第45話 アビスの部屋
迷宮都市第一病院。
「失礼します」
俺が如月の病室に入ると、如月は「わわっ!」とガスマスクを被った。
「……今度はガスマスクか。どれだけバリエーションあるんだそれ」
「飽きられないために、常に数を増やしてます! 服みたいなものですね」
得意げに語る如月。仮面を被り出した経緯を思うと笑えないな。
「勝ったぞ。これで、今日から如月は晴れてオッドキャットの1員だ」
「そうですか! ありがとうございます!」
「……あれ?」
「はい?」
「いや、すんなりだな。もっと驚くと思ってた。如月はあっちが有利って考えてなかったっけ?」
「そうだったはずなんですけど……なんででしょうね。当日になるとまったく葉村さんのことを心配してなかったんですよね。なんか……葉村さんが負ける気がしませんでした」
如月はそう言って「えへへ」と笑う。嬉しそうな声だ。
ホント、如月を飯塚から剥がせて良かったな……。
「……飯塚の野郎にはきっちり仕返ししといてやったからな」
「仕返し……?」
「飯塚から聞いちまったんだ。お前が、顔を腫らすぐらい殴られてたって……腫れた顔を隠すために仮面をつけてるんだって」
「?」
如月は首を傾げる。
「腫れた顔……何のことです?」
「え?」
俺は飯塚に言われたことをそのまま如月に伝える。すると如月は笑い声混じりに、
「飯塚さんに殴られたことなんて無いですよ。腹いせにお尻を蹴られたり、ビンタされたりはしましたけど、パンチは無いです」
えいっえいっ! と如月はシャドーボクシングする。
「じゃあ、アレは俺を怒らせるための出まかせってことか!?」
「はい」
うっわ恥ずかしい! あんな奴の嘘の挑発にまんまと乗っちまったってことか!
「じゃあなんで顔を隠してるんだよ!」
「単に照れ屋で、顔を見られるの苦手なんです」
「そんな理由かよ!」
「恥ずかしいからって、前にも言いましたよ?」
いや、まぁ良かったよ。如月がエグい暴力に遭ってなくて。
飯塚はどっちみち自業自得。たとえ如月を殴っていなかろうが、アイツのこれまでの蛮行を思うとアレでも温い。
「退院の準備はできてるみたいだな」
如月は大きなバッグに荷物をまとめており、病院の備品以外の物は個室に見えない。
「はい! もういつでも行けますよ! 病院の許可も取ってあります!」
「これからオッドキャットの本部に行けるか?」
「問題ないですけど、何をしに行くんですか?」
「アビスが俺達に話があるみたいなんだ。多分、結構長くなると思う。体調に心配があるなら別日でも……」
「いえ! 大丈夫です! 行けます! 元気もりもりです!!」
「そ、そうか? じゃあ、タクシー拾って向かうぞ」
俺は如月のバッグを持つ。
「あ、すみません」
「気にするな。まだ病み上がりだろ」
「でも葉村さんも午前中ギルドデュエルでお疲れなのではありませんか? 傷もいくつか見えますし……」
ギルド協会員に治療を受けたが、正直まだまだ体中痛い。
けど別に迷宮に潜るわけじゃないし、ギリ平気だ。
「こんぐらい平気だよ。さ、行くぞ」
---
オッドキャット本部。
如月はまずその外観に驚いた。
「このビルがオッドキャットの本部なんですか……?」
「見た目は廃ビルだが、中は凄いぞ」
俺は本部の説明をする。
「迷宮の性質を持ったビル、ですか」
「ああ。1階層ごとに巨大な空間が広がっている。地上8階、地下4階で全12階層。1階はトレーニングルーム、3階がラボ、地下2階がメディカルルーム、行ったことあるのはこの3つだけ。確か凛空が4階はショッピングルーム、5階はバーになってるって言ってたかな」
俺と如月は廃ビルのエレベーターに入る。
「待ち合わせはどこなのですか?」
「最上階。アビス曰く、マスタールームだそうだ」
8階のボタンを押し、待つこと数秒。エレベーターが最上階に着く。エレベーターの扉が開かれ、俺達は最上階に足を踏み入れる。
「これは……」
「巨大な図書館だな」
視界いっぱいに本棚が広がる。モデルはメキシコのバスコンセロス図書館かな。
「おーい! こっちこっち!」
本棚の上から声が聞こえる。声の方を向くと、アビスが本棚の上で大量の書物と一緒に座っていた。
「ようこそ僕の部屋へ! 最高だろ?」
――――――――――
【あとがき】
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