第43話 暴走

――廃墟地・保護エリア。


 その上空には【探機】から送られてきた映像が映っている。


(あ、まずいな)


 アビスは葉村の腕の不調を見て、その笑みを固まらせた。


(“卵期らんき”を終え、“魂写期こんしゃき”に入ったか。“孵化”まではまだ時間があるとはいえ、早いな。ユンさんの話だと“魂写期”に入るまで約半年はかかるはずだったけど……やはり彼は色々と規格外だな)


 アビスは「ふむ」と腰に手を当て考える。


(今は卵にヒビが入っているような状態……)


 人で言うならば、赤ん坊が内側から腹を蹴っているようなモノ。


(赤眼のミノタウロスとの戦い、僕との手合わせ、そしてあのウルというA級上位相当のシーカーとの戦い……短時間で経験値を与えすぎたかな。本来なら喜ぶべきことだけど、このギルド協会員が見ている中でオリジンが暴れるのはまずい)


 いざとなれば、デュエルが滅茶苦茶になることを承知の上で、この場にいる全員の意識を絶たねばならない。


(何とか抑えてくれよ……葉村君)



 ---



 俺は左手で義手を掴み、うずくまる。


「く、そ……!」


 物凄いパワーを感じる……!

 どうにかしてこのパワーを発散しないと、俺が壊される!!


「何をしているんです?」


 ウルはまたポーチから弾丸を掴んで、空中にばら撒く。


「私を相手に、遊んでいる暇があるのですか」

「ま、待て!」

「待つわけないでしょう」


 オーパーツによって、放たれる9発の弾丸。

 その全てを――義手が勝手に動き、掴み取った。


「は?」

「う、腕が勝手に……!?」


 義手は手を開き、ペシャンコになった弾丸10発を地面に落とす。



――轟ッ!!!



 義手が、勝手に前に進む。義手に釣られる形で体が走り出す。

 その速度はウルの高速移動をも超える――


「早いっ!!?」

「があああああああああああああっっっ!!!!」


 義手は勝手に拳を引き、ウルの腹に拳をめり込ませた。


「ごはっ!!!!?」


 骨が折れる音と臓器が潰れる音が響く。

 血を吐き、ウルは廃墟の3階まで吹っ飛んだ。


「落ち着け!! やめろ!!!」


 さらにウルを追撃しようと暴れる義手を、俺はうずくまって必死に抑える。

 このままじゃ……この義手は、ウルを殺す……! 確実に!!


「テメェ……!」


 ふざけるな。助けて貰って俺が喜ぶと思っているのか?

 俺にだってアイツを倒す算段があったんだ。それを滅茶苦茶にしやがって!!


(【風巻】!!)


 風の魔法で見張りの【探機】を飛ばす。そして、



「俺の言うことを――聞きやがれぇぇぇぇ!!!!」



 俺は義手を地面に叩きつける。

 すると、隕石でも降ってきたかのように地面に大穴クレーターができた。力を発散したおかげか、義手は鎮まった。


「手間取らせやがって……!」


――ゴォン!


 と、目の前の廃墟が揺れた。


「なっ……!?」


 廃墟が、俺に向かって倒れてくる……!?


「まさかアイツ!!」


 廃墟をオーパーツで吹っ飛ばしたのか!?


「【飛燕爆葬】!!」


 俺は倒れてくる廃墟に爆炎をぶつけ破壊。しかし今度は瓦礫が降り注いでくる。


「【光点軌盾】!」


 瓦礫を光の盾で防ぐ。その瓦礫の隙間――微かに人影が移動したのを見つける。


「【印爆雷】!」


 俺は地面を指さし、罠魔法の【印爆雷】を背後2メートルの所に仕掛ける。俺の目測が正しければ、ここが奴の着地点!


 カチ。


 と、自分を投げ飛ばし高速移動してきたウルが【印爆雷】を踏んだ。【印爆雷】も【印加重】と同じで触れることで起動し、触れた相手を爆撃する。――のだが、ウルは【印爆雷】が起爆する前にまたグローブで自分に触れ加速、俺に体当たりしてきた。


「つぅ!?」

「くっ!!?」


 俺とウルは地面を転がり、立ち上がってすぐに距離を取る。


「無茶しやがるな……! 【印爆雷】が発動してから起爆するまでの間にもう1度飛ぶなんてよ……」

「爆撃を避けるためにはああするしかありませんでしたから。しかし、驚きました。まさかこの私が、気絶寸前まで追い込まれるとはね……先ほどの1撃、素直に称賛しますよ」


 ウルは唇から血を零し、猫背で、立っているのも辛そうだ。

 俺は俺で限界が近い。ウルから攻撃を受けすぎたし、さっきの腕の暴走のせいか体が気怠い。

 【幻影自在陣】でウルを倒し切るつもりだったが、もう体力がない。――仕方ない。


「ウル。最後は潔く、拳で決めようじゃねぇか」

「正気ですか? さっきハッキリと優劣を決めて差し上げたでしょう」

「さあってなぁ!!!」


 俺は真っすぐ、ウルに向かって走る。

 が上手くいくか五分五分だが、賭けるしかない。


 最後の勝負だ……!



 ――――――――――

【あとがき】

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何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!

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