第26話 ハムロ伯爵領へ
俺は初めてセルヴィー騎士団長に魔法を習った日の夜、父上に呼び出されていた。
父上の他にはシュウとアーシャもいる。
「何かありましたか?」
「ああ、これを見ろ」
そう言って父上は俺に手紙を差し出してくる。
内容を確認すると、近くのハムロ伯爵の領地で武芸大会を開くから、俺に出てみないか。
ということだった。
シュウとアーシャにも内容を告げる。
「危険です。ハムロ伯爵は急進派です。どのようなことを仕掛けてくるか……」
「わたしはユマ様が行くなら行く」
「と、言うことらしいが、どうする?」
3人がそんなことを言ってくるけれど、俺としては一択だ。
「行く」
「ユマ様!?」
「ついてく」
「そうか。分かった」
「そんな! 2人とも、簡単に納得しすぎです! 僕にも納得できるように説明してください!」
「説明と言ってもな……シュウ。俺は強い奴と戦いたい」
「は……はい?」
「俺は強い奴と戦って、最強になる。そうしなければ、これから生き残れないかもしれない」
俺がそう言うけれど、シュウは納得していない。
「しかし、それで死ぬかもしれないと!」
「大丈夫だ。その程度では俺は死なない。派閥同士で争っていると言っても、お互いに手出しをする暇はない。あいつらも、ここでグレイル領とことを構える気はないはずだろう?」
「それは……彼らも近隣の国と結構争っていますからね」
「そうだ。ここで俺を殺して、グレイル領が報復に出るようなことになれば、奴らは滅ぶ可能性すらある。そうだったな?」
「はい」
「なら、問題ない!」
「しかし、ユマ様にもしものことがあったら……」
シュウはそう言って心配してくれる。
そこまで考えてくれるのかと、嬉しくもなった。
彼を安心させるように答える。
「俺は強い。だから心配するな。それに、信頼のおける護衛もちゃんと連れていく」
「……分かりました。僕もできることをさせていただきます」
「ああ、頼んだぞ」
それから、護衛を何人にするかということを話し合い、来週には出発することになった。
******
「結構遠いな……」
「だね」
俺達は今ハムロ伯爵の領地を目指して移動している。
護衛をそれなりの数つけるということで、20人もつけてくれた。
なので、俺はアーシャとシュウと共に馬車に乗っていた。
俺の正面にアーシャ、その隣にシュウで俺の隣は空いている。
旅路はかれこれ5日目で、結構遠い。
ただ、そろそろ到着するためか、かなりの数の人が見える。
観光目的で来る者達、商機があると来る商人達、強者を勧誘するために来る貴族達。
各々がそれぞれも目的を持って進んでいる。
ぼんやりと遠くの木々を人に影響がないように魔法で斬っていると、ある紋章が目に付く。
「あれは……」
「どうかした?」
「いや……隣の領地の紋章でな」
「隣……ジェクトラン男爵領?」
「ああ、そうだ」
ジェクトラン領。
そこは主人公が生まれる場所。
そして、主人公であるレックス・ジェクトランが成長し、俺を殺しに来るかもしれない奴が乗っている馬車だ。
ここで襲えば主人公を殺せるかもしれない。
でも、そんなことをしたら主人公の代わりにこの国の全てが敵になるかもしれない。
だから、俺にはただ見ていることしかできない。
というか、今のところ俺の正面でもじもじしているアーシャとだって仲良くなれたのだ、多分。
だから、主人公とも仲良くなれるかもしれない。
この大会のどこかで会えたら少し話してみるか……。
来ているのかわからないけど。
「ね、ねぇ」
「どうした? アーシャ」
「と、とととと……とと」
「と? ああ、止まった方がいいのか?」
俺がさっきからもじもじしていたことを察してそう言うと、彼女は首を振る。
「違うのか? ならどうしたんだ?」
「そ、そそそ……」
「そ? 空がいい天気だな」
「ち、違くて……」
「ではどうしたんだ?」
彼女の顔はとても真っ赤になっていて、何か俺は怒らせるようなことをしてしまっただろうか。
そう思うと、俺の顔が真っ青になるように、血の気が引いていくのが分かった。
「そ、その……」
彼女はそう言ったきり、顔をうつむけて黙ってしまった。
「だ、大丈夫か? 体調が悪いなら急いで街まで……」
「(ブンブン)」
しかし、彼女は首を横に振るだけでなんだかわからない。
やっぱり俺何かやらかしてしまったのだろうか。
そう思っていると、シュウが見当違いなことを聞いてくる。
「ユマ様。隣の席は座ってもいいでしょうか?」
「ん? ああ、俺に気を使って1人にしてくれたんだろう? 別にどこに座ろうがいいぞ」
「なるほど、ありがとうございます。アーシャ殿。私は少しこちらの席を広く使いたいので、移っていただいてもよろしいですか?」
「!?」
アーシャが顔をあげてめっちゃシュウを見つめている。
ええ? なにこれ……。
そう思っていると、アーシャがすっと頭を下げたあと、俺の隣に音もなく座る。
「ありがとうございます」
シュウはそうにこやかに笑うけれど、特に広く使うようなことはない。
アーシャはというと、なぜか手と手が触れそうな距離をずっとキープしていた。
距離感は流石だと思うけれど、アーシャの細身ならもっとゆったりできると思うのに……。
まぁ、流石に命は狙われないだろうと思えるので、魔法の訓練をしながら俺達は街を目指す。
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