ENSEMBLE THREAD
田無 竜
一章【次の私と】
『after:取材』
薄水色の空は、一切の雲を排除して、地上の我々を祝福している。
私も自身がその対象であると信じ、眼前の門扉に取り付けられたノッカーを鳴らした。
家主の反応は素早く丁寧で、私は粛々とした態度で案内に従った。
「こちらです」
家主は若い女性。これは知っていたことだが、声色もみずみずしく艶がある。
真っ白な肌に赤褐色の長髪。ここいらでは珍しいタイプだが、この女性の出自についてはこれから本人に聞く手筈だ。
私は彼女に言われるがままに席に座る。
普段食卓に使っているだろうテーブルに、ミルクとビスケットを用意して、わざわざ私をもてなす準備もしていてくれたらしい。
全くもって、感謝の極みである。
「ホットミルクで良かったですか?」
「ええもちろん。お構いなく」
実は猫舌である私だが、若い女性に気を遣わせるほど衰えてもいない。
彼女はニッコリと笑みを浮かべてくれた。
「……そちらはお一人ですか?」
「え、いえ。ここにはその……同居人が」
辺りを見渡せば二人暮らしなのはすぐに分かる。
こんな事をわざわざ聞いたのは、彼女が私のような陰気で怪しい男を迎え入れることに、心配という名の余計な世話を焼きたくなったからだ。
だが、やはり余計でしかなかったらしい。
「私に何かあったら、あの人が必ず何とかしてくれるんです。そんな人なんです。はい、惚気です」
「それは頼もしい。出来れば……同居人の方にも、『取材』をお願いしたいのですが」
私の目的はあくまで取材だ。記者としてこちらの女性を訪ねに来たのだ。本心からその『同居人』にも話を伺いたく思っている。
「すみません。あの人今出掛けてて……」
「あ、そうなんですか」
「でも、私に何かあればすぐ飛んできますよ。試しに叫んでみましょうか?」
「ご、ご冗談を……」
彼女は若干気の抜けた顔をしている。まさか天然なのか? まさか、本当に飛んで来やしないよな?
「……じゃあ、話に移ります? といっても……何から話せばいいのか……」
彼女の手を煩わせる必要はない。私は既にその予定を立てて来ている。
「まず、全ての始まりからお聞きしても良いですか? ああ、もちろん、そちらがご存知の限りで構いませんが」
「『全ての始まり』……ですか。ふふ……それならやっぱり、あの日じゃないですかね? 二人の出会った……『あの日』こそ、『全ての始まり』だったんじゃないかって私は思います」
そうして彼女は語り始めた。
あの長きにわたる戦いの最初の一ページ。
その結末はもう明らかだが、それでも私は知りたくてしょうがなかったのだ。
あの戦いの中、最後まで勇気を持ち続けた彼らの話を──
「最初にあの人に会った時に抱いた私の印象は……そうですね……」
そこで彼女は、フッと笑った。
「ヘンテコな名乗りをする人……かな?」
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