第2話 誰にも知られずに死ぬことができるようになった

人は死んだら雪になる。


かつては、人の死は重く受け取られ、葬式と呼ばれる儀式があった。

定期的に墓石のもとへ出向き、故人のことを想う風習があったそうだ。


私が生まれたときにはすでに人は死んだら雪になるものだったから、私は葬式も墓石も知らない。


誰もが皆いつかは死んで雪になる。

どれだけ成功しても、失敗しても、大金持ちになっても、借金まみれになっても。


死は平等に訪れる。


そして誰にも知られずに死ぬこともできるようになった。


通学中の朝の電車で、マナーの悪い初老の男性を時々見かけることがあった。

ある冬の日に、その男性は大柄な若い男性と口論になっていた。


翌日から、初老の男性を見かけることはなくなった。

電車内でマナーの悪い人はもうほとんど絶滅危惧種になっていたが、最後の1人だったのかもしれない。


電車内はいつも静かで快適な空間になった。雪がしんしんと降り積もるような静けさだけが残っている。



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