げ始める。
このままでは逃がすか、そう思った時に敵陣の奥から騎兵が現れた。
敵の増援か?
そう思ったけれど、味方だった。
「ユマ様! お待たせしました! すぐに合流します!」
彼の大声は敵陣の向こう側にいる俺にも届く。
「ヴァルガス! 敵を逃がさなければそれでいい!」
「ユマ様! かしこまりました! 拡がれ! 包囲して誰も逃がすな!」
後は敵をすり潰すだけ。
それから少しして、俺はレックスまで後少しという所にくる。
レックスは俺を見つめて声高らかに宣言した。
「ユマ・グレイル! 自分と一騎打ちをしろ!」
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