転生したら最強チートスキル持ちの王族で魔王の息子な俺は実は竜族の末裔で剣聖で辺境伯だけど最強攻撃力持ちでハズレスキル持ち悪役令嬢だからS級パーティーの中で一人だけCランク扱いで追放された世界最弱のテイ

みなもとあるた

転生したら最強チートスキル持ちの王族で魔王の息子な俺は実は竜族の末裔で剣聖で辺境伯だけど最強攻撃力持ちでハズレスキル持ち悪役令嬢だからS級パーティーの中で一人だけCランク扱いで追放された世界最弱のテイ

【転生したら最強チートスキル持ちの王族で魔王の息子な俺は実は竜族の末裔で剣聖で辺境伯だけど最強攻撃力持ちでハズレスキル持ち悪役令嬢だからS級パーティーの中で一人だけCランク扱いで追放された世界最弱のテイマーなのでステータスを幸運に全振りしてハーレムのスローライフを送っていたため現代知識無双で半神の魔力最強の杖だった】



 俺の名前はアレクセイ・デミゴッド・ドラグナー・ヨシオ・F・ジョシュア・ワイバーン・政宗・バロネス・マリア・ラッキー・F・カウント・ロッド・N・武蔵・パブロ・ロード・ジャンヌ・ジゴワット・ヨシュア・K・メギド・デウス・エクス・マキナ・ゼウス・小次郎・シャカ・サー・ジーザス・バロン・J・ヨセフ…



 ある日、トラックに惹かれそうになっていた女の子をかばって事故に遭ってしまった俺は、目が覚めたら魔王デモニオの支配する世界に転生していた。


 しかも、転生したばかりの俺がいた村は、魔王四天王の一人であるグレムに襲撃されている最中であり、状況が飲み込めていない余所者の俺は真っ先に目をつけられてしまったのだ…



「そこのお前、見慣れない格好をしているな。もしや異世界の者ではあるまいな?命が惜しくば、この魔王四天王グレム様にひざまずいて名乗るがいい」


「俺か?俺の名はアレクセイ・デミゴッド・ドラグナー・ヨシオ・F・ジョシュア・ワイバーン・政宗・バロネス・マリア・ラッキー・J・カウント・ロッド・N・武蔵・パブロ・ロード・ジャンヌ・ジゴワット・ヨシュア・K・メギド・デウス・エクス・マキナ・ゼウス・小次郎・シャカ・サー・ジーザス・バロン・F・ヨセフ…」


「な、何っ!?魔王様と同じJの名を持つものだと…!」

「魔王と同じ、か…それもまた運命の導きなのだろうな…」

「この男、まさか…いやそんなはずは…」

「ちなみに、FとNとKともうひとつのFにはなんの意味があるんだ?あとジョシュアとかゼウスとかも気になるんだが」

「それはこれからの章で明らかになる…」

「そうか…」


 そして俺は懐の聖剣を取り出す。


「そっ、その剣は…!」

 魔王四天王グレムは明らかに動揺している。低級魔族だと侮っていたが、やはりそこには気付いたか。まあ、それも無理はない。


「よく似ているだろう?魔王の持つ剣に」

「し、しかし聖剣はこの世界に4本しか存在せず、その全ては我ら魔王軍が保有している…貴様が聖剣を持っているはずはない!」

「それが、あるんだよな」


 一振り。聖剣を持った剣聖の俺にはそれで十分だった。


「ぐわああああ!」

「これが俺のチートスキル"複製"だ。父である魔王の聖剣をコピーさせてもらった」

「ば、バカな…聖剣の力に加えて剣聖の技術、そして魔王様の血筋とは!これほどの力を持つものは魔王七星のほかには居まい…」

「魔王七星?」


「そうだ…魔王四天王の俺を倒したところで、さらなる力を持つ魔王七星が貴様を待っているのだ…魔王七星の中には、剣聖が2人、聖剣を持つものが1人、聖剣を持つ剣聖が1人、聖弓を持つものが2人、聖矛を持つものが1人、聖槍を持つ槍聖が1人、聖斧を持つものが2人、聖槌を持つ斧聖が1人いる…貴様に希望などない…」

「何?聖剣持ちが3人も居るのか?」 

「いや、3人いるのは剣聖で、聖剣持ちは2人だけ…だ…」


 そこで魔王四天王グレムは力尽きた。

「そうか。聖剣持ちの剣聖が3人も居るとはな。こりゃ激しい戦いになりそうだぜ」


「あのグレムを倒すとはな…いざ参る!」

 そこに背後から現れたのは新たな刺客だった。


「くっ!」

 俺は咄嗟に聖剣で防御する。間違いない。これは剣聖の技術だ。


「ふっ…この魔王六貴族が1人、剣聖シャロンの聖剣を見切るとはな…」

「魔王六貴族だと!?魔王四天王や魔王七星とどっちが上なんだ!」

「いや、部署が違うだけで立場に上下はない…」

「そうか…」


 俺は聖剣を構える。シャロンもまた、聖剣を構える。奇しくも同じ構えだ。

「「剣聖流!ファイナルアルティメットクリムゾンドラゴニックディスティニーダークネスヴァルキュリアディメンションブレイカー!!」」


 聖剣と聖剣がぶつかり合い、火花が散る。完全に互角だった。

「剣聖シャロン…まさかお前もこの技を使えるとはな…この技を使うためには、まず剣技を究めて剣聖となり、聖なる心を持って聖剣聖となり、さらに聖剣の剣技を究めることで聖聖剣聖となり、さらに聖剣に祝福を与えることで作り上げた聖聖剣を持って、聖聖剣聖聖剣聖にならなきゃいけないってのに…」

「フッ、それはこっちのセリフだ。貴様などせいぜい聖剣剣聖程度だと見くびっていたが、聖聖剣聖聖剣聖の技を使うどころか、下手をすれば聖聖剣の剣技を究めた聖聖剣聖、つまり聖聖剣聖聖聖剣聖のレベルにも達している…」


 再び俺たちは聖剣を構える。

(同じ流派…これじゃらちが明かねぇ…)

 こんなところで時間を食っているわけには行かない。


「仕方ねぇ」

 俺は龍の血族としての封印を解除した。


 それから、悪魔の血族としての封印と、神の眷属としての封印と、王族としての封印と、古代獣族としての封印と、竜族としての封印と、天使族としての封印と、聖剣の封印も解除した。

「そんじゃ、本気出させてもらうぜ…」

「な、なんだこの力は…!」


 俺の体を赤いオーラと青いオーラと白いオーラと黄色いオーラと黒いオーラと紺色のオーラと水色のオーラと縹色のオーラと群青のオーラが包む。

「疲れるからあんまやりたくねーんだけどな、これ」


 そして、背負っていた聖刀で、一閃。

「ぐわああああ!」


 シャロンの聖剣は砕け散った。

「勝負あったな、シャロン。知ってたか?聖刀は聖剣に強く、聖剣は聖弓に強く、聖弓は聖槍に強く、聖槍は聖斧に強く、聖斧は聖矛に強く、聖矛は聖杖に強く、聖杖は聖刀に強い…」

「龍の力、そして…聖刀か…噂には聞いていたが…」

「龍の力だけじゃねえ。俺は龍の血族でもあり、竜の眷属でもある」

「ふっ…とっくに気付いていたさ、そんなこと」


 シャロンの体を赤いオーラが包む。

「お前も龍の力を!?ということはまさか…」

「そうだ。俺はお前の兄だ」


 シャロンの仮面が、割れた。

「お前も覚えているだろう?俺たちが小さい頃に家を飛び出していった龍族の父親のことを。父はな、その後すぐ魔王に殺されたのだ。俺はその復讐の機会をうかがうため、魔王軍に潜入を…」

「何だって…!?龍族である俺の父親は、魔王である俺の父親に殺されただって…!?」

「頼む…俺の代わりに、父さんの仇…を…」


 そこでシャロンは力尽きた。

「くっ…魔王め!俺の父を殺すとは!俺の父親だからといって許せん!」


「そうか、お前、龍の血族だったんだな」

「ギード…」


 俺の背後にいたのは、俺と同じSSSランクパーティに所属する剣士のギードだった。

「良いことを聞いたぜ。龍族に人権は無く、人権のない奴はどんなに強くてもCランク扱いだ。お前もそれは知ってるよなあ?」

「くっ…」

「だからお前は俺らのパーティに所属する権利がない。つまり、今日からこのギード様がパーティのリーダーというわけだ!」


 こうして俺は、辺境の田舎町でジャガイモを育てながらスローライフを送ることになった。


「な、なんだこの作物は…!今までに見たことがないぞ!」

「何言ってんだオッサン。ただのジャガイモじゃねーか」

「ジャガ…イモ?この作物はジャガ・イモというのか?素晴らしい…このような荒れ地でこれほどまでにたくましく育つとは…持ち帰って町に広めても良いかね?」


 そう言うや否や、名前も知らない老人は大急ぎで帰って行った。

「変なおじさんでしたねえ」

「おお、アリッサか、配達ご苦労さん」


 彼女はハーフエルフのアリッサ。彼女もまた、混血というだけの理由でパーティを追放された仲間の一人だ。


 アリッサは配達の荷物を置きながら報告する。

「そういえば、隣町ではトマトが大人気だそうですよ。これを食べるだけで医者がいらなくなるとか凄い評判で」

「ただのトマトなのにな。もしかして俺なんかしちゃったか?」


 困惑する俺の背後で玄関の扉が勢いよく開いた。甲冑を着た騎士が恭しく立っている。

「突然すまない!アレクセイ・デミゴッド・ドラグナー・ヨシオ・F・ジョシュア・ワイバーン・政宗・バロネス・マリア・ラッキー・F・カウント・ロッド・N・武蔵・パブロ・ロード・ジャンヌ・ジゴワット・ヨシュア・K・メギド・デウス・エクス・マキナ・ゼウス・小次郎・シャカ・サー・ジーザス・バロン・J・ヨセフという者はいるか?」

「俺だが?」


 甲冑を着た騎士が跪き、その陰から小柄な老人が姿を現す。

「ほっほっほ…君の育てたジャガ・イモは町で大変な人気となっておるぞ。それに、荒れ地でもすぐ育つことから飢饉を乗り越えるための作物としてこれ以上のものはない」

「あんた、さっきのオッサン!その恰好は…あんたもしかして王様だったのか!」

「そこで君に知恵を借りたいのだが、食物を長期間保存できる良い方法は無いかね?軍が長期遠征をする際に、食料の確保に困っておるのだ」


「食料の保存?缶詰でいいんじゃねーの?金属の薄い板で容器を作るんだよ」

「なんと!そんな方法は思いつきもしなかったわい!」

「大したアイデアじゃないんだけどなあ。俺なんかしちゃったか?」

「ジャガ・イモをカン・ズメにしたものが大ヒットじゃ!これで君は億万長者!そして男爵の称号を授けよう!しかし、頑丈なカン・ズメは開けるのが大変でな…今は銃撃で開けるしかないのじゃ」

「缶切りを使えばいいんじゃねーの?」

「なんと!そんな方法は思いつきもしなかったわい!」

「大したアイデアじゃないんだけどなあ。俺なんかしちゃったか?」

「カン・ズメを開ける道具のカン・キリが大ヒットじゃ!長者番付!伯爵の称号!しかしカン・ズメの強度が弱く、輸送中によく破損…」

「ジュラルミン?」

「なんと!そんな方法!」

「俺なんかしちゃったか?」

「ジュラルミン大ヒット!天才!公爵の称号!しかしジャガ・イモ不作…」

「ハーバー・ボッシュ法?」

「そんな方法!」

「俺なんか?」

「ハーバー・ボッシュ法大ヒット!秀才!ノーベル賞!しかしジャガ・イモだけでは飽きる…」

「ポマト?」

「方法!」

「俺?」

「神!王子の称号!よりおいしい料理…」

「MSG?」

「方法!」

「俺?」

「D体…」

「キラル触媒?」

「方法!」

「俺?」


 アリッサがキッチンから皿を持ってくる。

「さ、これを食ってみてくれ」

「おお…これが、ジャガ・イモとトマトとタマネギとピーマンの煮込み…」


 なんのことは無い、塩とグルタミン酸ナトリウムで野菜を適当に煮込んだだけのスープ。王様はまるで宝石でも眺めるかのような手つきで慈しみ、一口すすった。


「うむ…これなら間違いない。君ならきっと、国選料理人コンテストでも優勝できるだろう」

「国選料理人コンテスト?」

「ああ。この国で100年に一度開催される料理人のコンテストでな、隣国はもちろん、遠方の国からも腕利きの料理人が多数参加するのだ。そこで優勝すれば十二神器のひとつである…」


 そこで突然、黒いオーラが国王を背後から襲った。

「喋りすぎだぜ、ジイサン」

「ぐぅうぉ…!」


 国王の体を、聖槍と聖刀と聖矛と暗黒刀とエクスカリバーと聖矢が貫く。

「おっさん!」

「じ、実はな、お前は私の息子だったのだ。これまで隠していてすまなかった…な…」

「よくも俺のオヤジを!」


 黒い影が6つの姿に別れる。

「ククク…俺こそが魔王三賢者の一人、溶熱のフレア…千年に一度の才能を持つ炎魔法使いとは俺のことよ…」

「ククク…俺こそが魔王五芒星の一人、赫火のメガバーン…ここ数年で最強の炎魔法使いとは俺のことよ…」

「ククク…俺こそが魔王十本槍の一人、朱夏のデスグリル…最強と言われた溶熱のフレアを上回る炎魔法使いとは俺のことよ…」

「ククク…俺こそが魔王九天の一人、獄熱のドロア…最強と言われた赫火のメガバーンに勝るとも劣らない炎魔法使いとは俺のことよ…」

「ククク…俺こそが魔王十三騎の一人、爆炎のグレン…歴代で最もバランスの取れた炎魔法使いとは俺のことよ…」

「ククク…俺こそが魔王十本刀の一人、核熱のN・アンタレス…同じNの名を持つお前は実は俺の息子だ…」


 こうして、魔王三賢者、魔王五芒星、魔王十本槍、魔王九天、魔王十三騎、魔王十本刀の6人が勝負を仕掛けてきた。


「くそぉ…俺みたいなハズレスキルしか持ってない駆け出しの最弱テイマーじゃ、こんな化け物たちには勝てない…!」


 最弱ジョブのテイマーである俺に対して、あいつらは全員が最上位クラスのジョブだ。

 しかも俺のスキルはステータスウィンドウ表示だけ。これではあいつらの強さがわかるだけでなんの役にも立たない。


「十二神器さえ集めれば、母さんを蘇らせることができたのに…!」


 ポチが心配そうに俺に駆け寄る。

「…へっ、心配すんな!たとえ俺がどうなっても、お前だけはここから逃がしてやるからな!」


 ポチと過ごした幸せな日々が思い浮かぶ。


 ボロボロになっていたポチを俺が拾った日のこと…

 ポチと俺の2人で、平民から成り上がると約束した日のこと…

 ポチが終末の狼の子供だと分かった日のこと…

 ポチが魔王を倒した日のこと…



 こうして世界を平和にした俺は半神となり、20人の女の子たちから熱烈にアタックされることになってしまった…



「現人神様、ごきげんよう」

 彼女は酒場で働く看板娘のフラン。どことなく優雅な雰囲気を持ち、作法も上品で現実離れした美しさを持っている。実はエルフ王族の身分を隠して働いているという噂があるが…


「ちょっとフラン!?現人神様に気軽に話しかけないでよ!」

 彼女はフランの親友のメリア。女の子が俺に話しかけてくると、いつもこんな風に独占欲を見せてくる。満月の晩になるといつも俺たちの前から姿を消しているが…


「現人神様…おはよ…」

 彼女はティアラ。小柄で物静かなハーフリングの女の子で、俺が出掛けるといつも後ろについてくる。大浴場に行くときは必ずひとりになるらしいが…


「現人神様、おはようございます」

 彼女はセイラ。町はずれの教会でシスターをしている大人びた少女で、彼女目当てに教会を訪れるものも少なくないという。どんな時でも帽子を脱がないという特徴があるが…


「ふわぁ…おはよー」

 彼女はマーシャ。いつも眼帯をしている少し変わった純人間の女の子だ。眼帯を取った姿は誰にも見せたことがないらしいが…


「現人神様、ご機嫌うるわしゅう…」

 彼女はアリエッタ。年齢の割に大人びた言葉遣いで、妖艶な雰囲気を漂わせている。どこに行く時でも日傘を手放さないらしいが…


「あー!現人神くん!ここにいたんだー」

 彼女はアンジェ。多重人格者で、アンジェの他に13人の別人格を宿している。作者があと13人分もキャラ設定を考えたくなかったためこんな設定になったと言われているが…



「お、おいお前ら!そんな一気に群がって来るんじゃねーよ!暑苦しいだろ!」

 俺は20人の女の子たちを手で払いのけようとする。


「だってだって!現人神さまといっぱいおはなししたいんだもん!」

 ローリエが小さな体で俺の膝の上に乗ってこようとする。


「ったく、しょうがねぇなあ…」

 俺は全ての女の子と会話するために19人の別人格と共に20人に分身する。分身とは、俺が東洋の国で習得した魔術のひとつだ。


(それにしても困りましたわね…)

 俺の中の別人格の一人であるアンナは、キャシーと会話しながら頭の中で考えを巡らせる。


(20人のヒロインに対してわたくしの本体はひとつだけ…にもかかわらず、全てのヒロインとハッピーエンドを迎えなければ別次元の魔王が顕現しこの世界は滅ぶ…そして、その事実を知っているのは一度滅んだ世界から時空を超えて戻ってきたわたくしだけ…)


 わたくしが負った責任の重さを考えるとめまいがしてくる。

「…まったく、わたくしが悪役令嬢でさえなければ皆様にわたくしの話を信用してもらえるというのに」

「何か言った?現人神ちゃん」

「い、いいえ!何でもありませんわキャシーさん!おほほほ!」


 わたくしはバレないようにため息をつく。悪役令嬢として人に憎まれる人生を送りながら20組のカップルを成立させる。なんという難題だろうか。

(ったく、難しく考えんじゃねーよ。アンナ)

 この声は…!わたくしの中の20の人格のひとつ、聖杖!


 そう、わたくしがこの異世界に転生した際に生まれた19の別人格のひとつに、この聖杖がありましたの。


 聖杖はアリアにぶんぶんと振り回されて遊ばれながらも、わたくしの脳内に声を送ってくる。

(悪役令嬢は破滅しなきゃいけねえっていうつまんねーフラグはへし折っちまえ。お前には俺がついてる)

(聖杖…)


 わたくしの胸の中に温かい感情が広がる。

(そっか、わたくしはついに理解しましたわ。これこそが聖杖でしか唱えることのできない第零古代魔術、"愛"の力なのね…ふふ、確かにこれは禁術として扱われるのも納得ですわ)

(禁術として扱われるのが納得?それってつまり弱すぎるって意味だよな?)

(全く、鈍感なんですから…)


 その瞬間、振り回されていた聖杖はアリアの手からすっぽ抜け、近くにいたシシリーの胸の谷間にうまいこと突き刺さった。


 聖杖から魔力が溢れ出る。

「うひょー!実は密かに古代魔術で幸運を上げまくってたんだけど、幸運がカンストするとこんなことも起きるのか!聖杖に転生してよかったー!」

「あなたって人は…!」

 聖杖の言葉に心を動かされたわたくしがバカだった。わたくしの純情を返してほしいですわ。



(そうやって楽しそうにしてられるのも今のうちだぜ…)

 和やかな空気を引き裂くように、冷たい声が俺たちの脳内に響く。


(な、誰だお前は…!)

 俺たちの脳内に話しかけることができるのは、俺たち20人だけのはずなのに。

 20人全員の意識が謎の声を警戒する。


 そして俺は一つの可能性に思い至る。

(まさかこれは…封印された21人目の俺…!?)

(御名答…俺様は赤の魔女の力を借りて封印を解除したのさ…その代償としてお前ら20人の魂を捧げる約束をしたけどな!)


 赤の魔女。それは、世界に7人存在すると言われている七色の魔女の1人で、その気になれば国一つを滅ぼすことすら容易だと言われている。


(ちょっとー!ボクのこと忘れてなーい?)

(この声は…!22人目の俺!)


 場違いなほど明るい声が俺たちの脳内に響く。

(残念でしたー!七色の魔女はボクが全員捕まえてイケニエにしちゃったんだー!世界樹を復活させて世界を支配するためにね♪)


(だが、それすらも序章に過ぎん…)

(この声は…!23人目の俺!)

(世界樹の魔力をすべて使えば、古代大陸の浮上も夢ではない…)


(悪いなぁ、古代大陸はもうおじさんがもらっちまったんだ。ま、おじさんのポケットには入りきらなかったけどな)

(この声は…!24人目の俺!)


「主人公よ、そこまでだ」

 空間が歪み、真魔王が顕現する。


 それは、明らかに次元の違う異質な存在だった。


「次元の違う、か。それもそうであろうな。どれ、我の力を見せてやるか。地の文よ、我のことを説明するがいい」


 真魔王は不老不死で、最強で、王族で、聖剣でしかダメージを与えられず、9つの心臓と9つの脳を持ち、全属性攻撃を吸収し、4000種のチートスキルを持ち、太陽が弱点だったがすでに克服しており、第七形態まであり、死んでも一回だけは体力全快で復活することができ、右の触手と左の触手を倒してからでないとダメージを与えられず、世界七賢者の0番目であり、超高速再生能力を持ち、パラメーターは全てSSSSSS+であり、運命の相手が100人いて、漢字検定1級を持っていて、AB型で、左利きで、悪役令嬢で、仲間のステータスを10倍に強化するバフスキルを持っていて、相手が強いほどステータスが上昇し、聖槍で、TOEIC990点であり、ミシュラン三つ星であり、ニンジャであり、コアを破壊しないと倒すことができず、HP満タンの時に攻撃力10倍になり、HPが減少するほど攻撃力が上がり、物理攻撃に完全耐性があり、伯爵で、魔法攻撃は反射し、財閥の御曹司で、剣聖であり、その身に悪魔を宿していて、古代獣の力を受け継いでおり、未来を読むことができ、魂が7つあり、世界で唯一時間停止の魔法が使え、伝説のアイドルであり、過去改変能力があり、3つの秘宝を持っていて、探偵で、法王で、他人の心を読むことができ、他人を洗脳することができ、一時的に自分の力を100倍にするスキルを持ち、神の血を引いていて、ノーベル賞を全部門で受賞しており、オスカー賞を受賞していて、グラミー賞を受賞していて、モンドセレクション金賞を受賞していて、オリンピックの全種目で金メダルを受賞しており、メンサ会員であり、ギネス記録を持っており、食べログ5.0を獲得していて、HPは1兆で、1億以上のダメージは吸収し、神龍の血を引いていて、1ターン3回行動で通常攻撃が全体攻撃で、攻撃されると自動カウンターが発動し、昼も夜も死なず、屋内でも屋外でも死なず、神にも人にも獣にも殺せず、地面でも空中でも死なず、どんな武器でも殺せず、第四の壁を越えることができ、この小説を改変することができる。


「な、何っ…!こんな桁違いの能力を持った生き物、これまでに想像したことすらねぇ…!」

「だろうな。だがしかし、我をここまで強大にしたのは貴様ら主人公たちの傲慢さが原因なのだ」

「どういう意味だ!」

「地の文よ、解説しろ」


 真魔王はバランスブレイカーな能力が世界に現れるたびに、世界の均衡を保つためその能力を吸収して世界を守っていたのだ。


「これで理解できたか?"最強"だの"チート"だの"最弱からの成り上がり"だの"無敵"だの"カンスト"だの"無双"だの"ハーレム"だの何だの、お前らが次から次へと極端な設定を生み出し続けるから、世界のバランスが崩れてこの作品のストーリーが大変なことになってしまったのだ。見ろ、我のこの姿を。世界のバランスを保つために極端な設定を吸収し続けた結果、我の能力説明だけでほぼ1ページ使ってしまっているではないか」


「くそっ…こんな化け物を倒すには、どんなチートスキルを使えばいいんだ…」

「だからこれ以上チートスキルを増やすなと言っておろうが!」

「じゃあ、隠された伝説の勇者の血が…隠しパラメーターが…」

「させるか!吸収!」


 真魔王がチートスキルを吸収する。

 真魔王は実は伝説の勇者の血も引いていたのだ。

 そして真魔王には隠しパラメーターの対勇者ダメージ追加率が存在していた。


「まったく無様だな。読者にウケるからといって派手な設定に次々と手を出すから、ストーリーがめちゃくちゃになって収集がつかなくなっているのだ。目先の派手さにとらわれず、もっと堅実な設定を活かしていれば良かったものを」

「だったら…最弱…追放…2周目…」

「吸収!」


 真魔王はパーティー内最弱で追放されたが、2周目の人生で大逆転した。


「カンスト…無敵チート…防御全振り…」

「ふん。もう話も通じないか。ならば私の手で全てを終わらせてやろう」


 真魔王の手のひらに莫大な魔力が集まる。

「これが禁呪"打ち切り"だ。この物語をここで打ち切りにしてやろう。貴様のやりたい放題もこれで見納めだな」


「そんな結末、俺は認めねぇ…」

 俺は聖剣を支えにしてなんとか立ち上がる。


「ここで俺が諦めたら、鍛冶屋ギルドのおっさんにも、俺をかばって死んだ父上にも、俺の帰りを待ってくれてる姫様にも、申し訳が立たねえんだ…」

「地の文、現実を教えてやれ」


 そんなキャラクターたちは、これまでに名前すら登場していない。


「だがな真魔王!それでも俺は負けるわけにはいかないんだ!これでどうだ!チートスキル"複製"!」

「何っ!」


 主人公は地の文を操る能力を手に入れた。


 真魔王は全ての能力を失「させぬ!」主人公は全ての能力を失「おらあ!」主人公は新たな力に覚醒「無駄な抵抗だ」主人公はただの平凡な「まだまだ!」主人公は金のオーラに包まれ「ふん!」ざんねん!しゅじんこうのぼうけんはここでおわっ「うおお!」こうして世界に平和が戻っ「しつこいぞ!」先生の次回作にご期待「「これで終わりだ!」」


「禁呪"打ち切り"!!!」

「必殺剣"大団円"!!!」










「な、なんだその技は…?貴様自ら、この世界を終わらせるつもりか…!?主人公の癖に、なんという決断を…」

「ああ…でもな、この終わりは打ち切りじゃない。あくまでハッピーエンドさ。作中に書かれていないだけで、俺たちはこれから平和で幸せな世界を生きるんだ」

「ここまで世界を滅茶苦茶にしておいて幸せに生きようなどと、許さんぞ!」

「もう終わりだ、真魔王。なぜなら、俺はすでにその8文字をラストに書いてきたからな」

「やめろおおおおおおおおおおお!!!!!」



 めでたしめでたし

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