最期に選んだのは償いの道。七人の罪人が命を賭けて守るのは国家の令嬢

KKレモネード

第1話 最後のチャンス

 罪人に生きる場所など存在しない。

 ___そう思っていた……


 冷たいコンクリートの壁に囲まれた暗い監房。七人の囚人たちはそれぞれのセキュリティガラスの向こうに閉じ込められていた。重い沈黙が流れる中、扉が音を立てて開くと現代的なスーツに身を包んだ使者が現れた。彼の目は冷静で、任務の重要性を示すかのように輝いていた。


「皆さん、今からお話しすることには耳を傾けてください。国家の重要な問題が発生しています」


 桐生戒妬きりゅうかいとが自分の位置から使者を睨む。


「何を話しに来た?俺たちは死刑囚だぞ。国家のことなんてどうでも良い」


 使者は眉をひそめながら、話しを続けた。


「国のトップであるお嬢様が、暗殺の標的となっています。国家の安定と秩序が脅かされており、その対応として貴方たちに手を貸してもらいたいのです。」


 黒崎恵零くろさきえぜるが冷ややかに呟いた。


「つまり、私たちを使って姫様を守らせる訳か?そして、その代償に俺たちの罪が帳消しになるって認識で良いのか?」


 使者は頷きながら、冷静に答える。


「その通りです。お嬢様が殺されれば、国家は混乱し、最終的には全ての罪人と人々が巻き込まれるでしょう」


 天城宗也あまぎそうやが反論する。


「でも、どうして我々にその役割を与える?我々はただの犯罪者だ。信用性も無ければ下手すれば令嬢を殺しますよ?」


 使者は一歩前に出て、真剣な眼差しで口を挟んだ。


「貴方たちは特殊な力を持っています。その力を使い、令嬢を守るのが安全かつ最善の方法と考えています」


 神代龍舞かみしろりゅうまが手を振りながら不満を表した。


「そんな条件で信頼出来る訳ねぇだろ」


 使者は冷静な口調で言った。


「信頼というよりは、最後のチャンスです。この任務を成功させることで過去の罪を償う道が開かれるかもしれません。罪を消せば貴方たちは平凡な暮らしに戻れるのですよ?」


 氷室葵ひむろあおいが深い息をつきながらゆっくりと使者の顔を覗いた。


「もしこれが唯一の機会なら…僕は受ける」


 水無月一みなづきはじめが不安そうに呟く。


「これが本当に最後のチャンスなら、他に選択肢は無いだろう。此処に居るのも退屈だ」


 桜誠人さくらまことが決意を込めた表情で言う。


「それなら、令嬢を守るために何をするべきか、具体的に教えてもらおう」


 使者がスーツのポケットから契約書を取り出し、テーブルの上に広げる。


「この契約書にサインをしていただければ、任務が正式に開始されます。成功すれば、全ての罪がゆるされる可能性があります」


「マジでやんの?」


「神代、嫌ならこの監獄で筋トレでもしてろ」


「久しぶりの外か。日光浴がしたいぜ」


「何年、何十年居たっけな?」


「ヤメロ、気が散る」


 檻の中の七人はそれぞれの考えを巡らせながら契約書に目を落とし、これからの運命に向き合う決意を固めた。これから始まる試練と冒険に向けて、彼らの物語が動き出そうとしていた。


 契約書にサインをした後、七人の罪人たちは拘束具を外され使者によって刑務所から引き出された。彼らが乗ることになるのは警備の厳重な政府の車両だった。車両が走る間、彼らは心の中で複雑なそれぞれ思いを抱えていた。


 桐生が視線を窓の外に向けながら呟く。


「これが本当に最後のチャンスなのか?」


 隣で座る黒崎が足を組んだま冷静に返答する。


「私たちが信じるしかないな。使命を果たさなければ、ただの死刑囚のままだ」


 車両が特設のセキュリティ施設に到着すると、使者が車両から降りて罪人たちを迎え入れた。施設内は最新のセキュリティ技術が施され、まるで要塞のようだった。使者が指示した通り彼らはセキュリティチェックを受けた後、指定された部屋に案内された。


 部屋には令嬢の保護計画の詳細が書かれた資料が並べられていた。使者が一つ一つ説明を始める。


「これが令嬢のスケジュールと、暗殺の可能性が高いとされる地点です。彼女の安全を確保するために各自が担当するエリアを守ってください」


「めんどk…ムグッ」


「それ以上喋んな。ぶっ殺すぞ」


 天城が資料を手に取りながら疑問を口にする。


「令嬢はどこにいるんだ?具体的な位置や施設についての情報は?」


 使者は指を資料の上に置き、具体的な位置を示す。


「令嬢は現在国家の重要な儀式に出席しており、その会場が狙われる可能性があります。ここが最も危険な地点です。」


 神代が資料を見ながら、軽くため息をつく。


「暗殺者の予測や、奴らの手口については?」


 使者は資料の一部をめくりながら答える。


「詳細な情報はまだ把握できていませんが、過去の情報から推測するに、高度な能力を持つ集団が関与している可能性があります。」


 水無月一が不安そうに呟く。


「この任務が成功するかどうか、不安が募るな」


「まぁ、俺たち結構な仲だから平気だろ」


「牢獄生活はホントクソだったぜ」


 使者が頷きながら、指示を続ける。


「任務の開始まで時間がない。各自、担当エリアに分かれて、必要な準備を整えてください。令嬢の命を守るために、全力を尽くしてください」

 

 罪人たちはそれぞれのエリアへと向かい、任務に備えるための準備を始めた。緊張が漂う中彼らの心には決意と不安が入り混じっていた。これからの任務がどのような運命をもたらすのか、誰もが予測できなかったが、彼らはその瞬間を迎える準備を整えていた。


「これが俺たちの黒スーツとネクタイ…!」


「ちゃんとした服は着心地がいいな」


 その後、支給されたスーツを全員が着替え終わると即座にそれぞれのエリアへ向かった。


 桜は自分の担当エリアで監視システムのチェックをしていた。他のメンバーも配置につくと任務に備えていた。施設内は静寂に包まれ、緊張感が漂っていたが桜の心はいつも通り冷静だった。


 だがその瞬間、桜は胸に刺すような不安感を覚えた。風が吹き荒れるように、何か異常な気配を感じ取ったのだ。彼の背筋を冷たい感覚が走り抜ける。


(この感覚…まさか…)


 直感的に桜は視線を上げ、周囲の異常を探ろうとした。彼の耳に届いたのは微かな振動音。そして、その音が次第に近づいてくるのを感じ取った。


「敵襲だ!!全員、警戒しろ!」


 桜の鋭い叫び声が施設内に響き渡る。同時に設の警報が鳴り響き、赤い警告灯が点滅し始めた。各エリアに配置された他のメンバーたちも即座に反応し、武器を手に取った。


 桐生が無線で応答する。


「敵の数は?どこから来た?」


 桜は監視モニターを確認しながら答える。


「まだ正確な数は分からないが、確実に接近している。おそらく複数のルートから同時に攻めてくる!」


 黒崎が低い声で言った。


「準備が整う前に動き出すとは…予想以上に手強い敵かもしれない」


 神代が笑みを浮かべながら言う。


「まあ、やってやるさ。俺たちにとってはどんな敵でも同じことだろう?」


 施設内は一瞬で戦闘モードに突入した。七人の罪人たちは、それぞれのポジションから敵の動きを監視し、即座に対応を開始した。


 水無月が冷静に指示を出す。


「まずは敵の位置を把握して、合流して対応する。個別に動くのは危険だ。」


 氷室が無線を使って、全員に呼びかける。


「僕は令嬢の近くにいる。何があっても彼女を守る。」


 天城が短く返事をする。


「了解。皆、死ぬなよ。」


 桜は無線のやり取りを確認し、すぐに次の行動に移る。彼は施設内の非常口を確認し、敵の進行ルートを遮断するための策を講じた。


「…さて、来るなら来い。俺たちのチームを甘く見るなよ」


 施設の外から爆音が響き渡った。警報がさらに激しく鳴り、赤い光が施設内を照らし出す。外壁に設置された防御システムが発動し施設を囲むように高圧電流が走る。


 しかし、その電流の壁を突破するかのように敵の一団が次々と現れた。全員が武装しており最新鋭の火器を手にしている。彼らの動きは迅速で、まるで計画通りに進んでいるかのようだった。


 桐生がモニターを睨みつける。


「奴ら、本気で来たな…全員、準備はいいか?」


 黒崎が無線で応答する。


「これ以上、奴らに進ませるな。撃退する!」


 武器を構えた七人の罪人たちはそれぞれの持ち場で迎撃態勢を整えた。銃声が響き渡り、敵の前線が次第に施設内へと侵入してくる。桜は、廊下の一角で待ち構えながらその動きを見定めていた。


 敵が扉を破壊し部屋に突入してきた瞬間、桜が動いた。手にした銃で正確に狙いを定めて次々と敵を撃ち倒していく。敵の攻撃も激しかったが桜の動きは鋭く、一瞬の隙を見逃さなかった。


「こっちには来させない…!」


 その時、遠くで別の爆発音が響き、敵がさらに増援を送り込んできた。天城が廊下を駆け抜けながら叫ぶ。


「やばいな、数が多すぎる!」


 氷室が冷静に反応する。


「彼らの狙いは明確だ。令嬢を守るためには、全員で対応するしかない。」


 敵は手榴弾を投げ込み、施設内に煙が充満する。視界が奪われさらに緊張が高まる中、桐生が叫ぶ。


「煙の中でも焦るな!冷静に対処しろ!」


 煙の中から敵が現れ、激しい戦闘が繰り広げられる。銃弾が飛び交い、鋭い金属音が響く中で、七人の罪人たちは各自の持ち場を守り抜こうと奮闘する。


 使者が無線で罪人たちに指示を出す。


「全員、令嬢の部屋に集合しろ!ここが最終防衛線だ!」


 神代が冷ややかな笑みを浮かべる。


「この程度の連中に負けるわけにはいかないな。全力で叩き潰すぞ!」

「わりぃ。俺は後から行く」


 無線で単独行動を希望したのは桐生だった。使者はそれを止めようとしたが他の全員はそれをわかっていたかのように口に出した。


「確かにお前は独りで戦った方が暴れられるな」


「アイツの能力が発揮されるぜ」


「桐生君、無茶はしないように!」


「あいよー」


 そう、無線で呟いていると七人の罪人たちは、全員が令嬢の部屋へと集結し、最後の防衛線を築いた。敵は次々と攻め寄せるが彼らの決意は固かった。どんな犠牲を払ってでも、彼らは令嬢を守ることを誓っていた。


 桜が再び銃を構え、敵に向かって叫ぶ。


「迎え撃て!!」


 桐生は令嬢を守るための戦略を考えつつ、単独で別のルートから敵を迎え撃つことに決めた。彼は敵の進行方向を予測し、道路を駆け抜ける。その途中桐生は二人の敵と鉢合わせた。


 その二人は他の敵とは異なり、ただの兵士ではなかった。彼らは明らかに特殊な力を持つ者だった。一人は、手のひらに青白い光を放ちながら電流を操るような仕草を見せている。もう一人は、周囲の空気を不気味に歪ませるかのように手を動かし、炎を自在に操っていた。


 桐生は彼らを睨みつけ、冷静に状況を分析する。


(厄介な相手だな。面倒くせぇ……)


 近くにあった通行止めの標識をポキリと折って彼は標識を軽く振って使いやすさを確かめると、敵の方向に向かって歩き出した。風に吹かれる標識の音が不気味な静寂を破る中、桐生の表情には冷静な決意が浮かんでいた。


「こっから先は”通行止め”だ」



















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