第29話 葉村vs一色&数原

 数原さんは目を細め、顔中に血管を浮かばせる。


「ほほ~う。俺達も随分と舐められたモンだなぁ……オイ!!」


 数原さんが地面を踏みしめる。同時に地面にヒビが走っていく。

 オーパーツの補助なし。ただの強化術でこれだけの身体能力を得るなんて凄いな。


「やるなら早くやろ」


 一色さんはエレベーター近くのパネルで、トレーニングエリアの設定を変更させる。


「お、おい! 俺はまだ2対1を承諾したわけじゃ……」

「はい。設定完了」


 俺と、数原さんと一色さんの前に緑のバーが現れる。これはアビスとの一騎打ちでも使ったHPシステムだな。


「これが消えたら負け、ってことですよね?」


 一色さんはコクリと頷く。


「けっ! まぁいいだろう。すぐにテメェの過ちに……気づかせてやらぁ!!」


 数原さんは腕を回し、接近してくる。

 突き出される右の拳。俺は数原さんの右拳に義手の右拳を合わせる。

 ガァン!!! と炸裂音が鳴り、大気が唸る。


「ほう。この俺の拳を受けるとはな……!」

「これで全力ですか? だとしたら想像以下ですね」

「抜かせたわけが!!」


 数原さんは左手の掌底を繰り出す。俺はそれを左腕でガードするが、掌底の衝撃で体の芯からぶっ飛ばされた。


「っ!?」

「どうしたぁ!? ただの掌底だぜ!!」


 これは……中国拳法の発勁! 運動エネルギーを自在に操り、相手の体の芯で衝撃を弾けさせる技!

 オーパーツや魔法と違い、純粋な武術は魔力の波長が出ないから反応できないな。


「【土流砂】」

「!」


 背後から声。振り返ると、一色さんが土砂崩れのように土と砂の波を発していた。


「【飛燕爆葬】!!」


 火炎の怪鳥を出し、【土流砂】にぶつける。【飛燕爆葬】は【土流砂】を弾くが、飛び散った砂やら土やらが俺の足もとを埋めた。


「【沼喰】」


 足元の土と砂が、泥に変わり、俺の足を取る。


(砂や土を泥に変える魔法【沼喰】! 【土流砂】と組み合わせることでコンクリート地帯でも使えるのか! 上手いな!!)


 感心する俺の頭上に、数原さんの影が落ちる。


「【巨大拳】! 【鋼拳】!! 【紅蓮拳】ッ!!!」


 空に飛びあがった数原さんは、まず拳を大きくする【巨大拳】で右拳を巨人の拳のように膨らませる。さらにその拳を【鋼拳】で鋼のように硬くし、拳に火炎を纏う【紅蓮拳】で炎のコーティングをさせる。


 炎を纏った硬くて巨大な右拳……! アレの直撃を受けたら間違いなくHPバーは消失する!


「そんで【風靴】!!」


 【風靴】は3回だけ空中ジャンプができるようにする魔法。数原さんは空を蹴り、突進してくる。


「喰らいな! これが俺の最強魔法コンボ……メテオストレートだ!!」


 さらに空を二度蹴り、最大速度で突っ込んでくる。まさにメテオだな。


「この状況を打破できる魔法はねぇ! 終わりだ!」


 打破できる魔法は――ある。


「【幻影自在陣】」


 俺は4人の分身を出す。


「なにっ!!?」


 俺と分身は右拳を突き上げ、5人でメテオストレートを受け止める。

 足元の泥が弾け飛び、衝撃波で周囲の廃墟の壁が吹っ飛ぶ。俺と数原さんを中心に嵐が起こる。


「ちっくしょうがああああああああっっ!!!!」

「凄い威力だ……!」


 押し合いすること4秒。

 ついに嵐が止み、メテオストレートが勢いを失う。


「五文字魔法だと……!? ふざけんな……そんなの出来る奴がなんで無名なんだよっ!!」

「さぁ、こっちの番だ」


 魔法の効果時間が終わり、数原さんの拳が普通サイズに戻る。

 形勢逆転。分身と本体、5人で数原さんに襲い掛かろうとした時、


「【拘束釘弾】」


 一色さんから釘の形をした黒い楔が12本放たれた。この楔は【八方塞】の楔と同じで喰らうと座標固定され、移動が封じられる。

 不意をつかれた。分身2体が楔に拘束される。だが残りの2体と本体の俺は回避できた。


「っ!? 良いタイミングで使ってくるなぁ。だけど、これだけ残れば十分」


 残った3人で数原さんに襲い掛かる。


「く、くそ!!」


 数原さんは武術と魔法を組み合わせ、俺の猛攻になんとか耐える。

 だが、


「ペース上げんぞ!!」


 次第に俺の勢いに押されていく。

 ついに数原さんの息が切れ、分身の一撃が数原さんの腹を打った。


「がはっ!」


 数原さんが大きく怯んだ。そこに分身2体と共に連撃を叩き込む。


「ラストォ!!」


 最後に3方向から突進し、HPを削り取る。


「ちいぃ!!」


 これで、後1人。

 数原さんを倒した所で【幻影自在陣】は効果時間切れ。俺は本体だけで一色さんと向かい合う。


「【幻影自在陣】は相当な魔力を使う。連発はできない」

「その通りです」


 五文字魔法が無くとも、1対1ならいける。


「【月華雷】!!」


 月の形した雷撃を放つ――と同時に、無詠唱で【風巻】を発動。風の太刀を雷撃の影に隠して発射する。


「【月華雷】」


 一色さんも【月華雷】を放ち、俺の【月華雷】を相殺するが、その影に隠れていた【風巻】は相殺できず、肩に風の一撃を受ける。


「!? そんな……まさか」

「無詠唱魔法だと!?」


 俺が無詠唱魔法を使ったことで一色さんと数原さんは動揺する。


 今ので一色さんのHPゲージの20%が吹っ飛んだ。

 このまま押し切――


「んふふ……!」

「え?」


 気のせいか……一色さんの口から、品の無い声が聞こえたような……?


「……凄いねぇ……やっぱりぃ……生は凄いよ……イイ。動画で見るより、全然……凄い……」


 色気を孕んだ湿っぽい声色。一色さんの表情が歪んでいく。

 背筋に寒気を感じ、俺は足を止めた。




 ――――――――――

【あとがき】

『面白い!』

『続きが気になる!』

と少しでも思われましたら、ページ下部にある『★で称える』より★を頂けると嬉しいです!

皆様からの応援がモチベーションになります。

何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る