依存性
スノスプ
第1話 カウンセラーと禁欲規制からの脱却
話をしている時から感じていた、彼らは、いや彼女らは、すでに自我の限界を超えていることを。
彼女はある技術によってできた最強で最悪の兵器でありそれでいて人の自我を保ち続けなければいけない生物でもあった。
同時に2人の診察をするに理由としては、気をつけるべきことと戒律の守るべき義務が容易に果たせるという2つの事柄を併せ持つ。
異例ではあるが、可能性で言えば彼女らを癒すのはこの手段が最も最善だろうと 精神分析医リンガルも思っていたに違いない。
彼女らはすでに人を殺していた。殺戮現場のその真っ只中で血に染まり、ただ立っていた。
彼女らが犯した行為は、罪にはならない、為政者にとっては畏怖ではあり、そして高揚させられるものであった。
人間兵器、数多くのサイボークとやらを作ってきた、博士たちにとってそれは求めやすい玩具である。機械と人間の生身を拒否反応の内容を組み合わせて数十倍の力を生み出す、玩具である。
遠い過去、それは人々の猜疑心に触れ、そして恐怖をもたらし、混乱を生む種ともなった。結局は行き過ぎた人間改造として真っ先に規制の矢面に立たされたのである。それからは沈黙を守っているかに見えた。
それからしばらくが経ち兵器のためにという、直接的な言い回しをしなくても、明らかなその方針は日の目を見ることとなる。
規制が入ってから100年以上が経ち、そのこと自体も漫然としたまま、記憶から薄れるにつれて現実の平凡な世界にも自然と人体改造が浸透してきた。
なんらかの形ではあれ、人はほとんどがサイボーグに似た改変を行った。それがもう常識となっていたのだ。この頃になると生身の体とは、ある程度いじられて、長寿健康で安全安心して過ごせる体という意味となる。
飛躍的に寿命がのび、体の成長がまるで周りの時間がゆっくりと過ぎるように老化を防いだ。脳の回転はある一定の速度で回るのは変わらない。
そしてそれはいつしか当然のものとなり、死の恐怖や別れの心配という負の感情ですら追いやった。
だが、平均の幸福度数が上がるにつれ、世の中が平和で快適になり、人体改変が常態化するにつれて、サイボーグの兵器利用の戒律は陳腐化されていった。
技術が高まると人体改造の安全性が飛躍的にます、安全であれば人々はそれに対して恐怖の心を持つことはない。気にすることもなく、もしどこかで誰かがその危険性について叫んだとしても、常態化してしまった現実を見ろと一蹴されるだけであった。
彼女らがその最初の犠牲だった。
彼女の体は半分以上彼女のものではない、一見見ると、その体は生身のように柔らかく温かい。しかし、力を出すことによって、柔らかい肌が硬質化し強固で冷淡な兵器に変わる。
自我を保ち続けることが難しいことにもう1つの原因があった、それは魂の生成である。
現在の化学でも解明されておらず、女性にしか持つことができないこの機能は、人の孤独や恐怖を安定させ、それ自体が依存そのものとなる。赤ん坊には魂というものが入り同一化する、その人自身の個性や心を持つこととなる。
魂の生成には諸説あるが、おそらく単純でシンプルな説が正しいと私は思っている。
その問題とは、彼女たちはその魂の変換により、力を無理に得ているということだ。その無限の力は魂の波長の同一化という、人工的に歪みを加えて生成する。
波長自体が目に見えないように、開発した本人にもその具体的な根拠は見ることができなかった。サイボーグや生身の生物改ざんの繰り返しによる、統計学上の根拠である。
安全性など論外であった。その桁外れの力は宇宙の均衡を壊すほどの抑止力となり得るものだった。
この西宇宙群星連合の西の外れにある土青という星での出来事であった。どういうわけかその小さな星は異常な程の潤沢な資源と、鉱物などの有価物質に恵まれていた。しかし、辺鄙な場所にあり、荒廃した大地が広がり開拓は未然のままだった。
だが、不安定なその環境で天才学者が数多く育ち、その厳しい環境のもと、その反発のように学資施設では英才で溢れていった。
とうとう人口が周りの星の平均を上回ろうとしている時、この星に1人の天才が現れた。それが有名な統一司令官のマッカソイルであった。この天才は青年の頃から頭角を現し、多くの人が知る人となる。僅か34歳で軍のトップとなる。その年齢での司令長官は異例ではあったが誰しも納得した。
この様々な人種が集まる土青には、カリスマ的リーダーが必要だったのかもしれない。西宇宙群星の中でも特異なこの星は、規制や他との星の連携を薄め、独自の進化を遂げていく。
その大き過ぎる1つが聖音楽システムであった。聖音楽とは宗教の楽曲などに使われる歌曲の総称だが、それと同じように、別次元から生成される魂の波動を自らの波長と合わせ、生身を改変することも意味する。生体の改変自体は形骸化された戒律であるのだが、別次元から生成される魂を無理に同一化させる転生システムは、魂への暴虐であった。
進んではいけない一歩であった。それに気付きつつも、
異常な長寿となった人間たちは、規制がなければ飛躍的に技術が上がる。それは10年、20年ではなく、50年、100年という長い期間を単位として物を見る力を養えたからである。
システムが研究材料と挙げられ、そして、いくつもの悲惨な実験を繰り返し、とうとう完成体へと繋がったのは研究から50年が経とうとしていた頃であった。
その頃になると土青自体も、西宇宙諸星では10本の指に入る惑星となっていた。それは十分に周りを畏怖させることができた。規制や独自の宇宙法の緩和など自由すぎる姿はまるで赤ん坊がそのまま大きくなっているようにも見えた。
周辺の惑星はそれを危惧していたが、ソイルはその周辺が感じる恐怖を無理に薄めることは考えなかった。そして周辺の高まる批判を乗り切る。恐怖だけではなく好感と尊敬のイメージ付けに成功した。
それができた原因に東宇宙と西宇宙との軋轢があった。その話は今は省略しておくが、簡単に言えば隣星同士で内輪揉めをする余裕などなかったのである。それと同時に恐怖の技術を味方に取り込みたいとは百兆人が思いの片隅にあった。
カウンセラーに来たのはあどけない少女たちであった。年齢は30歳前後であろうか。彼女たちの言い分では自分たちはすでに大人らしい。確かに、成人法の改正で47歳から大人という意見も出ているらしいが、女性の体を鑑みるに今の67歳での成人が的を得ているとリンガルは思っていた。
名前はフィリスと菜穂であった。金髪と茶髪が混じり合う明朗な前者と、黒髪で大人しそうな印象を受ける後者は先ほど説明した聖音楽システムを使用した戦士であるシステムズであった。
システムズは現在でも数名しかいない(と言っても最重要秘匿とされている案件なので数名いるかもしれないと知っている私もいつ記憶消去対象となるか分からない)その幻のとも言えるシステムズが目の前に現れたことは、当初驚きを隠すことができなかった。初診時は震えながらの作業で、まともにカウンセリングなどできる状態ではなかった。
だが、今回は35回目の施行である。彼女たちの心と体(この場合文字通り)を知り尽くした私は、彼女たちの最悪の殺人兵器でもあり、そして、ごく一般的な少女でもあると理解していた。
だが私は回数をこなす度に限度を超えてくる彼女たちの依存性が、いつでもどこまでも背筋に恐怖の戦慄を走らせていたのである……。
これは国家での仕事で、成功をすれば輝かしい未来が待っていた、当初は恐怖と気の張り過ぎで震えていたが、順調にカウンセリングを続けるにつれて自分の能力を遺憾無く発揮することができた。会話を続けていると彼女達のオーラに自らが満たされ、体に英気がみなぎり、頭が冴え能力以上の力を出せるような感覚に陥るのである。それは感覚だけではなかった、実際に実力以上のカウンセリングが出来ていた。それは彼女たちから出る魂の残り香の影響と気が付くまでそう時間がかからなかった。
話はさらに複雑になっていく。彼女へのカウンセリングは口頭だけでは全く足りなくなってしまったのである。彼女たちは口頭以上の体と魂の自我への一体感を渇望していた。その渇望は収まるどころかさらに増していった。私は私の全てを投げ打つ覚悟だったのでその過ちはむしろ、清々しいとも思ったのである。
口頭だけだったカウンセラーはいつしか肉体によるものとなっていた。口愛からさらに性器愛への転換であった。
魂の生成への歪みは心や頭だけではなく、むしろ体への影響の方が昂っていた。話を全て打ち明けていくにつれ彼女達の、蛮行は単に戦争への加担と人殺しへの罪悪だけではなかった。研究施設内での彼女達に与えられている餌の話が上がる。餌とは生身である。もちろん食べるのではない、その口愛から変異された愛の浄化であった。極秘裏な実験なうえ、幸運なことにその餌はたった1人の男性であること、そしてその男性はいまだに健全であることであった。
その健康が続いている、その人体の謎に迫るよりも彼には目の前に大きな仕事があった。
彼女達との一体化とそして同時進行していく意識の喪失であった。
まず話を進めていくうちに、彼女はリラックスして仰向けに寝るような形でソファーに座る。その後ゆっくりと深層心理に近づく会話をし、彼女の内の心の吐露が始まる。その言葉は甘美で情熱的、そして性愛的であった。
禁欲規則からの脱却は早いうちから始まる。
まずはフィリスは私の唇に唇を合わせる、彼女はそれだけで悦に入る、体がほてり、まるで発作でも起こったかのように呼吸が苦しくなり体温が上がる。最初は静かにキスをするがそれでは収まらなくなり、舌を歯と歯の間へと欲望のままに押し込む、そして頭に手を回し強く引きつける。その凶悪で暴力的な力だが不思議に私には痛みがない。なぜこのような性愛の途中では痛みが軽減されるのであろうか、それすらも快楽へと脳を誘うように思えた。
すでに菜穂は、頬が紅潮している。半裸の状態で後ろから抱きつき脱がされる。抵抗はしない。ただ後々気づくであろう抵抗ができないという方が正しいことを。
彼女らの魂の残り香は私にまで影響されるが、その影響がより濃いのは当然本人達である。この快楽の間、彼女は一種の覚醒状態となるのである。まるで甘い歌曲に全身が満たされれているように……。
行為が行われているその瞬間でもカウンセリングを続ける。戦闘時の気持ちや罪悪感など、その時は全てが赤裸々となり、人の首から上を砕く時の話も寸前の相手の目と、残った歪な形の首の風景やその時の高揚感などの様々な気持ち。私は恐れることもなくその話を聴きながら、左手でフィリスのを優しく撫でた。
30分ほどの体を使ったカウンセリングは行い既に火照っている体はとうとう佳境へと入る。
菜穂は私に押し付ける。可憐で消えそうな声。甘美な囁き……。
行為をし始めていた頃は何かわからなかったが、もうすでに理解している。動きに合わせて繰り返すにつれ快楽が脳に突き刺さる。菜穂の心はすでにこの場にはいなかったのかもしれない。まるで遠い世界で一体感に浸っている。
フィリスは、もう口でのカウンセリングは必要がないと言いたいように……、薔薇のような濃い匂いが口から鼻へと擦りつけていく。繰り返すにつれて声は徐々に大きく、そして最後はまるで叫んでいるかのようだった。左手は彼女が欲しがるところを触っていく。
菜穂の動きが激しくなり、そして果てる、彼女達も気を失うかのように体を硬直させ、そして極限に達した快楽が薄まる意識とともに緩和させていった。愛に塗れた私の唇に強引なキスをしたのは菜穂の方だ。彼女達は際限がまるでない。不思議な事に私にもその能力が浸透するのか、性的な際限を持たせてくれなかった。
無限なるエネルギーは別次元からの波動なのだろうか……。数時間が経ち、乱れた部屋の中で果てるまで。2人はそのまま抱き合い倒れ込む。
菜穂が耳たぶを噛み、囁いては無邪気に笑う……満たされた気持ちで意識が遠のいていく。
フィリスは体を私の上に乗せたまま動かなかった。肉体を強張らせたまま気を失っていた。
その残り香に包まれた部屋で3人はそのまま。菜穂は私の横から抱きつき薄い毛に覆われたのを私の太ももに擦り寄せて、フィリスは繋がったまま抱き合う形で夜を明かした。
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