第30話: 闇の中の問い


夜の冷たい風が、シノンの頬を切るように吹き抜けていた。彼は街の静かな通りを歩いていたが、その心は重く、どこか落ち着かない気持ちに包まれていた。くるみのこと、よもぎの奇妙な言動、そしてあの「白装束の人物」の存在――すべてが彼の頭の中で絡み合い、何かが動き出していることを強く感じていた。


「何が起きているんだ…」


シノンはそう呟きながら、再び思考の渦に飲み込まれていった。くるみの異変をどうにかして解明しようと考えていたが、彼自身もその運命に巻き込まれているのではないかという感覚が強まっていた。


突然、彼の前に人影が現れた。暗がりの中からゆっくりと現れたその姿――白装束の人物だった。


シノンの心臓が一気に高鳴る。目の前にいるその人物が、間違いなく全ての鍵を握っている存在だ。くるみやよもぎに関わる謎、そして「運命」と呼ばれる力のすべてが、この白装束の人物に結びついている。


「お前か…」シノンは白装束の人物をじっと見据えながら、震える声で言った。「お前が全ての答えを知ってるんだろう。くるみのこと…運命のこと…何が起きているのか教えろ!」


だが、白装束の人物はシノンを無言で見つめ返すだけだった。彼のフードの奥に隠された顔は全く見えない。まるでシノンの存在を確認しているかのように、冷たく、静かにそこに立っていた。


「答えろよ!」シノンは一歩前に出て、声を荒げた。彼の中で抑えていた感情が爆発しそうになっていた。「俺たちはどうなっているんだ?くるみは何を背負わされているんだ?お前がすべて知っているはずだろ!」


その瞬間、白装束の人物はゆっくりとシノンの方に手を伸ばした。シノンは反射的に身構えたが、その手には何かが握られていた。白い紙――それは、何か見覚えのある模様が描かれたお札だった。


「お札…?」シノンは一瞬、思考が止まったが、その次の瞬間、白装束の人物が素早くシノンの額にお札を貼り付けた。


「何を…!」


シノンが叫ぼうとしたその瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。お札が額に貼り付けられた瞬間、彼の体から力が抜け、まるで意識が深い闇に引きずり込まれていくように感じた。


「くそ…!」


シノンは何とかして抵抗しようとしたが、体はまったく動かない。視界が暗転し、意識が遠ざかっていく。最後に目に映ったのは、白装束の人物が静かにシノンを見下ろしている姿だった。


そして、次の瞬間、シノンの体は完全に力を失い、その場に崩れ落ちた。



シノンが次に目を覚ましたとき、目の前には白い天井が広がっていた。まぶたが重く、頭がぼんやりとする。体中に広がる疲労感が、彼に何かが起こったことを伝えていた。


「ここは…」


シノンはゆっくりと体を動かそうとしたが、腕には点滴が刺さっており、動くのもままならない。病院――自分が病院のベッドで寝ていることに気づき、記憶が一気に戻ってきた。白装束の人物、額に貼られたお札、そして気を失った瞬間。


「なぜ…俺がここに?」


倒れたはずの路地から、どうして病院にいるのか分からなかった。意識を失ってからの記憶は全くない。誰かが自分をここに運んだのだろうが、それが誰なのかまったく検討がつかなかった。


「気がついたんですね。」突然、柔らかい声が耳に届いた。シノンが視線を向けると、看護師が微笑みながら近づいてきた。「意識を取り戻して良かったです。あなた、倒れていたところを誰かが運んでくださったんですが、その方は何も言わずに立ち去ってしまったみたいで…。」


シノンは困惑した表情を浮かべた。「誰が俺を…?」


「それは私たちも分からないんです。ですが、3日間眠り続けていましたから、しばらくは安静が必要です。」看護師は優しく言いながら、シノンに何かを差し出した。


「ところで、これ、倒れていた場所で見つかったらしいです。あなたのものですか?」


彼女が手渡してきたのは、例のお札だった。シノンの胸に緊張が走る。お札には、あのペンダントと同じ模様が描かれている――前に白装束の人物が落としていったあのペンダントと。


「これが…」


シノンは震える手でお札を受け取った。額に貼られた瞬間、自分の体が完全に麻痺し、気絶してしまったことを思い出す。だが、このお札が今、手元に戻ってきたことに不安が募った。


「どうして…」


シノンは呟いたが、看護師はその言葉に気づかない様子だった。「ご自身のものなら、保管しておいてくださいね。お体が回復するまで、しばらくはここでゆっくりしてください。無理は禁物ですよ。」


そう言い残し、看護師は病室から出て行った。


シノンはベッドの上で、お札をじっと見つめたまま動けなかった。ペンダントに刻まれていた謎の模様と同じものが、このお札に描かれている。それが意味するものは、まだ分からないが、白装束の人物がこれに特別な力を持たせていることは間違いない。


「くそ…何が目的なんだ…」


シノンはお札を握りしめながら呟いた。白装束の人物が自分に何かを伝えようとしているのか、それともただ利用しようとしているのか、その意図が全く読めない。ただ一つ確かなのは、運命と呼ばれるものに自分が巻き込まれているということだ。。


「くるみ…」


彼女のことが頭をよぎった。くるみもまた、この運命に巻き込まれている。何が起こっているのかを解明しなければ、彼女を守ることはできない。それに、このお札とペンダントがどう繋がっているのかも明らかにする必要がある。


「3日間も眠ってたのか…」


シノンはベッドからゆっくりと体を起こした。3日間意識を失っていたことを思うと、焦りが募る。白装束の人物がこの間に何をしていたのか、くるみに何か危険が迫っていないか――その不安がシノンを駆り立てた。



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