ONE SERVE
虎野離人
第1話 入学式
春の柔らかな日差しが校庭に降り注ぎ、桜の花びらが風に舞う中、新たな一歩を踏み出そうとする多くの新入生たちが聖月学園に集まっていた。颯もその一人だった。彼は一歩一歩、どこか憂いを帯びた表情で、校門をくぐり抜けた。
「これでいいんだ…新しいスタートを切るんだ」
心の中でそう自分に言い聞かせながら、颯は校舎へと向かう。彼が選んだこの聖月学園は、何よりもまず「テニス部がない」という点が彼にとって魅力的だった。中学時代の過去を断ち切り、テニスから離れた生活を送ることができる場所。そう信じて疑わなかった。
入学式が始まると、颯は他の新入生とともに講堂へと案内され、指定された席に着席した。周りの生徒たちは希望に満ち溢れた顔をしていたが、颯はどこか距離を置くようにその様子を見ていた。
1.2 校長の話
静寂が講堂を包む中、校長の姿が壇上に現れる。彼は落ち着いた声で、入学を祝う言葉を述べ、聖月学園の歴史や伝統について語り始めた。
「皆さん、ようこそ聖月学園へ。我が校は、学問だけでなく、スポーツにおいても数々の輝かしい成果を収めてまいりました。特に、我々の誇りである女子テニス部は、全国大会で何度も優勝を果たしており、その名声は全国に轟いております。」
校長が語る女子テニス部の栄光の数々。全国優勝、エースプレーヤーたちの活躍、そして聖月学園がどれほどその成功を誇りに思っているか。颯はその話を黙って聞いていたが、心の中には少しの動揺が広がり始めた。
「しかし、今年は新たな歴史が刻まれます!」校長の声が少し高まり、颯の心拍数がわずかに上がる。「なんと、我が校に初めて男子テニス部が創設されることとなりました! そして、その男子テニス部を担うべく、全国から選ばれた6名の推薦入学生がここにいます!」
颯の心が一瞬止まったかのように感じた。彼の視界が一瞬ぼやける。
「なんだって…?」
校長は続ける。「それでは、その6名をご紹介しましょう!」
壇上に照明が当たり、一人ひとりの名前が呼ばれるたびに拍手が湧き起こる。颯はその様子を呆然と見つめた。まさか、この学校に男子テニス部ができるとは予想だにしていなかった。
まず最初に壇上に上がったのは、背が高く、誇らしげな表情を浮かべた藤堂拓海と藤堂直樹の双子だった。校長は彼らについて、息の合ったダブルスプレーが全国レベルであることを強調し、観客からはさらに大きな拍手が沸き起こった。
次に紹介されたのは、体格差の大きい鷲尾大樹と村瀬和也のペアだった。大樹は堂々とした態度で壇上に立ち、一方の和也は少し緊張した様子だったが、二人のユニークなコンビネーションが称賛されると、再び拍手が起こる。
最後に呼ばれたのは、中谷陽太と城山翔のシングルスプレーヤー二人だった。中谷は冷静な眼差しで会場を見渡し、城山はどこか挑戦的な表情を浮かべていた。彼らの紹介が終わると、会場全体が彼らの登場に沸き立つように感じられた。
「これからの聖月学園の男子テニス部に、大いに期待してください!」と校長は締めくくった。
颯は、その場に凍りついたかのように座っていた。まさか、男子テニス部ができるとは思っていなかった。自分が避けようとしたテニスが、この場所で再び彼を追いかけてくることになるとは――。
周りの生徒たちは歓声を上げ、6人の推薦者を讃えていたが、颯の心には別の感情が湧き上がっていた。それは恐れと戸惑い、そして逃れられない運命に対する諦めだった。
「ここでまた、テニスと向き合わなければならないのか…」
颯の中で封印されていた記憶と感情が、再び目を覚まし始めていた。
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