第16話 矛盾
木々は枯れ、淋しげな風の吹き抜ける冬もとうとう終わりを迎える。冬の冷たい風に凍った滝は暖かい春の風に溶かされヒビが入り、水がするすると伝い始めた。山の泉の、張っていた薄い氷はやわらかな空気にほどかれていく。
みさきというらしいこの崖上にて、わたしの髪を揺らす風にひとすじ、ふたすじと温もりを感じさせる空気が混じるようになってきた。冬から春にかけて、あかりは毎日毎日朝から夕方までやってきた。おかしい。人間の生活に支障が出るのではと思いながらも、このわたしを受け入れるあかりを引き離したくなくて、何も言えない。
でも、つらくてもわたしたちは別れなければならないはずだ。あかりは人間である。わたしとばかりいてはいけない。そうどれだけ思っても、そんな心とは裏腹にあかりと触れ合ってしまうのだ。どうすればこのまま一緒にいられるのだろう。人間と化け物だからいけないのか。あかりがもし、わたしと同じような存在だったなら_。
そう思っては頭を振って掻き消す。この矛盾した私は、あかりと過ごす未来への憧憬を捨てられず、でも理性が引き止めもう黙って涙を流すしかなかった。あかりは心配そうに見つめてくる。
拒絶しようとした。手を伸ばし彼女をばんと突き放す。これでいいはずなのだ。でも彼女は優しくわたしの涙をぬぐった。ハッとして顔を上げた時の彼女の切なそうで悲しそうで、でも恍惚とした表情を見た時、実はあかりも同じことを思ったのではないかと期待と理性とそして憧れがわたしの頭を覆い尽くしたのである。
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