まさか、本当に、偶然に、いや、必然に?
悠莉からの吹奏楽部への勧誘と進路を探るさりげない質問を交わし続けて3ヶ月。
夏休み前に回答した某教育会社の文理選択適正検査の結果が10月に返ってきたが、こちらも相変わらず悠莉と私は全く同じで、文系にも理系にも分類されないど真ん中だった。文系理系、どちらにも転べるし分野も絞れない検査結果だから、私の選択に目星をつけることはできないだろう。
(別に、悠莉は今まで通りにしていれば良いのに)
これまで何事も悠莉の意見が反映されてきた。もちろん、これは何事も主張しなかった私が悪い。その場で主張できるほどの意思も頭の回転もない私が悪い。
だから今回は、個々に考えようと伝えた。個々に考えると言ったって、悠莉はいつも自分で考えて答えを出していたのだから何も変わらないはずだ。それなのに、なんで私の選択肢が気になるのか、全くわからない。
「今日の帰りのホームルームで進路希望調査を集めます。みなさん、文理の選択と志望分野は埋めてますね?埋めてない人は帰りにまでに埋めてください」
ついに、この日がやってきた。12月初日。進路希望調査表の回収日。ここでの回答と期末テストの結果を受けて、三者面談で文系に進むか理系に進むか決定する。
「ねぇ、もういいでしょ?ボールペンで書いてるから書き変えられないし」
「……いいよ」
昼休み。悠莉が私の机までやってくる。手に持っている紙は自身の進路希望調査表だろう。私の選択を見るだけでなく、律儀にも自身の選択も見せてくれるらしい。
(さすがに完全一致じゃないよね)
私も黒いクリアファイルから調査票を出す。正直、悠莉の選択は見たくない。わざわざ見せてくれなくていいのに、と思う。同じ書道教室に通って、同じように上達したがゆえに、私たちは字さえも全く同じ。一文字違いしかない全く同じ調査表が並ぶのなんて見たくない。
「じゃあ、せーの、で出すよ。せーの!」
悠莉の掛け声に合わせて互いの調査表を机に出す。
鹿嶋悠莉
文理選択:理系
第1志望:理学系
第2志望:農学系
第3志望:生活科学系
鹿嶋悠妃
文理選択:理系
第1志望:理学系
第2志望:農学系
第3志望:生活科学系
一瞬、音が聞こえなくなった。昼休憩で、教室は1日で一番騒がしいはずなのに。
「……だね!一緒だ〜!理学系って広いけど何系?」
「え、あぁ、生物」
「わーい、そこも一緒だ〜!じゃあ来年は生物取るよね!さすが三つ子の魂百まで〜、双子だけど」
「……」
「どうしたの?」
「あ……いや……三つ子って3歳児って意味だと思うけど」
「そうだっけ?……そうだね。まぁいいや。お昼、向こうで一緒に食べる?」
「ううん、いい。狭そうだし」
「そう?遠慮しなくていいのに……じゃあ、またあとでね」
悠莉がスキップで去っていく。嬉しいのか、悠莉は嬉しいのか。私は正反対の感情だ。いや、感情すらないかもしれない。ただ呆然としている。全く同じ選択をすることが想定になかったわけじゃない。想定になかったわけじゃないけれど、まさか、本当に、偶然に、いや、必然に?
「……食べなきゃ」
私はクリアファイルに調査票を戻す。調査票の右端にはクシャリと皺が寄っていた。
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