第5話 血の繋がりがない
「それから5日後に、今度は僕がお弁当を作った」
「あの見た目良くて品数多くておいしいやつね。嫌味かと思った」
「嬉しかった事のお返しに嬉しかった事をするのは当然だよ」
予想していた以上に静は手作りお弁当が嬉しかったらしい。同じ事でお返しをしてくれた。私的には倍返しだけど。
でもなんか変だ。静のお母さんは家事が得意でよくお弁当を作ってた、静を好きな女の子だっていて、その子達がなにか食べ物をあげたことだってあるだろう。なのにこんなにも嬉しがるなんて。
「まあ、そんな爽やかで幸せな思い出も、望のステータスのためのものだとそのうちにわかるわけだけど」
「ごめんって。何度も謝ったし許してくれたじゃん」
「付き合った一年が楽しかったから許しているだけで、これから先しょっちゅう思い出しては悲しくなったり悔しくなったりすると思う。きっと未来の僕もそうだったにちがいない」
静の言う『これから先』は未来の話じゃなくてすでに起きたことなのだろう。許してはくれたけどやっぱり嫌な気持ちになったに違いない。それも私が告白した理由のせいだ。
私が静に告白したのはステータスのためだった。
『兄が完璧だからそれに負けないように完璧になろうとしたけど、なれそうにないので完璧な彼氏を捕まえることにしました』なんて。
そんな理由で私は静に告白した。
こんな恋人の力で何もかも逆転してやろうだなんて考え、バカだとしかいいようがない。だから黒歴史だ。
「望は今でもお兄さんに張り合うために優等生してるの?」
「まさか。とっくに諦めているよ。ただ、静が前に『勉強とかのわかりやすい評価でお兄さんと張り合うんじゃなくて、何か特殊な技術を磨いてそれで張り合えばいいんじゃない? 例えば絵とか』って言ったから。だから私は漫画家になった」
静と付き合っていた時の私は委員長タイプだったけど、それは無理していただけ。根はかなり怠惰な人間だ。
私が中学生の頃、兄は難関大にあっさり受かって、自分と兄の違いに気がついてしまった。
兄は遺伝子のせいか本人の努力のせいか優秀だ。なのに私は成績は良かったり悪かったり、とくになんの特技もない。これから先、一生『似てないよね。まぁそれも仕方ないか、血の繋がりがないもんね』と言われ続けてしまう。実際高校でも同じような事を教師達に言われていた。
なのでそこから兄のような完璧を目指し委員長タイプを目指した。最初は簡単だった。中学レベルの学力なんて、教科書を頭に詰め込みさえすればなんとかなる。しかし高校レベルはそうはいかない。兄と血の繋がりがあると思えるほどの学力は手に入れる事は難しいと気づく。
他の能力を磨くにしたって勉強より簡単なはずがない。
だから私は視点を変えて『完璧な彼氏と付き合うこと』を才能とした。
それだって交際中静に悟られ断念して漫画家になって、今は怠惰な性格もあって漫画家としてなんとかやっていける。
「お兄さんに張り合うことないのに。人は違って当然だし、血の繋がりだってないわけだし……」
「皆そう言う。兄と似てないのだって私の出来が悪いのだって『血の繋がりがないから』って慰めるつもりで、言われた私達の気持ちは考えもしない」
カッと頭に血が上って一気に喋ってしまった。きっと静は私のために言ってくれた。でもここだけは冷静に語れなかった。静も引いているようだ。
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