第1話: 夏の微熱
海辺の小さな町にある高校の夏休みが始まった。鈴木シノンは、いつものように朝のランニングを終え、町の小さなカフェに立ち寄った。17歳のシノンは、陸上部のエースとして毎日練習に励んでいたが、この日は特別に時間を作って、海を眺めるためにここへ来た。
冷たいジュースを飲みながら、シノンはふとした瞬間に視線を感じた。振り向くと、そこには田村くるみが立っていた。彼女はシノンの同級生であり、幼い頃からの友達でもある。長い髪を揺らしながら、くるみは笑顔を浮かべてシノンに声をかけた。
「シノン、こんなところで何してるの?」くるみは軽やかに問いかけた。
「いや、ちょっと一息ついてただけさ。」シノンはジュースを飲みながら答えた。「くるみこそ、どうしたんだ?ここで会うなんて珍しいな。」
「私もたまにはこうやって、のんびりしたくてね。」くるみはシノンの隣に座り、海を眺めた。
二人は幼い頃からの付き合いだったが、高校生になってからは少し距離ができていた。それでも、こうして顔を合わせると、すぐに昔のように自然と会話ができる関係だった。
「部活、順調?」くるみが尋ねた。
「まあね。でも、最近は少し疲れ気味かも。」シノンは笑いながら答えた。
「シノンが疲れるなんて珍しいじゃない。」くるみはからかうように言ったが、その声にはどこか優しさが感じられた。
シノンはそんなくるみの言葉に少し安心しながらも、どこか自分の中にある変化を感じていた。彼女に対する感情が、昔の友情とは違うものになってきているのだ。しかし、それをどう表現していいのか、まだ自分でも分からなかった。
「ねえ、シノン。」くるみが急に真剣な声で話しかけた。
「ん?どうした?」シノンは彼女の顔を見つめた。
「…いや、なんでもない。」くるみは一瞬ためらったが、結局何も言わなかった。
二人は再び静かに海を見つめた。波が打ち寄せる音が、二人の間の微妙な沈黙を埋める。シノンは、自分の中にある言葉にできない感情を抱えながら、ただこの瞬間を大切にしたいと思っていた。
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