第51話 救えない
如月の使える魔法のラインナップは、
■二文字魔法
・蒼炎、消気、望遠、風靴
■三文字魔法
・月華雷、八方塞
■四文字魔法
・光点軌盾、
拘束・防御・回復・攻撃・補助なんでもある。万能型だ。
フェンリル時代に何度か一緒に戦ったことがあるし、息も合う。
おかげで正式に組むのは初めてなのに上層の敵にも問題なく立ち回ることができ、無事下の階に繋がる転移ゲートを見つけることができた。
「ようやく上層とお別れですね……」
「さっさとこんな危険地帯とはおさらばだ」
転移ゲートをくぐり、99階へ。
99~91階は荒地。枯木や枯草が散見され、岩の地面はひび割れている世紀末的なエリアだ。問題なく数時間でここも踏破。
次に90階層に入る。
「……雪原エリア……ここがキツイな」
雪が吹き荒れる雪原。気温が低く、ロクな装備無しじゃすぐ凍え死ぬだろう。
本来ここへ来る予定は無かったが念には念を入れて防寒着は用意してあった。俺と如月はここへ来る直前で防寒コートを装備してある。
雪の地面に足でボコボコ穴を空けながら雪原を進む。
「義手は大丈夫ですか? この気温だと接着部が凍傷を起こすんじゃ……」
「今の所不具合は無いな。まぁこの腕は普通の義手とは違うし、多分問題ないと思う」
ドン! と風に乗った何かが顔に当たって落ちた。
「いって! なんだ?」
木の枝か何かか? と俺は思ったのだが、
「きゃああああっっ!!!」
如月が悲鳴を上げ、尻もちつく。
「え?」
俺は、足元に落ちた物を見て、目を見開いた。
――人の腕だ。
男の、ゴツゴツとした腕……頬に指で触れて、指を見てみると……赤い血が付いていた。
ガジ、ガジ、と風上から何かを噛んでいるような音が聞こえる。
「知らなかったぜぇ~~~、人間がこんなにも美味いなんてよぉ~~~~~」
知っている声だった。
少しガラガラ声になっているが間違いない……!
「飯塚……!?」
吹雪の影から、三ツ目のトロールが現れる。
青い肌、長い腕と長い身長、三つの眼。歯の隙間から人間の足が飛び出ている。
トロールは足を吐き捨て、背中に掛けた大きな斧を右手に持つ。
――オーパーツ、グランマ。
面影はあるが、禍々しく紫に変色している。
「飯塚さん……本当に……?」
トロール……飯塚は口を裂き開き、
「あー! あー!!! 居たぁ!!! 待ってたぜェ葉村くぅん! 如月ちゃぁん!!」
異常な程大きな声。その声の圧で吹雪が弾け飛ぶ程だ。
飯塚は衝動のまま傍にあった大木を殴る。大木の幹は拳に抉り取られ、あっさりと倒れた。
「俺がどれだけお前たちに会いたかったかわかるかぁ~~~? 見ろよこの俺を! 俺様を!!! こぉんなに強くなったんだぜェ!!? 今なら唯我すらもぶっ犯せるぜ!!!!! ひゃはははあはっはははっははははっはああっはははひゃぁあ!!!!」
まさに狂気の塊。
元からぶっ飛んだ奴ではあったが、さらに拍車がかかっている。
「……逃げろ……」
「え……?」
間違いなく飯塚……だがこの覇気はなんだ? あの赤眼のミノタウロスより断然、迫力を感じる!!
足が震える。
冷や汗が止まらない。
コイツは正真正銘の……化物。赤眼のミノタウロスよりも、ウルよりも、格上!!!
「逃げろ如月ッ!!!」
飯塚が一瞬で距離を詰めてくる。
「オラァ!!」
斧が振り下ろされる。俺はそれを義手で受ける。
俺と飯塚を中心に、衝撃波が発生する。
「きゃあっ!!?」
吹雪も、足元の雪も、如月も、衝撃波で吹っ飛ぶ。
「う、がああああああああああああああっっっ!!!!」
腕が軋む。足が軋む。
馬鹿みたいなパワー……! ちょっと気を抜いたらペシャンコにされる!!!
「どうしたよぉ! どうしたよ葉村くぅん! まだまだ、半分も力を入れてないぜェ!!!」
「そんな外法なやり方で強くなって、満足なのかよお前は! こんなんで俺達に報復出来て、それでいいのかよ!!!!」
「どうでもいいのよやり方なんてなぁ!! 強さは正義! パワーは正義! 気持ちイイは正義さ!!! ひゃはははははははは!!!!!」
救えない……どこまでも。
「だああああああああああっっ!!!!」
なんとか斧を押し返し、距離を取る。
選択肢はもう1つだけだ。
飯塚――俺は生まれて初めて、自分の意思で人を殺すよ。
「引導を渡してやる……!」
「いんどう? いんどうってなぁんだ? もうわかんねぇや! ひゃああああはははははあはっっ!!!!!」
――――――――――
【あとがき】
『面白い!』
『続きが気になる!』
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何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!
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