第38話 商品

・登場人物・

ヤマト……主人公。勇者で憲兵団団長。

アメリア……女魔法使い。二発かましてちょっとスッキリした。

カレンテ……駐在部隊の女性隊長。趣味は人間観察。

サイナリア……妖精。自称二十三歳。

ボーラン……悪徳商人(確信)。準貴族。

クードク……飼育員らしき男性。


**********


「フェンリルにサラマンダー。あれはまさかマルコシアス?」


 地下室は想像以上に広く、奥に行くにつれて大型で危険な魔物が増えて来た。


「すげー! 動物園みてーだ!」


 ダンジョンの次は動物園と来たか。

 アメリアはすっかり観光気分である。


 しかし俺は一応仕事なので、一体一体の魔物の数をカウントして回っている。


「……隣が最後です」


 そう言ってクードクは、また奥へと歩を進める。


「なあヤマトなんかまたサイナリアがあたしの首で何か始めたんだけど」


 その言葉で色々と察したので、俺は黙ってそのままクードクの後を追う。


「おいバカ髪が絡むだろ!」


 アメリアは緊張が緩んだのか、さっきまで大人しくしていたのが嘘のようにやかましい。


「……その妖精は今の時期が繁殖期ですので、性欲が旺盛なんですよ。何故か人間にも欲情しますが人間との間に子は成せないので大丈夫です」


 よかったな、大丈夫らしいぞ。

 何が大丈夫なのか良く分からんが。


 俺はふと、子どもがなせないのであればコイツ等の飼い主は……と嫌な想像をしてしまったが、これはあまり深く考えないでおこう。


「……ここが最後です」


 クードクが鉄製の扉に手をかけ、ノブを回す。


「暴れるとやっかいですので、今はまだ手は出さないようにお願いします」


「ああんっ!!」


 無視無視。


「ああクッソ!! お前ふざけるなよ!!」


「おい! 流石にうるさいぞ!」


 俺は思わず二人を振り返ると。


「ヤマトコイツおしっこ漏らしやがったぞ!!」


 そこには背中をビショビショにして、妖精を引きはがそうとするアメリアの姿があった。


 妖精の方は、アメリアの首にまたがり頭をがっつりホールドして離されまいとしている。


「……妖精は代謝がすごいので」


 それを全く意に止めず、クードクが扉を開ける。

 開かれたその部屋からは動物の鳴き声は聞こえず、妙に静かだった。


 俺はクードクに続いて部屋の中を見る。


 そこにも、先ほどと似たような檻、というよりは牢屋のようなものが設置されていた。

 明らかに今までとは雰囲気が違う。


 ??

 人か?


 俺は牢屋の中に数人の人影を見つける、そしてふいにその中の一人とに目が合った。


「おい!! 御前おまえ!!!!」


 突然その人物が大声を上げた。


「えっ!? 何!??」


 袖で妖精の尿を拭っていたアメリアが驚いてそちらを見る。


「御前!! その服、憲兵であるな!? 我をここから出せ!!」


「えっ!? 何? 何語!?」


 エルフ語だぁ~~。

 こーれは面倒だぞぉ~~。


「何だ!? おい!! 憲兵だ!! 憲兵が来たぞ!!」


 静かだった地下室がにわかに沸き立つ。

 エルフだけではない、かなりの人数がそこにいることが分かる。


 あれは何だろう?

 見たことない人種だ。


「……見ての通り、ここは人間以外の他人種を収容している檻になります」


 クードクは事も無げにそう言う。


「スミマセン ダシテクダサイ ワタシ ダシテクダサイ」


 あれは猫人族か。


 俺は、小さくため息をつき、ポケットから手帳を取り出す。


 そして、この部屋全体に聞こえる大きな声で。


「えー! みなさん! ここは憲兵が制圧しました!! 安心してください!! 今から人数を数えますので!! そのまま静かにお待ちください」


 これは参った。

 想定外の事態である。


 俺の声が聞こえないのか通じないのか、ざわめき立つ室内は静かになる気配はない。


「み・な・さ・ん!! し・ず・か・に!! だ・い・じょ・う・ぶ・だ・か・ら!!」


 そう言って回りながら、俺は人種と人数をメモっていく。


「うわ!? エルフじゃん!! やばっ!!」


 アメリアも負けず劣らず騒ぎ出す。


「おいアメリア!! 面倒になるからお前はそこで何もするな!!」


 俺はそう叫んでアメリアに釘を刺す。

 分かっていると願いたいが、下手を打つとこれは割とシャレにならない。


「ええと、貴方達はエルフですね。エルフはお二方だけですか?」


「エルフ語!! 御前!! エルフ語が分かるのか!?」


 俺が北方エルフ語で話しかけると、檻をガタガタと揺すりながら、先ほどこちらに声をかけてきたエルフが吠える。


「落ち着いて下さい。早く出して差し上げたいのは山々なのですが、今現場は立て込んでおりますので、そのまま少々お待ちく下さい」


「黙れ猿人!! 我らだけでも良いから早く出さぬか!!」


 やはり、チョケている時のアメリアとオリー並みに話が通じない。


「……チッ。薄汚い猿なんぞに、我ら高貴なエルフが捉えられ、よもや助けを媚うなど。愚。愚。愚」


 檻の奥でもう一人のエルフが毛布に包まって、そう言いながらこちらを睨みつけている。

 とりあえず、二人とも女とメモをした。


「タスケテ タスケテ」


 とりあえず俺は人数を把握するため、一つ一つの檻に声を掛けながら数を数えて回る。


「おい!! クードクとか言ったな!! ここで全員か!?」


 俺は、大声でクードクに尋ねる。


「……はい。間違いなく」


 小声すぎてその声は聞こえなかったが、多分そう言ったと思う。


((あ……ち  あた……こ……にいた……いたわ!!))


 サイナリアが念話の阻害を貫通して送って来る。

 気が散るので本当に勘弁してほしい。


 俺は数を数え終えると、クードクの元へ向かい、


「本当にこれで全部か? ピクシーとか居ないのか?」


 こういう場所だと定番でいるピクシーが見当たらなかったので、俺は彼に尋ねた。


「……うちではピクシーみたいな普通の”奴隷生物”は、は取り扱っていません」


 あえてと言うあたり、恐らく世話係としては使っているのだろう。


「おいアメリア!! 一旦戻るぞ!!」


 俺の言いつけを無視して歩き回っていたアメリアを呼びつけた後、クードクにも呼び掛けて、俺達は研究室でとりあえず他の憲兵と合流することにする。


「おい御前!! 何処へ行くつもりだ!!」


 エルフが騒いでいるが、今彼女らを出す訳にはいかない。


 俺はその声を背中に浴びながら、室内を後にした。

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