釜神様を落としたい!

チヌ

01 朝ごはん

 広めのシンクと二口コンロ、一人暮らし用冷蔵庫がある台所。

 冷蔵庫の上に神棚。祀られているのは釜神様。

 四人掛けのテーブルとイスが二脚。

 こまちは雪平鍋で味噌汁を作っている。

 木彫りで墨染めされた、怒った鬼の面を被った男がやってくる。


釜神様 今日の具は何ですか?

こまち お豆腐とわかめです。


 炊飯器の炊き上がり音がする。

 釜神様は炊飯器の米をお茶碗によそう。

 こまちは味噌汁を取り分け、冷蔵庫から納豆を二パックと漬物、卵焼きを取り出し、机に並べ神棚にお供えする。

 二人は向かい合って座る。


こまち いただきます!

釜神様 いただきます。

こまち 今日のご飯はいかがですか?

釜神様 いつも美味しいですよ。

こまち どのくらい美味しいですか?いいお嫁さんになれますか?

釜神様 どこへ行っても恥ずかしくないですよ。

こまち そう、ですかぁ…。

釜神様 あなたが来て、毎日ご飯をお供えしてくれる。それだけで十分幸せなことです。

こまち 釜神様は、無欲ですよねぇ。

釜神様 そうでしょうか?

こまち だって、当たり前のことを当たり前にしてるだけですよ。神様を敬うのも、お供えをするのも、毎日ご飯を作るのだって。

釜神様 こまちさんは良い子ですね。

こまち 子供扱いですか?まぁ、釜神様から見たら、私なんていつまでも子供なんでしょうけど。

釜神様 私たちは、ずっとここにいましたからね。


 玄関のチャイムが鳴る。


須々木 ごめんください。

こまち はーい。どうぞー。


 こまち、扉を開ける。

 須々木が入ってくる。

 釜神様はいなくなる。


須々木 すみません、お食事中に。

こまち 須々木さん。どうしたんですか?

須々木 これ、ばあちゃんが漬けたらっきょうです。おすそ分けに。

こまち ありがとうございます!らっきょう大好きです!

須々木 良かった。


 こまち、神棚にらっきょうを供える。

 須々木、その様子を見ている。


須々木 あの、こまちさん。

こまち はい?

須々木 今日、ご予定とか、ありますか…?その、お仕事終わりとか。

こまち いいえ?どうかしたんですか?

須々木 良ければ、ご一緒にご飯でも、と思いまして。

こまち あ…ごめんなさい、今日のお夕飯はもう作ってあるんです。

須々木 そう、ですか。

こまち 明日でも良ければ。

須々木 明日!いいですね、ぜひ!行きましょう!図書館まで迎えに行きます。

こまち そんな、悪いですよ。

須々木 いえ、行かせてください!僕が誘ったんですから。

こまち わかりました。仕事、六時には終わると思います。お待ちしてますね。

須々木 はい!それじゃ、また明日。

こまち また。


 須々木、帰る。

 釜神様が戻ってくる。


釜神様 美味しいらっきょうですね。

こまち 須々木のおばあちゃん、お漬物が得意なんです。

釜神様 一日ぐらい、お供え物がなくても平気ですよ。

こまち え?

釜神様 彼とどこかへ食べに行くのでしょう?

こまち あの、全然、浮気とかじゃないですからね!?

釜神様 何の話ですか…?

こまち だからその、あ、釜神様の炊いてくれたご飯が、一番美味しいってことです。

釜神様 炊飯器に違いがありますかね?

こまち あるんです、大ありです。炊き方を甘く見ちゃダメです。

釜神様 そうですか。

こまち 大変、行かなきゃ。あの、お皿洗い、お願いします!

釜神様 はい、いってらっしゃい。


 こまち、大慌てで支度をして家を出る。

 釜神様、こまちを見送り、机の上を片付ける。

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