第6話 失っちゃう私

意識を取り戻した沙夜は家を飛び出した。

「沙夜!どこ行くの!」

母の叫び声を背中に感じ、あてもなく走った。

(暫くネカフェにでも泊まるか...。いや、ママのプレゼントで貯金は殆ど使ってしまった。)

(制服も置いてきちゃったし、明日からどうしよう...。)


あの一件から陽斗とも会っていない。

完全に私の所為なのに、何故か冷めた。

これが蛙化というやつか。

どこかで陽斗に期待していたのだろう。

私が暴走しても、いつもの優しさで包み込んでくれるのだろうと。


目が虚ろな状態で夜の街を徘徊していた沙夜は、24時間営業のハンバーガーショップに入った。

シンプルなハンバーガーを1つだけ購入すると、ゆっくり席に座る。

「これじゃ、私ホームレスじゃん。」

窓の外を眺めていた沙夜は小さく呟く。

外では、如何にもヤンチャそうな見た目をした高校生の男女グループが、楽しそうに屯している。

(あの中では馴染めないだろうな...。)


沙夜は度々スクールカーストについて考えることがある。

普段、久美や桃香と仲良くしていることで、自分のクラスでのポジションを保てている。

これだけはハッキリとわかる。

桃香が所属している一軍グループでも確実に浮いてしまうし、アニオタ女子グループとは話は合うが、どうしても周りの目を気にしてしまう。やっぱり今の位置が心地良い。

沙夜がそんなことを考えていると、ウトウトしてそのまま眠りについた。


「お客さま?お客さま?」

店員に肩を揺すられうっすら目を開いた沙夜は、店員と目が合った。

「ここで寝られては困ります!」

注意を受けた沙夜は恥ずかしくなり、顔が真っ赤になる。

「すみません!」

ハンバーガーショップを飛び出した沙夜は、またあてがなくなり夜の街を彷徨う。


駅の地下通路では、ホームレスが簡易的なダンボールハウスに入って休んでいる。

「お嬢ちゃん!」

辺りを見回すと1人のホームレスと目が合う。

「こんな時間にどうしたんだい?」

普段なら急ぎ足で立ち去るが、自分の置かれている状況も後押しをして返事をする。

「家出しちゃったの。」

「そうかそうか。こっちへおいで。」

ホームレスのもとに近づくと、アンモニアのような匂いがする。

「このダンボールと新聞を持って行くと良い。」

心細い沙夜にホームレスの優しい言葉が染みる。同時に偏見の心があった最低な自分を責める。

(私は最低な人間だ。)

ホームレスに心を開いた沙夜は、色々なことを聞いた。炊き出しの場所と時間、空き缶集めのやり方、襲われた時の対処法など、今の沙夜には欠かせない知恵ばかりだ。


(今夜はここで寝よう。)

教わったダンボールハウスの作り方をアレンジして、自分の寝床を確保した。

作業を終えた沙夜は、睡魔に襲われ気を失うように眠った。


翌朝、ホームレスにお礼とお別れを告げた沙夜は、家に戻ることにした。

(彼氏はまた作れば良いけど、ママは私のママだけだ。)

そんな残酷な結論を出した沙夜の顔は、少し大人びていた。

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