漆黒輪舞曲~堕天使と皇帝の禁忌恋愛譚~

白雪れもん

第1話 漆黒堕天使好敵手現る

学園の朝はいつも通り静かに始まるはずだった。しかし、静けさを打ち破る一つの声が、玄関先に響き渡る。


「開閉せし漆黒の扉よ、我の存在を感知し金色の刻道に導かせよ!」


その声の主は、神宮寺レオン。自称「闇の皇帝」、学園内では一見変人と思われがちな存在だが、なぜか不思議と人気が高い。漆黒の制服を身にまとい、肩にかかる黒髪を翻しながら、彼は堂々と校舎内へと足を踏み入れた。長いまつげの下で輝く瞳は、自らの運命を信じる確信に満ちている。今日もまた、彼の一日が始まるのだ。


廊下を進むレオンの足取りは軽やかだ。彼が歩くたびに、その周囲は自然と空間が空き、まるで彼が王としての領域を持っているかのようだった。女生徒たちは囁き合い、男子生徒たちは苦笑しつつも、どこか羨望の眼差しを向ける。レオンはその視線を受け流すことに慣れていたが、心の奥底では満足感を隠し切れない。


教室へと続く廊下の角を曲がった瞬間、レオンの前に立ちふさがる影があった。その影の主は、黒崎カイ。レオンの唯一の好敵手、自称「漆黒の堕天使(ゼビブラックデスエンジェル)」だ。彼の姿もまた、同じように学園内で異彩を放っていた。


「よう、漆黒の堕天使(ブラックエンペラー)!」


レオンが声をかけると、カイはその美しい顔立ちに不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりと振り返る。カイの銀色の瞳がレオンを捉えた瞬間、二人の間に火花が散るような緊張感が走る。


「久しいな、漆黒の堕天使(ゼビブラックデスエンジェル)。」


このセリフに、レオンは眉をひそめる。「おい、昨日会ったばかりなのに『久しい』って、どういうことだよ!」

レオンは呆れたように突っ込むが、カイは動じず、優雅に肩をすくめる。


「時の流れは我々にとって無意味なものだ、レオン。そうだろう?」


「ふん、さすがは俺の好敵手だな。だが、忘れるなよ。今日こそは貴様の力を超えてみせる!」


「面白い。その挑戦、受けて立つ。」


カイはそのままレオンに向かって一歩近づく。彼の表情は変わらず冷静だが、その目には挑発の光が宿っている。二人の間にある微妙な距離が、教室内の空気をさらにピリつかせる。


「さて、今日も我らの戦いが始まるわけだが、忘れるな。俺たちのことをこう呼べ!『漆黒堕天使好敵手(ダークエンジェルライバル)』と!」


レオンの言葉に、カイは微笑を深める。「そうだ。我らの絆は決して壊れない。それが例えどんな試練にさらされようとも…な。」


その言葉に含まれた深い意味を、周囲のクラスメイトたちは察しきれない。ただの中二病トークだと笑い飛ばす者もいれば、その異常なまでの親密さに何かを感じ取る者もいる。しかし、誰もが彼らの関係が特別であることを理解していた。


実際、レオンとカイはお互いを「漆黒堕天使好敵手(ダークエンジェルライバル)」と呼び合うほどの仲であり、敵対しているように見せかけてはいるものの、実は何でも話せる親友同士だ。いや、親友以上の感情が、少しずつ芽生えつつあることに、彼ら自身が気づいているかもしれない。


放課後、二人は学園の裏庭に集まった。そこは彼らが「戦場」と呼ぶ場所。いつものように、彼らは自らが追われているという設定で、全力で逃げ回ることになる。しかし、今日の二人の間には、いつもとは少し違う緊張感が漂っていた。


「今日は奴が現れるかもしれない…」

レオンが呟くと、カイも真剣な表情を浮かべる。


「債豪録治坊滅殿…奴の陰謀を暴く日が近い。」


「そうだ。我らの使命は、奴の魔の手からこの学園を守ること。」


二人は互いに目を見つめ合う。その目の奥には、単なる遊び以上のものが隠されている。レオンは息を呑み、カイから目を逸らすようにして前を向いた。だが、カイはその様子を見逃さなかった。


「レオン、何を恐れている?」


「別に…恐れてなんかない。ただ…」


レオンの言葉が途切れる。その先を続ける勇気が、彼にはまだなかった。カイは無言で彼の横顔を見つめる。強がりで、誰にも心を許さないかのように見えるレオンのその姿に、カイは不思議な感情を覚える。


「お前が何を隠そうとしているか、俺にはわかっているぞ。」


「何のことだ?」


レオンは慌てて否定するが、カイは微笑みながら手を差し伸べる。「お前の手、震えているじゃないか。」


「そ、そんなことはない!俺は…!」


カイの指がレオンの手に触れた瞬間、レオンはその場に凍りついたように動けなくなる。カイの手の温もりが、彼の心の奥底に響き渡る。ほんの一瞬の出来事だったが、それが二人の関係に微妙な変化をもたらした。


「レオン…お前は一人じゃない。俺が、いる。」


カイの言葉に、レオンは再び息を呑んだ。心の中に秘めた感情が、じわじわと表に出てきそうになるのを必死に抑えようとする。だが、その抑え切れない感情が、彼の心を揺さぶる。


「ありがとう…カイ。でも、俺たちは好敵手だ。これ以上、深入りはしない方がいい。」


レオンはカイから距離を取るようにして後ずさりする。だが、その心の中では、すでに抑えきれない感情が渦巻いていた。カイはそんなレオンの姿をじっと見つめながら、軽く微笑む。


「わかった。だが、覚えておけ、レオン。俺たちはただの好敵手じゃない。」


カイはそのまま背を向け、ゆっくりと歩き出す。レオンは彼の背中を見つめながら、胸の中で何かが強く鼓動を打つのを感じた。


その日、二人は「債豪録治坊滅殿」との戦いを空想の中で繰り広げた。途中で二人とも笑いが止まらなくなり、戦いはあっさりと終わりを迎えたが、その日以降、二人の間には微妙な距離感と新たな緊張感が生まれることになった。


「ふっ、今日も勝利だな。」

レオンが肩で息をしながら言うと、カイも同じように笑う。


「当然だ。我らが漆黒堕天使好敵手(ダークエンジェルライバル)である限り、敗北はありえない。」


そう言いながら、二人は再び目を見つめ合う。その瞳の奥には、敵対しながらも、強い絆と何か特別な感情が潜んでいるのだった。


続く戦いの中で、この感情がどのように発展していくのかは、まだ誰にもわからない。しかし、二人はその先に何かが待っていることを、すでに感じ取っていた。

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