第37話 女子対決

 葉村と飯塚が戦っている地点から離れること700メートル。

 一色は成瀬の雷撃を躱しながら廃墟地を走っていた。


「さっきから何なのよ! 逃げるなって!!」

「……」


 一色は廃墟の中に逃げ込む。成瀬も一色に続いて中に入る。

 一色は壁を背に成瀬と向かい合う。


「やっと追い詰めたわよ。これでもう逃げられないわね」

「逃げる? 何を言ってるの」


 一色の白い珠肌は僅かに赤みを帯び、その瞳は奈落の底のように真っ暗だ。


「私はただ、あの人に見て欲しくなかっただけ……これから見せる、私の姿を……」

「あの人? 誰の事よ」

「ずっとあなたには怒っていた。彼を……彼の能力を過小評価し、虐げて、利用してきたあなたを……私は許さない」

「何言ってるか聞こえないのよクソ陰キャ!!」


 成瀬は肘と膝を曲げ、剣を持つ手を引く。


(突きのモーション。正面危険)


 一色は体を横にスライドさせ、成瀬から軸をずらす。

 放たれる突き。剣の先から雷撃が飛ぶが、雷撃は先ほどまで一色が立っていた位置を通過し、廃墟の壁に突き刺さる。


「すばしっこいわね……」


 成瀬は剣を振り、雷撃を飛ばす。


「【光点軌盾】!」


――雷刃。


 薙ぎ払いのモーションと同時に半円の雷撃を飛ばす技。

 一色は光の壁で防ぐが、1撃で壁にヒビが入る。


「ほらまだまだぁ!」


 雷刃の連撃。光の壁は2撃目で破壊される。

 3撃目は屈んで躱し、


「【土流砂】!」


 土と砂の波を出す。だが、


「小細工ね!!」


 成瀬は突きを繰り出す。


「雷槍!」


 雷のビームが土と砂の波に巨大な風穴を空け、左右に散らせる。


(葉村くんは成瀬美亜を雑魚扱いしていたけれど、やっぱり1サポーターじゃ厳しい相手。ふふふ……やっぱり葉村くんは凄いな。この相手に100%勝てるって言えるんだから。私も頑張らなくちゃ)


 一色は右手を成瀬頭上の天井に向ける。


「【飛燕爆葬】」

「はぁ!?」


 天井に炎の鳥をぶつけ、爆撃する。


「【飛燕爆葬】」


 続けてまた炎の鳥を成瀬頭上に放つ。炎の鳥は天井の穴を抜け、さらに上層階も破壊する。


「ちょっとアンタ、何してんのよ!」


 降り注ぐ瓦礫。成瀬は避けきれず、瓦礫の雨を浴びる。


「馬鹿ね。こんなの、シーカーなら全然耐えられる――」


 油断した瞬間、成瀬は膝を崩した。

 成瀬は気づく。自身に当たった瓦礫に、魔法陣が張り付いていることに。


「え……?」


 成瀬にまた瓦礫が当たる。すると瓦礫に魔法陣が発生し、成瀬に加重魔法を施す。


「なに、これ……!?」

(この廃墟はさっきまで私が隠れていた所。上層階の床、壁、そこら中に【印加重】を施してある。【印加重】が施された瓦礫が当たれば当然、体は重くなる)


 成瀬は重くなった自重に耐え切れず、両膝を床につける。


「魔法……!? 魔法の効果はこのマントが防いでくれるはずじゃ……!」

「アンズーの毛皮は魔法に強い耐性はあるけど、ただの物理攻撃には耐性はない。瓦礫を喰らってビリビリになれば、その隙間から魔法効果をねじり込める」


 瓦礫によるマント破壊→魔法発動という順序を踏むため、この瓦礫と【印加重】とコンボならアンズーのマントは突破できる。


「【拘束釘弾】」


 一色は詰めの一手として、12本の黒い楔をマントの隙間に放つ。成瀬は全身に楔を打たれ、移動を封じられる。


「う、動けない……!!」

「【月華雷】」


 一色は雷撃を成瀬のオーパーツを持つ右手に放ち、オーパーツを弾き飛ばす。

 これで、詰み。


「う、ぐ……! こんな拘束力づくで……!」

「それは無理。あなたはオーパーツの補助効果に甘えて筋肉トレーニングも強化術もロクにやってない。あなた程度の身体能力じゃそれを破るのに3分はかかる」


 一色は成瀬に近づき、右手を向ける。


「言っておくけど、私は葉村くんに比べたら遥かに劣る。私に負けたあなたは、葉村くんにも絶対に勝てない」

「なにを知ったようなこと言ってるのよ! アイツのことを1番理解しているのは私! アイツが私に勝てるわけないでしょ!」

「……話にならない。こんなの相手によく半年も一緒にいれたものだね……葉村くんは」


 一色はため息をつき、


「【飛燕爆葬】」


 火炎の鳥を右手の前に作る。


「嘘、でしょ。それを、私にぶつける気……!?」

「少しは反省して」


 廃墟に爆音が鳴り響く。



 ――――――――――

【あとがき】

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