〜第2章〜

第4話 噛んじゃう私

私には彼氏がいる。

桜高校の隣に並ぶように建っている、男子校の向日葵高校三年生の陽斗だ。

陽斗は、こんな芋女の私にも優しい。

なんで私なんかと付き合ってくれたのかと、会う度に思ってしまう。

それだけでなく、陽斗は勉強も運動もできる上に、街中を歩いていると、女の子なら誰でも振り向いてしまうぐらいのイケメンだ。スラッとした高身長で、透き通るほどの色白である。

私は陽斗に何ができるのだろう。


とある休日、大好きな陽斗と映画デートをした。前から見たかったホラー映画を楽しんだ後、陽斗に誘われ家にお邪魔することになった。

「よかったらうちくる?今日親もいないしさ。」

その言葉をくらった瞬間気絶しそうになった。付き合うようになってから、初めての陽斗の部屋だ。

ゆっくり部屋に入ると、ムスクのような良い匂いがした。

その後、自分でも信じられないぐらい良い雰囲気になった。

ここで私のフェチが抑えきれなくなり、初めて対人で試してみることにした。

陽斗の耳に自分の口をそーっと近づけ、耳たぶを甘噛みする。抵抗しない陽斗。そこで変なリアクションをしないイケメン。流石だ。

腕組み、ハグ等の様々なスキンシップがあるが、耳たぶを甘噛みすることが私の一番の愛情表現だ。兎に角安心する。

一頻り陽斗とのイチャイチャを終えると、時間は20時をまわっていた。

「やばい!もう帰るね!」

「そか、また明日な」

陽斗の頬に軽くキスをした沙夜は部屋を出た。

本当は泊まりたいぐらい名残惜しいが、陽斗宅を後にする。

私のママは門限に厳しい。たしかに自分が女ということもあるが、一人娘の為、尚更心配なのだろう。

家に着き、リビングの電気が付いているのを横目に見ながら、忍び足で二階に上がる。

ベッドに横になると、今日のことを思い出し、ニヤニヤが止まらない。


(もう一人の私にもこの体験をお裾分けしよ。)

前回、首を吊らせてしまったことを申し訳なく思っていた沙夜は、分身にもお詫びをしたいと思っていた。

神崎医師に同じ薬を貰っていた沙夜は、いつも通り過量服薬する。


陽斗に会った為か、いつもより血管がドクドク波打っているのが分かった。

暫くすると、"彼女"が私に憑依した。

「ちゃんと陽斗と会ってね。」

そう呟いた沙夜は普段通り気絶した。


次に目を覚ましたのは、一週間後の日曜日だった。少し鉄の味がする。

日付を確認する為に携帯を見た沙夜は、連絡アプリのメッセージ件数が100件を超えていることに気が付いた。

(普段は2件ぐらいなのに...。)

アプリを開くとメッセージは全て陽斗からのものだった。

「もう会わないから」

「ちょっとキツい」

「今までのことは全部忘れて」

私が見たくない内容ばかり並んでいる。

(何があったの。)

具体的な内容が示されていない為、急いで陽斗に電話をかける。

「あ、もしもし陽斗?どうしたの?」

「どうしたのじゃねーよ。バイバイ。」

「え、待って!私何もしてないよね?」

その後も30分ぐらい粘り、最後に一度だけ会ってもらうことになった。

いつも通り学校が終わった後、向日葵高校の校門前で待っていた沙夜のもとに、陽斗がやってきた。

耳と首にガーゼを貼り、包帯をぐるぐる巻きにしている陽斗の姿に言葉を失った。

(これ、私がしたの...。)


陽斗から事情を聞いた。内容は、お互いの親に許可を得た後に、陽斗の家でお泊まりをしたのだが、沙夜が陽斗の部屋に入った瞬間に豹変し襲いかかり、耳たぶを噛みちぎり10針縫う怪我を負わせ、首にも噛みついたという。

「私そんなことしたんだ。」

「え、覚えてないの?おかしいんじゃない?」

「ご...ごめん!」

沙夜は走って陽斗から逃げた。


自分の部屋に入り、ベッドにダイブすると理性が効かず、喚き散らした。

(私どうしちゃったんだろ...。)

泣き疲れた沙夜はそのまま眠りについた。

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