STAGE✦1!
✦第1話✦ あたし、天使☆悪魔学園に入学する!
カラーン──コローン──カラーン────
────とおくで
聴いていて不思議と落ち着く、そして心が洗われるように澄んだキレイな音色だった。
小学校のチャイムって、こんなんだったっけ?
ううん。違うよね。
カラーン、コローン、なんて、教会の鐘みたいな音じゃなくて、気の抜けるようなキーンコーンカーンコーン、って音だ。
4時間目の後のチャイムって、あたし大っっっ好きだわ。
今日の給食のあげパンとプリン、めっちゃ美味しかったな〜。
しかも余ったプリン、ジャンケンで勝ち取ったし。
2個食べられるとか幸せ過ぎ。
そんでもって、メインがカレーライスだなんて、もう最高じゃないの?
これで家に帰ったあとのおやつがケーキとかだったら、神様ありがとうございますありがとうございますって、全力で感謝する感じなんだけどなぁー……。
ふわふわ、ふわふわと、たゆたう意識。
「ん……」
あたしは、目を覚ました。
ゆっくりと、まぶたを開ける。
なぜだかわからないけれど、ずうっと長い間、何かの夢を見ていたような気がする。給食の夢とかじゃなくて。
……って。
「どえ⁉ ななな、何っ⁉ ココ! どこよ⁉」
あたしは、驚いてさけんだ。
だって。
──雲の上に、いたのだ。
ふっわふわで、もっこもこな感触の、雲の上で寝ていたのだ。
「……うそでしょ……」
見渡すと、あたり一面、雲、雲、雲。
見上げれば突き抜けるように澄んだ青空がどこまでも広がっている。
そして時折キレイな音を立てながら、金色の粒がキラキラと舞い落ちてくる──。
「…………」
しばしの思考停止ののち。
頭を抱えて、真剣に考え込むあたし。
約3分後。
ぽん、と握りこぶしを、てのひらに打つ。
「そっかぁ! ひらめいたよ! ドッキリ! ドッキリだよね! そう、これはドッキリです☆ だってあたし、昨日はちゃんと、夜9時半に寝たもん! お風呂入って歯みがいて、おとん(36)のくっさい靴下が廊下に落ちてたから、それを洗濯かごに入れてあげて……って誰も聞いてないわ! 何!? コレえぇ! 考えてもわかんないんですがあ! 誰かヘルプミィィイ!」
結果、あたしは大パニックになり、超長文でしゃべりまくったあと、大声でさけんだ。
すると、いつからいたのか、どこから現れたのか、金の首輪をつけた優美な黒猫が目の前にきて、あたしににっこりとほほえみかけながら(猫だけど、あたしには表情があるようにみえた)言った。
「
「死んだ……」
黒猫がしゃべったことよりも、自分が死んだなんて言われたことにまず驚いた。
だって、誰でもそんなこと、いきなり言われたら驚くよね?
トーゼンだよ。
「何を言うんだ!」って、場合によっては怒られちゃうかもだよ? いかつ〜い、怖いオジサンとかに!
「なっはっは! んなアホなぁ! そんなことないよね? 冗談だよね〜?」
「冗談なんかじゃないクロ」
……ひとつだけ、引っかかることがあった。
それは、あたしには、記憶が残ってるってこと。
給食を食べた後の昼休み。みんなで鬼ごっこをしていたときのこと。
あたしは、捕まらないように校庭の一番高い木に登ったのだ。
足を踏み外して、視界がぐらりと反転し、目の前に広がった景色は一面空。
そこまではっきりと覚えてる。
テレビを消したように、ぷつんとそこで途切れる記憶。
今思えば、高い木に登るなんて、バカなことしたわ。
あたしはサルかなにかか?
ノーン、華のJS! 女子小学生です!(てへ☆)
……危ないからね。ゼッタイ登っちゃだめ!
良い子も悪い子も、ゼッタイにマネしないでね。
でも、そのことを覚えていること以外は、何がなんだかわからない。
ましてや、ここが天国だなんて。
いきなり死んだなんて、そんなのってないよ!
「天国ですってえ! そ、そんなの認めない! 信じられるワケないじゃん! あたしを今すぐ、もといたところへ返しなさいよ!」
──
あたしは勢いよく立ち上がって、黒猫に抗議した。
すると黒猫は、ふぅ、と息をひとつついてから、あたしの瞳をまっすぐ見つめて言った。
「それは、無理クロね。一度死んだ人間は、天国の住人となるのがルールクロ。あの現世に通じる扉の先に進んだら、オキテ破りの罪で、天国から即追放されるクロよ」
現世に通じる扉?
まわりを見渡すと、少し離れたところに、一際キラキラと輝く扉があった。
アレか!
あたしはその扉に向かって全力ダッシュ!
追放だなんて、そんなの知らないもん!
天国が何さ! そんなの毛ほども怖くないわ!
あたしが通う学校の校長先生(鮫島コノキ校長先生)の方が怖いわ!
廊下を走っているところを見つかって怒られた時の、あの怖さったらないよ。
軽くトラウマだよ。
あんな怖いオジサンが校長先生でいいのか小学校……。
って! とにかくあたしは、おとんのところへ帰るんだ!
あたしが何をしようとしてるのかを察し、その上でなぜか余裕の表情を浮かべる黒猫を無視して、扉の前までたどり着くとそのドアにグッと力を入れた。でも。
……開かない。何度押しても引いても、ビクともしない。
黒猫が笑って言った。
「ふふん、その天国製の鋼で出来た扉を開けられるはずがないクロ。なんせ2トンの重さがあるクロからな。巨人でも無理クロね」
……天国製の鋼ってなによ。
本気出す!
だって、あたしは。
スウーッと深呼吸して、息を整える。
そして──
「はあッ!」
バキッ!
全力を込めた足で蹴破ると、扉は見事に壊れた。
「やった!」
「わ〜! そんな! 天国の最新設備がクロー!」
さっきまでの余裕がウソのように、あわてる黒猫。
ふふん。
見くびってもらっちゃあ、困るわね。
だってだって、何を隠そうあたしは、超人的なパワーを誇る超怪力なんだから!(えっへん!)
──ちっちゃい頃から、なぜかめちゃくちゃパワーにあふれていたあたし。
鉄棒をしようとして、ぐにゃりと曲げちゃったりするくらいのことは日常茶飯事だった。
黒猫が言うように、あたしは、おとんとつつましい二人暮し。
父一人、子一人。
ママがまだ生きていた幼稚園の頃、ケンカをして相手の男の子に大ケガを負わせて、そのせいであとで思いっきり怒られて、その男の子の家におとんと一緒にお菓子を持って謝りに行ったのが悲しい記憶。
その日の夜「になの怪力も考えものねぇ……」と、困った顔でおとんとママが話し合っていたのを覚えてる。
あまりにも怪力なことからあたしについたあだ名は、ゴリラもゾウも顔負け、【ウルトラ怪獣・にな】。
体育の握力テストで、握力計を振り切って壊したことがあって以来、クラスの男子どもにそう呼ばれてるんだよね。
ヒュウウウ……。
扉の向こうには、おとんや友達、学校の先生や、塾のみんな、隣に住んでいるあたしと仲の良い電器屋さんのおっちゃんまで、あたしが生きていた頃に関わっていた全ての人たちの姿があった。
でも、何故かみんなあたしに気づかない。
一歩踏み出そうとすると、足先にバチッと電流が流れた。
そしてそれは、何度試しても同じことだった。
扉の向こうには進めない。
黒猫が安心したように「どうやら、進めないみたいクロな」と言った。
ふと、たくさんの人の中に、家族を見つけた。
おとんが、あたしが小さい頃に描いてあげた絵を抱きしめて泣いてる。
「にな、……にな……」
あたしの名前を呼びながら。
──あたしは、その場に立ち尽くした。
泣かないで。あたしはここにいるよ。ちゃんと、見えてる。
「っ、おとん!」
そんな風に泣かれると、あたしまで涙がこぼれてきそうになるから──。
もう会えないんだって思い知らされたようで、悲しさでたまらなくなるから。
だから、だから──泣かないで。
ぐっ、とこぶしを強くにぎって、涙をこらえたあたしは、はっきりとした低い声で黒猫に問いかける。
「あたしが家族の元に帰るには、どうしたらいいの」
黒猫は答えた。
「天国で再会するしかないクロが、ひとつだけもっと早く会える方法があるクロ」
「それはなに」
「天国の学園──天使☆悪魔学園に、入学するんだクロ」
──天国の学園。
はじめて聞く言葉。学校ではなく、学園という新鮮な響き。
「その学園に入ったら、おとんやみんなに、もう一度会えるのね⁉」
「ああ。条件さえクリアすればな」
おとんに会えるかも知れない! 条件さえ、クリアすれば!
少しだけ、芽生えた希望。
あたしは、ちょっと笑った。
ふと、足もとの黒猫に目をやる。
そういえば。
「で、あんたは何よ?」
さっきから当然のように、色んなありえないことをしゃべりまくる、超絶不思議な存在に、あたしは問いかける。
「やっと聞いてくれたな。オレは、おまえの専属使い魔のクロンクロ。もとは現世で生きていた飼い猫クロ。好物はプリン。よろしくな。にな」
使い魔ぁ?
……まあ、天国なんてものがこうして本当にあるんだから、別に驚くことでもないのかもしれない。
プリンが好きらしい黒猫、もといクロンは続けた。
「その条件というのは、天使☆悪魔学園で、一番の成績を修めることクロ。一番になれば、どんな願いも、ひとつだけ叶うというものだクロ」
その天使☆悪魔学園が、なにをする学園なのか、全然わかんないけど!
道はひとつ。迷いなんてない。
こうなったら、絶対一番の成績をとってやる!
「わかったわよ。あたし、天使☆悪魔学園に入学する!」
そして、家族やみんな。大切な人たちに、もう一度会うんだ!
こうして、あたし桃井になの第2の人生(もう死んじゃってるらしいんだけどね)の幕が開けたのでした。
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