第15話: 静かな共感
翌日。
午前の授業が終わり、教室は次第に賑やかになった。シノンがくるみの様子を気にしていると、教室の隅で一人静かに立っていた少女、宮乃ころねがくるみに近づいていった。ころねは学級委員長で、普段はあまり目立たないが、しっかり者でクラス全体のことをよく考えている。
「田村さん…少しお話しできるかな?」ころねは控えめな声でくるみに話しかけた。
くるみは一瞬驚いたが、すぐに静かに頷いた。「うん、もちろん。」
シノンは二人のやり取りを遠目に見つめ、そっとその場を離れることにした。ころねが何を話そうとしているのか気になったが、彼女に任せた方がいいと思ったからだ。
二人は教室の隅の方に移動し、誰にも聞かれないように話し始めた。ころねは静かにくるみを見つめ、その視線には優しさと心配が感じられた。
「田村さん、学校に戻ってきてくれて嬉しいよ。でも…無理してない?」ころねは慎重に言葉を選びながら尋ねた。
くるみは一瞬言葉に詰まったが、正直に答えた。「無理してるかもしれない。でも、戻ってこないともう行けないじゃない?…だから。」
ころねは優しく微笑んで、くるみの手をそっと握った。「そうだね。学校に戻るのは勇気がいることだと思う。でも、田村さんがこうやって戻ってきたこと、それだけで本当にすごいと思う。」
くるみはその言葉に少しだけ安堵した表情を見せた。「ありがとう、宮乃さん。私…ずっと不安だったから、そう言ってもらえると嬉しい。」
ころねはさらに続けた。「私も、実は人前に出るのが苦手なんだ。でも、学級委員長を引き受けたのは、みんなを支えたいと思ったから。それに、田村さんみたいに勇気を出してくれる人がいると、私も頑張れる気がするの。」
その言葉に、くるみは心が軽くなるのを感じた。彼女は自分が特別な苦しみを抱えていると思っていたが、同じように不安や葛藤を抱えている人がいることに気づいた。
「宮乃さんも…大変だったんだね。でも、そんな風に頑張ってるのを見て、私も励まされるよ。」くるみは素直な気持ちを伝えた。
ころねは頷きながら、くるみの手を優しく握り続けた。「お互いに支え合っていけたらいいね。何かあったら、いつでも話してくれていいから。」
くるみは静かに微笑み、ころねの優しさに感謝した。「ありがとう、宮乃さん。本当に…ありがとう。」
その瞬間、二人の間には確かな共感と理解が生まれた。くるみは、学校での生活が少しずつ楽になる予感を感じていた。彼女が戻ってきたこの場所で、再び安心して過ごせる日々が訪れるかもしれない――そう思えたのだった。
教室の外では、シノンが静かに二人のやり取りを見守っていた。彼は、ころねがくるみに寄り添い、少しでも彼女の心を軽くしてくれたことに感謝しながら、彼女たちを遠くから見守ることにした。
夏の風が窓から入り込み、教室の中に静かな空気を運んでいた。新たな友情の芽生えが、くるみの心に少しずつ光を取り戻していく予感を感じさせていた。
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