スクールカースト最強でモテにモテまくった女子が卒業後に地獄を見て、そこから這い上がるお話。
序章 ではスクールカースト上位者はどう振舞えば、スクールカーストのあまり高くない子たちが過ごしやすい学生生活を送れると思う?
序章 ではスクールカースト上位者はどう振舞えば、スクールカーストのあまり高くない子たちが過ごしやすい学生生活を送れると思う?
プロローグ二つ目に入ります。
──はいちょっと待ってください。ここで読むのやめて出て行かないで。
(あなたの腕をつかんでガジガジと引く私……)
もうちょっと私に付き合って欲しいです。
早く亜香里さん、用意してっ!
はい、というのは、ここが私の一番言いたいことだから。
せめてここだけでも読みきって出て行って欲しいです……ではでは。
《ここは亜香里の夢の中。雨上がりの夜、暗い住宅街の中。まだ知らぬ背の高い、きっとステキな男子◆◆君と歩いている。出てくる〇〇は、亜香里がかつて不必要に大嫌いキャンペーンをしてしまった男の子の名前》
自分たちがスクールカースト上位に君臨すれば、当然誰かは下位に落ちる。それを昔は何も考えていない、もしくは、ただの弱い奴だから悪い、としか思っていなかった。
けど社会と同じで強者がいれば必ず弱者はいる。
これは仕方のないことだ。
けど仕方がないからと言って権利や尊厳まで奪われ尽くすことはない。
学校というコミュニティが存在すれば必ず生まれてしまう目に見えない上下関係。
どうすれば下位者は息苦しくなく暮らすことができたのだろう。
学生時代には微塵も考えたことのないこの考えに、何を今更?と思われるかもしれない。
「じゃあさ、どうしたらスクールカーストのあまり高くない子たちが過ごしやすい学生生活を送れると思う?」
私は◆◆君に質問を投げ返してみた。
上位者である私よりかつて下位者だった◆◆君の方がその答えを持っているかもしれない。
しばらく沈黙は続く。何かを考えているのか、それとも私と同じく、答えは見当たらないのか。
「ちょっとだけ気にかけて、労わってくれればそれでいいんだと思うよ」
下位者と上位者が一緒に遊ぶことすら難しい。体力的にも違うし、趣味や趣向も違う。そこを無理に埋めることはできないし、どちらかがぎこちなくなる。無理をしないとついていけないのはお互い違うから、やっぱり別世界の住人同士。だけど、ほんの少しずつだけなら労わり合うこともできる。
「小学校の時、僕あんな感じでしょ。そうしたら当然いじめられてしまう。けど、その当時のクラスメイトだった一番やんちゃだった子が、ある時から僕のことを『キャプテン』て呼び出したんよ」
「キャプテン?」
「うん、何かの漫画のキャラクターか何かかもしれないんだけど、実際のところは分からなかった。けど、運動神経が鈍い僕に何か失敗した時、本当だったら『鈍臭いねんアホ』とか『もうこっちのチーム入るな』とか悪口や罵声を浴びせてくるんだけど、その子がさ『キャプテンにそんなこと言うな!』って言ってくれたんだよね」
子供は残酷な側面がある。傷つくことを平気で言い放つ。それが子供とも言えるかもしれないけど。
「そんなことが三回、四回とあると、やんちゃな子につられて周りもキャプテンて僕に言い出す。ひとり言ったらまたひとりがキャプテン!また1人がキャプテンて空気読むのがうまくてカースト上位者に近い子たちからそう言い出す。そうしたら、やっぱり鈍臭いことをして『アホか!』って言われていたら、本気で数人が『アホ言うな!』と言い出したんだ」
私は横で何となくピンときた。私が〇〇にしたことの逆を言っているんだ。
「ある時プールの授業の前にさ、ちょっと恥ずかしい話するけど大丈夫かな?」
照れているような苦笑いのような顔をこちらに向けた。『うん』と頷く。なんとなく察した。お下の方の話だろう。何でも来いだ。そういうのは強い。
「お手洗いを済まして手を洗っていた時に……前のところに凄く嫌な感じに水がかかったんだよ。まさにその」
「ああ、分かる分かる」
最後の一雫タラリっとなったような後、みたいな水の跳ね返りだろう。あれは嫌なものだ。女子でもパンツスタイルの時にあの跳ねは変な誤解を生みそうになる。
「スクール水着って意外と濡れている箇所が分かるんよね。それを前の学年のときに僕をからかっていじめていたやつに見つかって……」
「言われちゃったんだ」
「うん、『違う!これは手を洗ったときの跳ね返りだ』って言ったってもうダメで、一方的に決めつけて汚い奴だって晒し上げ状態にされて」
「うん」
「通る子通る子に、『見てあれ? お漏らしやで! ◆◆がお漏らししとる!』って言いまくられていた。多分もうあと一分で泣いていたと思うよ」
今からすればそんなことで泣いてしまう◆◆君がとても可愛い。けどあの時にしたらきっと今後の学生生活を左右するような大事態だったと思う。
「そしたら、『やめろや、お前関係ないやんけ』って」
「一番やんちゃな子が割って入ってくれたの?」
「ううん、違う」
「?」
「二番目の子が割って入ってくれたんだ」
何となく答えは分かっていたが、その答えは私の想像を上回っていた。
二番目の子、つまりスクールカーストトップの子ではなくて、トップから影響を受けた子が◆◆君を守ったんだ。
それだけ波及効果が大きいということだった。つまりそんな大層なことはしなくてよかった。
トップはほんの少しだけ皆の前で弱い子を庇う仕草をすれば、後は波及して勝手に同じかそれ以上のことをしだす。それが段々と大きな波に変わっていき、良い方向でムーブメントを起こすんだ。
「面倒くさいこともあったけどね。合唱コンクールのときとか、『キャプテンだから』って指揮者にさせられたりとかね」
また困ってるように笑っている。
「けどさ、よく『やったほうは忘れているけど、やられた方は覚えている』ってあるじゃん」
「あー! それ私よく言ってるやつ」
あれ?◆◆君にそんな話したっけ?ってなるけど全く覚えていない。多分言ってない。◆◆君は◆◆君なりに知っていることなんだろう。
「良い方もそうなんだよね。僕は未だにそうやって助けてもらったことを忘れていない。ずっと覚えている。名前もあの時の場面も。きっと死ぬまで覚えている」
「……そっかあ」
心がジワーッと痛くなる。悪い痛みではない。解らされた感覚だった。
ついつい上のものが下のものを……って先生や親が言うと、気が合わない、遊び方が違う人間を四六時中かまっていないといけないのか?なんて思いがちで、『ダルい!』ってなる。
そして全部やめてしまう。そうじゃなくて、ちょっと、ほんのちょっとした気遣い、心遣いを皆に見せるかのようにしてあげれば、それでいい。後は勝手に波及効果で周りがどんどんと動き出す。それだけのことだったんだ。
──良い方も、たったそれだけのことだったんだな。
私は悪い方を〇〇にやってしまった。
本当に申し訳ない。結果的に彼は強く立ち直って、私よりずっと建設的な人生を送っているけど、一歩間違えたら私の繰り出した危険な嫌悪キャンペーンの波及効果で、人生そのものを潰していたかもしれない。
…………本当にごめんなさい。
「あ、角谷さん(亜香里の苗字)、お月さん見て」
「え?」
〇〇に対していきがることなく、そうかと言ってへりくだることもなく心の中だけではあるが謝れたあとに、◆◆くんが月を指差す。
月は大きな満月だった。それだけじゃなかった。月の下あたりにうっすらと弧を描く何重もの光の線が……
「こんな時間帯に、虹?」
見たことがなかったので、目を疑った。
「ムーンボウだね。見た人は幸運になるんだよ」
私はさっきの雨に濡れて鞄の中で水濡れによる損傷がないか確認ついでにスマホを取り出して検索してみる。
動作はちゃんとする。問題なし。
光の明るい暗いの条件があって非常に珍しい。そして確かに書いてある。
『見た人にとって大きな変化の前触れ』『幸せを呼ぶ』
――◆◆くん……過去にやらかしてしまった私が幸せになんてなれるのかな……て、あれ?
「……ちゃん」
「……?」
「お姉ちゃん」
お?お姉ちゃん……?
私のことを「お姉ちゃん」と呼ぶ声……
あ、世界が、白い……光?
これなの?時が来たの?それとも、私、幸せにたどり着いたの?
「お姉ちゃんてば。起きてよ。試合始まっちゃうよ」
「へえ?試合って?」
突然の私を呼ぶ声に間抜けな返事をしてしまった。
その次に見えたもの……それは、無数の鉄骨で補強されてある天井、こげ茶色の天井面、LEDのライトたちが目に入る。
ああ……そうだ。
体育館である。
幸せの……ムーンボウの光じゃないんだけど? 天井のLEDなんだけど……
そんな幸せが突然やってくるわけないやん。
まあ分かっていたけど。
そんなことが現実に起こりうることなんてないと分かっていたけど……
私の愛する、待ち望んだダーリンとの幸せが……そこにある!
いやいや、違うし……ただのLEDだし。
「そうじゃないんだよ~」と心の中で呟きながらもう一つ視界に入ってきた存在を認識する。阿須那、私の妹だ。
「結構寝入ってたみたいだけど、大丈夫?」
「ああ。阿須那……後光が射している」
「何言ってんの?」
あしらわれてしまった。
阿須那に頼まれて地域のママさんたちがやっているバレーボールサークルに臨時で助っ人をお願いされて私達は来ていたんだった。
なんでだろう……なんでこのタイミング?……寝不足かなあ。
確かにここ最近ずっと不摂生極まりない生活をしてきて、昼夜逆転のその先へ……のような生活をしてしまっていた。
どうしても悪い環境にいると、その悪い癖が付き、そこからは抜けにくいものね。
上体を起こして伸びをする。
(あの一緒に語り合っていた男子って……すっごいステキそうだったんだけど……誰だったんだろう?)
(ま、夢の中の話か……)
「大丈夫?さっきの練習試合で疲れたかな? もしダメだったらあがらせてもらう?」
そう言って背中を軽く摩ってくれる。
気をよく使ってくれる優しい妹だ。
「うん、昼夜逆転がなかなか直らないね。それで一瞬寝落ちしてしまった」
「どうする?(あがっても)いいよ、私は?」
ポンポンと軽く腰を叩いてくる。
そう言っておきながらの、しっかりせいってか?
「いや、これで大丈夫と思う」
「本当に?」
心配そうでもあるが、少しいたずらっぽく笑いながら聞いてくる。
「うん、任せて。全力でやるわ」
「オッケー」
私たちの出番だ。
くっそ~っ! 夢だった私の幸せ! 取り逃した悔しさ!
ここで晴らしたる~っ!!
「そーれ!」
「ハイ!」
「角谷さん!」
「ハイ!!」
私は鈍った身体に喝を入れ、自分の持つ体感覚のままに両手を後ろに持っていき、膝の動きと下半身のバネの感覚を使って飛び上がり、空中を舞うボールを的確にとらえ、右手で強く打ちぬいた。
私の打ったアタックは相手の後衛のおばちゃんたちが反応するよりも早く、ちょうど中衛と後衛の間の床に叩きつけた。ボールは一瞬で後衛の後ろにバウンドして転がっていった。
「角谷さんナイス!」
「凄いね!」
ねぎらいのハイタッチを自分のところのメンバーとしていく。
さっきから相手の陣営から何度となくこの「えーっ?」「うっそー?」「やる子おるやん」っていう、お姉さま方々の賛美と驚愕の顔を見かけるけど、私は別に元バレーボール部でもなかった。
申し訳ないけど、バカだし、たまに夢想もするけど、運動神経は未だに抜群にいいのよ。
▽▼▽▼
お父さんはどこかに寄ってくると言って車を置いて帰った。帰りは阿須那が運転して帰ってくれる。
阿須那は社交的。それが証拠にこのように地域のママさんバレーボールに誘われている。学校でも学生会の仕事を高校の時はやっていた。
多分学生会の地域活動の中で、ママさんバレーボールをやっている人と付き合いができて、そこから誘われての今日になったんだと思う。
人付き合いも良くて愛想が良い。私から見ても誰とも打ち解け合える雰囲気の持ち主だし、冗談も上手い。
実は家では結構辛口、特に不出来な姉の私にはかなり……なんだけど、きっと他の人たちからすれば賢く、明るく優しく、困ったことがあれば率先的に解決に向かおうとする、そんな子だと思う。私も辛口に言われて酷く悪い気がしたことはほとんどない。
運動神経はと言えば、それは完全に私になる。
阿須那はあまり運動神経が良いとは言えない。
だから誘われた経由ルートは推測がついても、どうして参加承諾したのかは良く分からない……あんまり上手じゃないのに。今日でもレシーブで上げるのがやっとだったもん。
(私のためかな……運動不足解消ってやつ?)
助手席で流れる住宅地の景色をボーッと眺めていたら、私への癒しの提供のため?という考えに至った。
別にバレーボールなんて阿須那は遊び程度に学校でしていただけ、あるいは授業でのみ。それに運動神経が良いわけじゃないのに、ただ誘われたからだけで参加するのだろうか。
私もそんなにバレーボールが好きというわけではないけど、運動神経は学生時代から良かったし……そしてとにかく目立っていたなあとは自分で思う。
目立つ目立つ……目立つ。
「そこのお家、大きいよね」
私が見ている方角から察して阿須那が運転しながら助手席の私に話しかけてくれる。
「うん……ずっと壁が続いていたから、え?まだ続くん?て思った」
目立って大きなお屋敷だった。
小・中学校の校区としては隣なので、そんなにしょっちゅうは来たことがない。
けど散歩や歩いて天王寺に抜けたり、ちょっと運動がてらここの最寄りの駅に降りてあえて家まで歩いて帰ったりしていたから知らないわけではない。
そしてこの辺りはすごく入り組んでいて他所からきた人は多分嫌がるし、迷路みたいで歩いて抜けきれない。
普通に行きどまってしまうところや、長屋の裏路地に入ってしまったりする。高級住宅地でありながら再開発が遅れてしまうのは多分このややこしさのせいなんだろう。そこを楽しんで私は歩く。そして。
――私はまったく別の目的で、この迷路を利用したこともある。
多分阿須那が車で一方通行の都合上こういう走り方をしているんだろう。徒歩ならもっと単純でシンプルなルートで、うちにたどり着けるけど、時として車の場合はグルグル回らなければいけないことがある。
「ここの家ね、確か前にタクシーで帰った時にこの道通ったのよ。その時に運転手さんが言ってた。この辺りの地方財閥の家だって」
「へぇ」
財閥……とりあえずお金持ち、ということなのかな。
それぐらいしか私の頭の中では、知識としてはなかった。
車はそのお家に沿って走るように四つ角を左折する。
塀の高さは成人男性二人分はゆうに超えている。
材質は石かな……今時石は無いのかな?
石積みのような塀は昔の『岩石削って積んでます』的なものではなく、平たい石が何重にもミルフィーユのように積まれていて、その色彩は淡い茶色を基調として、赤茶色、こげ茶色、ほぼ白色と深みがあり奥行を感じさせるものとなっている。
(古臭さがない……財閥の人の家ってもっと古臭いイメージだったのに)
実は私の住んでいる家の近く、この今車で走っている辺りは豪邸が立ち並ぶ地域だ。
最近はどこも持ち堪えることができなくなってきたのか、あるいはこの少しばかりの景気上向きのご時世だからなのか、小学校の時に見かけた豪邸たちは戸建て住宅や分譲マンションにどんどんと変わって行っている。デベロッパーが買い取って切り売りするんだ。
私達の住んでいる家はまさにそれ。しかも切り売りブームが始まって初期ぐらいのだからもう結構古い。
1回目の大規模修繕は済ませた。本当は二回目ぐらいをしなくちゃいけないのかもしれないけど、これといって致命的なところはどこもないから騙しだまし使っている感じ。
――まだここまで大きなお屋敷が残っているんだなあ。
塀の向こう側にはきっと樹齢何百年なのかと思うような太く大きな木々がこちらを見下ろしていたり、「勝手口」と書かれた出入口は私たちの住んでいる家の玄関と変わらない大きさがあり、塀の雰囲気合わせた近代的な木目調の、おそらく電動でスライドして開くドアがあったりと、この塀と勝手口だけでうちの家が買えてしまいそうだ。
ちなみに玄関どんなんだっけ……玄関見落としてしまった。途中からあまりに大きいので違和感があって注視したんだ。
まあどっちにしろ私の人生にはこんなお屋敷は何の関係もないのだろうけど。
もし、こんなお家のご子息様が、すっごい性格の良い、フェイスラインのシャープな、少女漫画から飛び出したみたいな王子様キャラだったとして、そんな彼が──
「君を一生離さない。僕は君のために生きる」
なんて言われたら……
「♡」
そんな訳ないよね!
私も案外メルヘン少女なんだなって改めて自嘲してしまう。
散々汚れた生活をして、世間で言う所の『ヤリマン』と侮辱される私なのに……
そう思った時に、やっと塀は途切れたのだった。そこからは次から次へと家は隣へ隣へ、まるでトランプカードを素早くくるかのように変わっていった。
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大阪市内の帝塚山、北畠、東天下茶屋周辺を描きました。知っている方がいたら嬉しいです。ありがとうございます。第四話でも路面電車の風景を描写しています。
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