第50話 第100層
「つぅ……!」
蒸し暑い……周囲には大量の樹木。来たことは無いが話に聞いたことはある……ここは上層100階層、ジャングルフィールド。
体を起こし、背後を振り返る。そこには俺が入ってきた次元の裂け目――ゲートがある。
ウルのやつ、何がしたいんだ? ここに入れられたからと言って、またこの裂け目に入れば入り口広間に戻れる。
「!?」
――ゲートが、縮小していく……!?
(しまった!!)
俺は慌てて走り出す。
およそ30分前に館内アナウンスで言っていた。30分後にゲートを閉じると! ウルはそのタイミングに合わせて俺を入れたんだ!!
だが問題ない! ギリギリ間に合――
「きゃああああっっ!!?」
小さな体が、ゲートをくぐって飛んでくる。
「如月!?」
顔面に如月の背中が当たる。思わぬ不意打ち……俺はよろけ、如月は地面を転がる。そしてその間にゲートは閉じ切った。
(やられた!!)
ゲートが閉じると迷宮と外界は完全に断絶される。つまり、誰かに通信することもクリスタルで脱出することも不可能! 完全な孤立無援!!
ゲートを再び開くのにはかなりの時間がかかるだろう。そもそも無断で入り込んだ俺達を助けるため、ギルド協会がゲートを開いてくれる可能性は低い!!
落ち着け……ひとまずは如月のケアだ。
「如月! 大丈夫か!」
「は、はいぃ……」
如月は頭をくらくらと回しながら立ち上がる。
「一体何が起きたのでしょう……銀髪の男性に触られたと思ったら、ゲートをくぐっていて……」
「さっきの銀髪が俺とアビスが話していたウルって男だ。触れた対象をぶっ飛ばすグローブ型のオーパーツを持っている」
「あの人が!? で、でも、なぜ私たちをここに入れたのでしょう? またゲートをくぐれば戻れますし――って、アレ?」
「残念ながらゲートは閉じた。戻るのは不可能だ」
「え――ええぇ!!?」
上層・中層・下層、全てのゲートが閉じられていることは間違いない。スマホが通じなくなっているからな。
もしゲートを全力で復旧させようとしても最低で3時間はかかる。最悪アビスたちが作戦行動する夜まで復旧は見込めない。
俺達に渡された選択肢は2つ。それは如月もわかっていることだろう。
「下の階に行って少しでも魔物のレベルの低い場所で待機するか」
「動かずここで待つか、だな」
「上層の魔物相手に夜まで待つのは難しいと思います」
「同意見だ。中層ゲートを目指すのが良いと俺は思う。下層ゲートまで行くのはさすがに時間がかかり過ぎるからな」
如月も頷く。
「異常な状況だが、別に絶望的ではない。上層さえ切り抜ければ後は通いなれた中層だ。冷静に、探索していこう」
「はい! では葉村さん、そのバックパックを貸してください!」
バックパックはサポーターが持つ大きなリュックだ。表向きはサポーターである以上、俺が持ち運んでいるわけだが……。
「いや、お前の体力の方が心配だから荷物は俺が……」
「いえ! ここは譲れません! サポーターとして、バックパックは私が絶対に預かります!」
如月は譲らない姿勢を見せてくる。
逆の立場だったら俺も譲らないだろうな……。
「わかった。任せるよ」
「はい!」
---
上層・中層・下層と区切られているのはちゃんと理由があって、層ごとに魔物の強さがガラッと変わるのだ。いま俺達が居るのは上層の100階、A級上位やS級しか踏み込めない領域。
だが1つ階層を下がって99階に行けば魔物のレベルは一気に下がる。この100層が鬼門なわけだ。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
そんな上層階で初めて会ったのは巨大なサソリ、ガンズスコーピオン。体長6メートルで、尾に銃口のような穴があり、そこからビームを放ってくる厄介な相手。しかもビームは毒属性付きで、喰らうと麻痺するおまけ付き。1撃の被弾も許されない。
俺は尾から放たれるビームを義手で防ぎつつ、スコーピオンに接近する。するとスコーピオンは尾からビームソードを出し、薙いできた。
「如月!!」
「はい!」
如月はライフルを構え、弾丸を放つ。その弾丸がスコーピオンに炸裂すると共に、スコーピオンに【八方塞】が発動。スコーピオンは8本の楔によって座標を固定される。尾の座標も固定されたスコーピオンは尾の動きを止めた。
その隙に義手によるラッシュを叩き込み、スコーピオンを倒す。スコーピオンは消滅し、ドロップアイテムであるガンスコーピオンの鱗のみを残した。
「完璧なタイミングだった。助かったぜ如月」
「いえいえ、これぐらい当然です!」
如月が持っているライフルはもちろんオーパーツではなく、ただのライフルだ。ライフル自体に細工はないが、弾丸に細工がある。
「
物体に魔法式を刻み込むことで魔法の遠隔発動を可能にする魔術、それがルーンだ。ちなみに、こうして魔法に工夫を加えることを俺達は“魔術”と呼称している。
「手間はかかりますけどね」
如月は弾丸にルーンを施し、弾丸をぶつけた相手に魔法を喰らわせる“ルーンバレット”という魔術を得意としている。ルーンが刻んであれば詠唱の必要はないし、色々と便利ではあるのだが……ルーンは高い適性と馬鹿みたいな量の知識量と前準備が必要で、とてもじゃないが真似しようとは思えない。
「スコーピオンの鱗どうします?」
「……今は持っていくわけにはいかないな」
せっかく倒してドロップしたスコーピオンの鱗だが、現状を考えて拾わないことにした。もったいないけど仕方ない。余計な荷物は持てない。
今のスコーピオンがボスでも特異体でも無く、ただの雑魚敵。それが上層のレベル。
早くここを脱出しないとスタミナがもたないな……。
――――――――――
【あとがき】
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