第27話 一色冴
翌日。
午前10時、オッドキャットとフェンリル間のギルドデュエルが成立。
ギルド協会が互いの希望を飲み、デュエルの詳細を設定。アビスより俺へギルドデュエルの詳細が送られてきた。
《オッドキャット vs フェンリル ギルドデュエル詳細》
・開催日:5月30日
・対戦形式:フィールドバトル(3on3)
・フィールド:廃墟地 昼
・対戦時間:60分
・特別ルール:オッドキャット側の選手はサポーター限定
【デュエルポイント(賭けるギルドポイント)】
・フェンリル 1500ポイント
・オッドキャット 12000ポイント
【デュエルアイテム(賭けるモノ)】
・フェンリル 如月小雪の移籍。如月小雪、飯塚敦間の全契約の解除。
・オッドキャット 葉村志吹の移籍。唯我阿弥数より飯塚敦に対する土下座。
「なんか、変なオプションがついているな」
このアビスの土下座はいつの間についたんだ? きっとギルド協会に申し込みする際にひと悶着あったんだろうな。
開催日は5月30日か。今日が5月16日だからちょうど2週間後だ。
対戦形式はフィールドバトル。これはギルド協会が用意した場所で3対3のバトルをするというもの。廃墟地はそのまんま廃墟がいっぱいある場所だ。それぞれ戦闘不能になるまで戦い、選手3人がリタイアした方が負け。まぁ単純なルールだ。
「コンビネーションの練習は必須だな」
アビスからメールが届く。どうやらアビスも俺と同じことを考えてくれていたようで、俺と一色と数原が顔合わせ&訓練する場を設けてくれた。明日の8時、オッドキャットの1階トレーニングエリアにて合同訓練を開くとのこと。
一色は17歳、数原は26歳。どっちも年上だから敬語でさん付けだな。オッドキャットにおいては先輩でもあるし。
一色さんはともかく、数原さんはどんな感じなんだろうな。アビスが送ってきたメモには《ツンデレ。捨てられた子犬にミルクあげるタイプ》としか書かれていない。アイツふざけてるだろ。
年上の男は飯塚のせいでちょっと苦手感がある。まともな人だといいんだがな。
---
1日が経ち、顔合わせの日。
オッドキャットのギルド本部に向かうため、俺はアパートを出て西に行く。
俺の住んでいるアパートはアマツガハラのある中央地“
その通りで俺は偶然、彼女の背中を見つけた。
(一色冴!)
相変わらずのゴスロリ服だ。初対面なのにすぐ一色さんだとわかった。
待ち合わせ場所が同じで、待ち合わせ時間も同じなのだから鉢合わせしてもおかしくない。
このままずっと背後をついていくのも不審者っぽい。俺は一色さんの背中を追いかける。
「おはようございます」
俺が背後から挨拶すると、一色さんはビクゥ! と背筋を震わせた。
「あ、すみません。驚かせるつもりは無かったんですけど」
「……」
一色さんはこちらを振り返る。
真っ黒で光のない瞳、切れ長のまつ毛、真珠のように白い肌。こんな古い表現を使いたくないが……“お人形さんみたい”な女性だ。
「……誰?」
「新しくオッドキャットに入団した葉村志吹です。一色冴さんですよね?」
「うん」
「今日は合同訓練、よろしくお願いします」
「うん」
声が小さくて無機質。表情も微動だにしない。
俺のことを快く思っているのかいないのか、わからん。
「……」
一色さんは何も言わず、歩き出した。
並んで歩いていいのだろうか……とりあえず後ろからついていくか。
「……私は、あなたのこと認めてない」
「へ?」
「ちょっとアビス様に気に入られているからって調子に乗らないで」
「はい、すみません」
あれ? なんか嫌われてる?
と、とりあえず会話を続けよう。この人には聞きたいことがいっぱいある。なんせS級シーカーのサポーターだからな。サポーター談義に花を咲かせたい。
「その……一色さんに聞きたいことがあるんですけど」
「彼氏はいない」
「え? 彼氏? ああいや、俺が聞きたいのはプライベートな事じゃなくて、サポーター関連のことなんですが」
一色さんは「あ」と声を漏らした後、その白い耳をほんの僅か赤くさせた。
「……なんでもない」
そう呟き、早歩きになる。
読めない……何を考えているかまったく読めないぞこの人。
――――――――――
【あとがき】
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