第17話 ただの記憶

光が収まった時、健と芽々は別の場所に立っていた。周囲は真っ暗で、地面には異形の生物の残骸が散らばっていた。遠くからは悲鳴や唸り声が響いてきた。


「ここは…どこ?」芽々が不安げに尋ねた。


健も混乱していたが、周囲を見渡し、何かを見つけようとした。周囲には崩壊した建物の断片が散乱し、瓦礫の下からは奇妙な光が漏れ出していた。それは、まるで何かが地中深くに埋められているかのようだった。


「この場所…まさか、異形の生物たちが生まれた場所か?」健は自らの考えを口にしたが、その言葉に自分自身が驚いた。何かが彼の記憶の中に浮かび上がってきていた。


「健…あなた、何かを思い出したの?」芽々が慎重に問いかけた。


「いや…でも、ここに来る前から、俺はずっと何かに引き寄せられていた気がするんだ。」健は頭を抱えた。彼の中で断片的な記憶が交錯し始めていた。異形の生物たち、そしてこの場所。何かがすべてを繋げているという直感があった。


その時、地面から突如として奇妙な音が響き渡った。それは生物が這い回る音ではなく、機械が動作する音だった。健と芽々は音のする方向に目を向けた。


「何かが…動いてる?」芽々が不安そうに言った。


健はその音の源に向かって歩み寄った。瓦礫の隙間から、何か巨大な装置が見えた。それはまるで生物の脳のような形をしており、内部からは微かな光が漏れていた。


「これは…なんだ?」健は手を伸ばし、装置に触れようとした。しかし、触れる前に装置が自ら動き出し、彼らの目の前に映像が浮かび上がった。


映像には、かつての日本が映し出されていた。美しい自然と共存していた動物たち、そしてそれを見守る人々。しかし、次第にその映像は歪み始め、異形の生物たちが誕生する瞬間が映し出された。


「これは…品種改良の過程?」芽々が息を呑んだ。映像の中で人々は動物たちに様々な改良を加え、彼らをより強力な存在にしようとしていた。しかし、その結果は恐ろしいものであり、生物たちは次々に変異し、異形の姿に変わっていった。


「これが…全ての始まりだったのか…」健は呟いた。


映像はさらに進み、異形の生物たちが反乱を起こし、人間たちに襲いかかるシーンが映し出された。彼らはかつての姿を完全に失い、今やただの野蛮な怪物と化していた。


「人間たちが…自らの手でこの世界を壊してしまったんだ…」芽々は震える声で言った。「私たちはこの世界の犠牲者だったんだ…」


健もまた、胸に重い感情がこみ上げてくるのを感じた。人類が自らの欲望によって作り出した異形の生物たちが、今やこの世界を支配しているという事実。それは、彼らが今まで直面してきた全ての苦しみの原因であった。


「でも、だからこそ…俺たちは立ち向かわなければならない。この世界を取り戻すために。」健は拳を握りしめ、決意を新たにした。


「どうすれば…?」芽々が戸惑いながら尋ねた。


「まだ分からない。でも、この場所には何かがある。俺たちが見つけなければならないものが。」健は装置の奥に進み、さらなる手がかりを探し始めた。


健と芽々は、映像が終わった後も装置の前に立ちすくんでいた。彼らは、自分たちが目撃した事実があまりにも衝撃的で、しばらく言葉を失っていた。


「健、これ…どういうことなの?」芽々が震える声で尋ねた。


健は装置から目を離し、周囲の破壊された街を再び見渡した。「映像の中で見たことが、現実に起こっているんだ。人間の品種改良が異形を生み出し、その反乱が世界を壊滅させた。」


「つまり…私たちが戦っている相手たちは、もともとは人間だった動物たちだってこと?」芽々の目は恐怖と困惑でいっぱいだった。


「そのようだ。」健は深く息を吐きながら答えた。「だが、どうしてそれがこんなに酷い状況に繋がったのか、まだ分からない。もっと情報が必要だ。」


その時、遠くから奇妙な振動が感じられ、周囲の瓦礫がさらに崩れ落ちる音が響いた。健と芽々はその音の方に向かって歩き出した。


「何かが近づいてくる…」健が警戒しながら言った。「これ以上の危険は避けなければならない。」


彼らが音の源に向かうと、崩れたビルの地下に繋がる入り口を見つけた。入り口は半壊しており、内部がかろうじて見える状態だった。


「ここから調査を続けるべきだと思う。」健が提案した。「地下にはまだ何か重要な情報が隠されているかもしれない。」


芽々は慎重に入り口に向かい、下に降りるための階段を見つけた。「行こう。気をつけて。」


二人は暗い地下に降りていった。地下には、かつての研究所や施設がそのままの形で残っており、いくつかの古い機械やデータが散乱していた。健は周囲を調べながら、時折ノートやファイルを手に取り、情報を集めた。


「これが…人間の品種改良計画の全貌か?」健は一つの古いファイルを見つけ、そこに書かれた研究結果を読んだ。内容は、人間の遺伝子に改良を加え、動物の特性を持たせることで強力な存在を作り出そうとする試みが記されていた。しかし、実験は次第に暴走し、制御が効かなくなったことが詳細に記されていた。


「この研究が…すべての原因だったんだ。」健はファイルを閉じ、芽々に向かって言った。「これらの記録が示す通り、最初は善意から始まった研究が、結果的に破滅を招いた。」


「どうして…こんなことになったの?」芽々は悲しみに沈んだ声で言った。


「おそらく、研究が進むにつれて倫理や制御が失われ、暴走したんだ。人間が欲望や恐怖から目を背けてしまった結果、こんな世界になった。」健は冷静に答えた。「私たちは、その犠牲者であり、その結果として残された希望を取り戻すために戦っている。」


地下の探索が続く中で、健と芽々は更なる手がかりを見つけることができた。それは、異形の生物たちがどこで集まっているかを示す地図だった。地図には、大規模な集会所や研究施設の位置が記されており、これからの戦いに向けての重要な指針となるものだった。


「これを使えば…これからの戦いに向けて、どこに向かえば良いか分かるかもしれない。」健は地図を見ながら言った。


「でも、まだ私たちには解決すべき問題がたくさんあるわ。」芽々が強い決意を見せながら言った。「まずは、この世界を救うために、全力で立ち向かいましょう。」


健は頷き、二人は地図を手に取り、次の目的地に向かう準備を整えた。地下の探索を終えた後、彼らは再び地上に戻り、新たな計画を立てるべく行動を開始した。

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