第12話 モンスターを狩る理由

俺は一度研究所に戻りレータを家に帰した後、団長と二人でギルドに向かい広場を壊してしまったことを謝っていた。

「しゅいませんでしたぁ」

「はぁ、本当に次からは気を付けてくださいねぇ」

目に涙をためた団長が地べたに頭をこすりつけ土下座をしている。


本当にこの人が団長でいいのだろうか、実力うんぬんの話じゃなく、こう精神年齢的に………というかこの人実年齢何歳なんだろう、今度聞いてみよ。


「本当にすいません、俺も止めるのを忘れるくらい団長の刀に見惚れていました」

「ミスナさんは謝らなくて大丈夫ですよ、この拠点でシリウス・ルナ団長を止めることができるのはパーガスさんくらいですから」

「はぁぁぁぁぁー」と大きなため息を吐くジュリさん、その豊かな胸が上下に揺れる。うん、眼福である。


「………でも、そういう邪な視線は今後禁止ですよ♪」

「ふぁい」

こういう優しい人から浴びせられる殺意の籠った笑顔ほど怖いものはない。次からはあからさまな視線を向けないようにしよう、もっとこうばれないような感じで………。


「………次そんな視線を向けたら目に気を付けてくださいね」

「あ、ひゃい」

怖い、首じゃなく目を狙うあたりが余計に怖い、「いつでもてめぇの目なんてくりぬけるぞ」とでも言われているようだ。


「まぁそこらへんにしておけジュリよ、ミスナも怖がってるではないか」

「今は黙っていてください団長、あなたのせいで今うちの会計が修繕に向けてどう予算を抽出するか頭を悩ませているんですから、リスナ密林の大規模調査隊の編成にもお金をかけている最中なのに、はぁぁぁ本当にめんどうなことを起こしてくれましたね」

「………ごめんなしゃい」

一瞬蘇った団長としての威厳はジュリさんから吹き荒れる怒りの嵐に吹き飛ばされ、引っ込んでいた涙が再び湯水のように流れ出す。


「はぁぁぁ、今日はもういいです」

「本当か!よぉし!やっと帰れる!」

「本当に反省してますぅ?」

「………してる、してる、あぁ申し訳ない、非常に申し訳ないなぁ、あぁなんで私はあんなことをしてしまったんだぁ」

と白々しい演技をしながらシリウス・ルナ団長はギルドをそそくさと去っていった。きっともう一度研究所に戻るのだろう、用事があるようだったから。


「………はぁ本当に大人としてはもう少しちゃんとしてほしいものなのですが」

ジュリさんは頭に手の甲を当てて大きくため息を吐く。

「案外団長にも強く出れるんですね」

「まぁ舐めやすいですから、正直」

「………確かに」

ジュリさんが若干気まずそうに頬を掻きながら目をそらして言う、俺はその言葉に同意するほかなかった。


「ところでミスナさん、装備はまだ作れていませんので申し訳ありませんが後三時間後くらいにもう一度………」

「あぁいやこれから訓練所に行こうと思います」

「え、それってあの訓練所ですか?刀とかを教えてくれるギルドで運営してるあの」

「?、それ以外にあります?」

「………そうですかやっと、あのミスナさんが」

ほっと安心したように息を吐くジュリさん。その言葉をそのまま捉えるなら俺は頑なに訓練所に行かなかった我儘ボーイという認識をされていたということだが………。


「うっやっぱ俺って怠け者に見えてました?」

「はい、少し」

ジュリさんは気まずそうに目を細めて苦笑いをした。


だめだ、やっぱそう思われていたらしい。


「まぁ仕方ないっすよね、あんなに不真面目だったら誰だってそう思うっす」

「でも、今は違うんですよね?」

優しい笑顔を浮かべてジュリさんはそう語り掛けてくれた。

「………はい俺は強くなりたい、モンスターを狩るために」

「やっぱり変わりましたね、では一つ、聞いてもいいですか?」

眼鏡を一度くいっと上げて妖艶な唇を揺らしてそう問われる。

「?なんですか?」

「ミスナさんはなんのためにモンスターを狩るんですか?」


俺はジュリさんにそう聞かれ言葉につまる。


………そういえば俺はなんのためにモンスターを狩るんだ?


多分一番でかいのはノームジャスを倒したときのようなあの快感をもう一度味わうためだと思う。


けど何か引っかかる、本当にそれが理由でいいのかと自問自答する。でも何度自分に問い直してもその引っ掛かりがなんなのかはわからなかった。


俺は自分の中にしこりを残したまま違和感のある答えを口にする。


「多分、モンスターを狩ったときのあの快感をもう一度味わいたいからだと思います」

「なるほど、それがあなたの理由ですね」

「は、はい、多分」

俺が歯切れの悪い返答をするとジュリさんはくすっと指を口に当てて上品に笑う。


「でもミスナさん、自分の答えに納得がいっていないみたいな顔してますよ」

「俺、そんな顔してましたぁ?」

「はい、それはもう複雑そうな顔でしたよ」

「実をいうとジュリさんの言う通りなんです、自分でもさっきの理由にちょっと引っかかることがあるみたいで」

それを説明できず俺はしどろもどろになってしまう。それを見てジュリさんはさらに柔らかく微笑んだ。


「焦らなくても大丈夫ですよ、ミスナさんにもきっとその理由を見つけることができると思います」

そのジュリさんの言葉はついこちらの頬も緩んでしまうほどにとても暖かくて、心地いいものだった。


「できるだけ頑張ってみます、あのところでなぜそんなことを?」

「………ハンターには大事なことなのです、理由を持っているか、いないか、それがハンターとしての強さに関わってくるのです」

「狩る理由を持つとハンターは強くなるんですか?」

「はい、その理由が得体の知れない力を生み出すことがあります」

「だからシリウス・ルナ団長やパーガスさんは強いんですか?」

「そうですね、彼らは彼らなりの狩る理由を持っていますから」

「………」

全く理解できない、狩る理由を持っているからと言って強くなれるはずもなかろうに。でも、ジュリさんの顔つきはいたって真剣で冗談を言っているようには見えなかった。


「難しい話ですよね、でもどうか信じてほしい、私は今まで多くのハンターを見てきました、そして強いとされる三級以上のハンターは皆理由を持っていました、例えばシリウス・ルナ団長は「ガンマ拠点を守るためにモンスターを狩る」駐屯ハンターパーガスは「モンスターと滾るような戦いをするためにモンスターを狩る」そういう強い思いが強いハンターには宿っているのです」

「………そうですか、やっぱり強い人にはそういう理由がちゃんとあるんですね、だから俺は弱い」

自分と他の強いハンターたちとの差をありありと見せつけられたような気がして俺は下を向く。


「いえ大丈夫ですきっとあなたならいいハンターになることができますよ、まだ若いんですから焦る必要はないと思います」

「だと、いいんですが」

「安心してください、これは受付嬢のお墨付きなんですから」

いつものおしとやかな笑みではなく少しだけ無邪気な子供のような笑顔だった。


「っはい、そうっすよねこんなにも信頼できる言葉はない」

「頑張ってください、私はいいハンターになろうとしているミスナさんを応援しています」

「頑張ります、ジュリさんの言葉を真実にするために」

「………では私はこれで失礼します、訓練ファイトです」

両手でガッツポーズをして去っていったジュリさんだがどうにもあざとさが見え隠れしていた。


「じゃあ俺も行きますか」

俺は足を訓練所と書かれた看板の方に向けて歩き出した。





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