第3章エピローグ 犯人は

「で、ものの見事に出し抜かれたと」


 邸宅の執務室。

 書類と幾つかの貴金属が並ぶ大きな机越しにいるその男は滝のような汗をかきながら直角以上に深く頭を下げる。


「申し訳ございません。ユーリィム様」


「ったく、使えないね、君は。魅惑の魔力が付された絵画なんて滅多にない貴重な品なのに。話によればもう二度と同じものには出会えないとも聞くんだが?」


「何卒、挽回の機会を!何卒!!」


 この男は厳罰でも受けると思っているのだろうか。

 正直あの絵画は貴重な品だが必要だったわけじゃない。

 そんなもののために商才豊かな貴重な人材を潰すわけがないのに。

 ただこいつは商才はあっても芸術品の目利きについては少々ずれているのがわかっている。二度と美術品は扱わせないだろう。


「その前に、下手人は誰だ?見たんだろう?」


「……はい。前線から退き戦う力こそ衰えましたが夜目は全く衰えておりません。絵を燃やしたのは赤毛の少女でございました」


 赤毛の少女?


「この街では見ない顔でして、ただ炎の光にも劣らない鮮やかな紅い髪は目立ちます。何卒、捕縛し尋問と処刑の機会をお与えください」


 彼は昔は私の直衛を勤めていた腕の立つ剣士だった。とある事情から職を退いたが、長年私の傍に仕えて自然と学んでいた商売の知識は彼の商才を花開かせることになったのだ。


「いくつか聞く」


「なんなりと」


「そいつは何歳くらいだ?」


「15歳前後に見えました」


「どんな魔術を使った?」


「はい。突然電撃を受けて痺れさせられました。そして絵画は火の魔術で燃やされ、しかも絵にかけられていた水魔術の結界をいともたやすく突破する威力。信じられません」


「背丈は?」


「ユーリィム様の胸元くらいかと」


「……美人か?」


「幼さは感じましたが私の感覚では美人に属するかと」


 紅い髪の少女などそう多くはないし、電撃と火の2系統魔術が使えてその背格好で美貌があるという。

 街の美少女は全員ではないにせよ把握している。

 街の既存の住民の中には該当者は絶対にいない。ましてや魔術の2系統使いとなれば。


 そしてこいつの女に対する美的感覚は美術品に対するそれとは違い信用できる。


 つまりそいつは……


「デンデ。パスコを呼べ。あとゴッツもだ」


「はい!かしこまりました!」


 見習いの小太り少年が出ていく。


「恩を恩で返せとは言わないけどねえ。仇で返されては」


「は?」


 話してあげよう。東から連れてきた不思議な赤毛の女の子のことを。

 彼女を配下にできたらとてもうれしいんだけどねえ。


 そういえば、なんだったか。

 どうせ使うことはないだろうと思っていたとある骨董品のことが頭に浮かんだ。

 倉庫の奥で埃をかぶっている800年とも900年ともあるいは1000年前のものとも言われる魔術全盛時代に造られたというあの腕輪だ。

 その効果は既に確認済みだ。使い物になる。


 珍しいものというのは、収集しておくものだ。

 商人としての自分の性に、少しの感謝を向けた。


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 少々雲行きが怪しくなってまいりましたが、当然雨は降ります。どんな雨の降り方をするのか、ご期待ください。

 そして一人の人物と出会いましたね。彼は今後長らくレベッカと行動を共にしていくことになります。運命に導かれたのかそれとも…今後の二人についてご期待ください。



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