第38話 一方的な暴力

 遠くで大きな音が何度も響いている。ほぼ間違いなく一色さんと美亜の戦闘音だろう。

 一色さんならきっと大丈夫だ。俺が援護に行く必要はない。

 俺はたっぷりと、コイツに時間を使ってやる。


「そうだぜ変態クソ野郎! 殺し以外は――」


 飯塚はオーパーツの斧を拾い、ハルバードの形にする。


「なにしてもいいんだよ!!」


 飯塚は俺の生身の腕、左腕を狙って斧を縦に振るう。

 俺は義手で斧の刃を掴み、奪い、遥か後方に投げ飛ばす。


「え」


 一瞬で武器を飛ばされ、ほうける飯塚。

 俺は飯塚の間抜け面を義手でぶん殴る。


「ぶっ!?」


 飯塚の鼻が折れる。

 飯塚は鼻血を吹き散らかしながら吹っ飛ぶ。


「いっっでぇ!!」

「お前、如月のこと何度殴った?」


 俺が聞くと、飯塚は目を血走らせ、


「何度だと? はっ、そんなの覚えて――」

「覚えてないか……わかった。じゃあ」


 俺はもう1度、飯塚の顔面を殴る。

 飯塚の頬が大きく腫れる。


「つっ!!?」

「俺も覚えられないぐらい、お前を殴ることにする」


 飯塚はようやく、実力差を理解したのだろう。

 顔が青ざめていく。狩られる側の表情になっていく。


「まずは――」


 俺は飯塚の喉に、義手の貫手を繰り出す。


「ガ――ぁ」


 飯塚の喉が潰れ、飯塚は口から血を吐く。


「これで暫く声は出せない」


 ギブアップはできない。


「――っ!!? か、ぁ、は……!」


 飯塚は俺に背中を向け、逃走する。


「【突竜鎖】」


 左手から鎖を飛ばし、飯塚の首根っこを噛ませ、鎖を縮めて飯塚を俺の元へ寄せていく。

 俺は左手で飯塚の左肩を後ろから掴み、飯塚の体を反転させこっちを向かせる。


「ちょこまかすんな」


 義手で腹を殴る。


「~~~~っ!!」

「……気絶しないように加減するのも難しいな」


 腹を押さえてうずくまる飯塚の髪を左手で引っ張り上げる。


「無抵抗の相手を殴るってのは気が滅入るな。こんなことを平然と、楽し気にできるお前はある意味凄いよ」


 飯塚の顔面をまた殴る。


「本当に気が滅入る……だが頑張ってお前を殴るよ。お前が如月の気持ちを少しでも理解できるように……」


 倒れたらまたひっぱり上げて、また殴る。それをひたすら繰り返す。


「……さて、そろそろ何度殴ったかわからなくなってきたな」


 飯塚は体中を腫らすが、それでも意識はあるし、歩行もできる。足は狙わず、急所を外して殴っているからな。

 飯塚は涙を流し、鼻水と鼻血を垂れ流し、恐怖と絶望を孕んだ表情をしている。


「一方的に暴力を振るわれることがどれだけ怖いことか、どれだけ残酷なことか、少しは理解できたか?」


 飯塚は頭を上下に振る。

 『理解した! だからもうやめてくれ!』という心の声が聞こえてくる。


 だが――


「ま、理解した所で、手を止める気はないけどな」

「~~~~~~~~~っっっ!!?」

「お前は如月が『やめて』と言ってやめたのか? 如月が涙を流し、血を流したら手を止めたのか? 止めてないだろ?」


 俺はまた、無機質な機械の拳を握る。


「……ここからが本番だぞ。飯塚敦」

「ぁ……! やっ……! ぅ、ぇ……!!!」


 ずっと俺や如月、サポーター達を虐げてきた存在。

 その男が、今は無様な姿を晒している。

 だからと言って、俺の心は一切満ちない。むしろ空虚さが増していく。味の無いガムを何度も噛んでいるような感覚だ。

 それでも殴る。

 ただ、殴り続ける。

 無感情に、殴る。

 コイツが二度と暴力を振るえなくなるように、暴力に対して強い恐怖を抱かせる必要がある。


「こ、こうさ――!」


 飯塚が何とか声を振り絞った瞬間、俺は言葉を遮るように、飯塚の口に義手をねじり込むようにして殴り飛ばした。

 飯塚の折れた歯が飛び散る。



「お前さ……ちょっとやり過ぎたよ」



 哀れむように、俺は言い放つ。




 ――――――――――

【あとがき】

『面白い!』

『続きが気になる!』

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何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!

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