第15話 クエストの内容
・登場人物・
ヤマト……主人公、勇者。
フォルカー……S級冒険者。魔動車の設計者。
ブラシュ……剣士。C級冒険者。リーダー。
パァス……スカウト。ムードメイカー。
パレッタ……魔法使い。学院主席。
クェント……センチネル。あまりしゃべらない。
アキ……聖職者。中性的な顔立ち。
**********
道を塞ぐ二台の馬車。
それらは車軸が折れているのか大きく傾いており、ただならぬ何かがここで起こったことを物語っていた。
おそらく、ここが目的地で間違いないだろう。
「もっと奥に行くのかと思っていました」
パレッタが僕の思ったことを代弁してくれた。
僕も彼女と同様に、もう少し時間がかかるものだと思っていた。
僕達は遠巻きにその光景を見渡す。
そして周囲に嫌な物を発見してしまい、思わず顔をしかめる。
他のメンバーもそれには気付いているはずだが、誰もそれを口には出さなかった。
「さて、では早々に調査を開始しましょうか。ヤマトさん?」
最初に口を開いたのはアキさんだった。
「まあ待ってよアキちゃん」
それを遮ったのはヤマトさんだ。
「はあ、まだ何かあるんですか? まさかヤマトさん……」
何かに気が付いたらしいアキさんがジト目でヤマトさんを睨む。
「やっと気づいたのか。察しが悪いなあ」
ヤマトさんはおどけるような仕草をしつつ、そう口にした。
一体、彼は何を企んでいるのだろうか?
「じゃあ、誰か推理が得意な人ー」
そう言ってヤマトさんが挙手を促す。
突然の事に、その場の全員がキョトンと彼を見ている。
「それって、ここで何があったかを、私達の中の誰かが調査しろって事ですか?」
パレッタが僕達を代表して質問するが、そのままの意味で考えればそう言う事になる。
「そうだけど、あくまで推理してくれるだけでいい」
ヤマトさんは事もなさげにそう言うが、
「ええと、依頼の内容が分からないと、何とも答えにくいのですが……」
パレッタが困った表情で尋ねた。
「じゃあ、パレッタちゃんにお願いしようかな?」
ヤマトさんは勝手に、どんどん話を進めていく。
「あの、ですから――」
「アキちゃん。今回のクエストの内容を説明してあげて」
何かを言いかけたパレッタを遮って、ヤマトさんがアキさんにそう促す。
「いやちょっと待ってください。彼らはあくまで受験者として”同行”してもらっているだけで、クエスト自体はヤマトさんとフォルカーさんが受けた物ですよ?」
「なんかその辺の細かい規定は良く分からないんだが、彼等だって一応、調査チームのメンバーなんだし、別に俺達だけで調査しなければならないって訳じゃないんだろ?」
途中の説明で、このクエストはB+だと言っていたし、それならば僕らのパーティーはまだDなのでこのクエストは受けられない。
その時にヤマトさんは冗談っぽく「お前らを入れて三パーティー」みたいなことを言っていたが、規定通りならそれはおかしい話なのだが……。
もしかしたら、ブラシュかパレッタ辺りがその辺の事情を聞いているのかもしれない。
「あの、確認何ですが、これは試験の内には入らないんですよね?」
パレッタが不安そうにヤマトさんに尋ねる。
「もちろん。いわばこれは”予行練習”だよ。君らがもしB級冒険者を目指すなら、いずれやらなければならない事だろ?」
彼にとって僕らがB級を目指すのは確定事項らしい。
まあ、ヤマトさんみたいな人に技量を認められているという様に受け取れば、悪い事ではないか。
「そんな悠長な……もしや、まさか毎回、受験者にこんなことやってるんですか?」
そう言ってアキさんがフォルカーさんの方を見る。
「ん? これに関しちゃ、別にワシらだけじゃないと思うぞ?」
思っていた回答と違ったのか、アキさんは頭を抱える。
「違います……僕が言いたいのは、今回みたいな明らかに危険なケースでやることじゃないのではって言いたいんですよ」
アキさんの口ぶり的には、今回のクエストは僕らのようなDランクパーティーが手を出してはいけないようなレベルのものだと言いう事だろうか。
「アキは心配性だな。ワシとヤマトが居るんだ。万事ぬかりはないぞ?」
「はぁ……分かりました。もう僕は口をはさみません」
フォルカーさんにまでそう言われて、彼は渋々溜飲を下げたようだ。
「大丈夫だから。アキちゃんの思ってるようなことにはならないよ」
ヤマトさんも一応、フォローの言葉を添えた。
「ああ、そうだ……僕が言わなきゃでしたね」
そう言ってアキさんが懐から何やら書類を取り出す。
そしてそれに軽く目を通して。
「今回の依頼は憲兵から冒険者ギルドに出されたもので、緊急クエストに当たります。まず、この先の村に荷物を運搬していた運送屋が荷物を届け終えて村を出た後、予定日になっても帰還しなかったため、荷物の運送依頼を出していた商家から調査依頼が出されました」
アキさんが、自分の言葉に分かりやすく直してから僕らに伝えてくれている。
事前の情報だと、いま通ってきたこの道は過去には北へと抜ける際のメインロードとして活用されていたようだが、近年になって新しく安全な道路が整備されたため、この先の村へ用事でもない限り通ることはあまり無いらしい。
「で、最初はそれを受けた憲兵が独自で調査をしようとしたのですが、その前にこの道を引き返してきた冒険者パーティーがこの運送屋の馬車を発見したらしく、その際に”魔力汚染”が認められたため、このパーティーは危険と判断してそのまま帰還したとの事でした」
冒険者には、受けている依頼にもよるが緊急性が無い限りは道中で事故やけが人を発見した際に、可能な限り救援と救護、そして報告する義務がある。
ただ、残念ながら全員が全員これを守るのは現実的に難しいため、よほど大事でもない限りはスルーされてしまうのが常である。
そんな中で今回のこれは、その大事に該当したと思われる。
「そしてその後、憲兵で対応できる人材が居なかったため、冒険者ギルドへ依頼があり、それをヤマトさんとフォルカーさんで受ける事になった次第です。ついでに、一応気になってるかもしれないのでお伝えすると、試験ではみなさんも混成パーティーの一部とみなされています」
これを聞いて色々と腑に落ちたことがある。
僕らは今日、こうして最終試験を受けているわけだが、本来はもう少し先の予定だったのだ。
おそらく、緊急でリスケが行われたのだろう。
最初にヤマトさんが代打だと言っていたのも、これが関係しているのかもしれない。
「続けます。次に、運送屋の情報ですが、馬車は二台で積み荷は主に穀物等の食料だったようです。そして馬車を引く馬が各一頭で計二頭。御者が計二人、”労働者”が二人で護衛に”傭兵”が四人ついていたようです」
単に”労働者”や”傭兵”と言った場合、それぞれ労働者ギルドの”日雇い労働者”と、傭兵ギルドに所属する”傭兵”の事である。
冒険者ギルドもそうだが、それぞれのギルドは独自のシステムで動いており、しばしば似たような労働者の集合体である”組合”と混同されたりする。
「傭兵ですが、前衛二人と後衛の魔法使い二人の構成で、その魔法使い二人だけが女性で残りの人間は全て男性です。情報は以上です」
言い終えたアキさんは最後に、他に何か質問があればお願いしますとパレッタに向かって言った。
どうやら名探偵パレッタの爆誕は確定事項の様だ。
そして、その件のパレッタだが、
「……いいんですか?」
と、馬車の方を指差しながらそう言った。
「危険があったら知らせるから、心行くまでどうぞ」
ヤマトさんが右手でどうぞと促す。
それを見たパレッタは、躊躇なくスタスタと事故現場の方に歩いて行く。
彼女の物おじしない性格を、僕はとても羨ましく思う。
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