第21話 成瀬美亜の苦難
「なんでよっ!」
成瀬は再生数が落ち続ける自身のチャンネルを見て、机をダン! と叩いた。
「なんでこんな再生数が落ちるわけ!? こんなにエロい格好してるのにっ!」
部屋で1人喚き散らす成瀬。その形相はとても人前に出せるものじゃない。
(もしかして
ストレスは正常な判断力を奪う。
自分を責める、ということができない成瀬は他の誰かに責任を負わせないと平静を保てない。自分の失敗は誰かの責任。そうしないと前に進めない。
彼女の他責思考は葉村に向かっていく。葉村がいなくなってから彼女の動画の落ち込みが始まったからだ。葉村がいなくなったことも、動画のアンチコメントが増えたことも、全て自分の行いが原因なのだが……それに彼女が気づくことはないだろう。
「あん?」
スマホがピコンと鳴る。
メッセージだ。相手は飯塚敦――
《大切な話がある。ギルド本部のマスター部屋に来てくれ》
「こんな時に……めんどくさいわね!」
無視したいところだが、さすがに自身が所属するギルドのマスターの誘いは断れない。
成瀬はいやいやながらも身支度し、いつもより服を着こんで部屋を出る。
---
フェンリル本部・マスター部屋。
フェンリルの本部は一階が酒場、二階が会議室、三階がマスター部屋になっている。マスター部屋は飯塚専用の部屋で、彼が仕事をする際に使用する部屋なのだが……なぜだかダブルベッドやシャワー室がある。
そのマスター部屋のソファーに成瀬と飯塚は向かい合って座る。
「それで、用事ってなぁに? 敦君」
心の内は不満が蔓延しているが、表には出さず、いつもの媚びた笑顔を維持する。
飯塚は手を組み、
「……あの野郎、お前の元サポーターの片腕野郎……アイツ、S級シーカーの唯我阿弥数のギルドに入ったらしい」
「は?」
成瀬は飯塚の前にもかかわらず、つい声を上ずらせた。
その額には血管が浮かんでいる。
「どういうこと?」
「俺が行方不明になった日、アイツ、唯我と一緒に行動していたんだ。それで気になって調べてみたら、アイツの在籍がオッドキャットになっていた!」
(あのバカが……私より良いギルドに!?)
メラメラと、成瀬の心で火が燃え上がる。
「しかもアイツ、妙な機械の腕も手に入れてやがった。なぁ美亜! なんなんだよアイツ!! ただの雑魚じゃねぇのか!! なんだってあんなカスがS級のギルドに入れるんだ!?」
(そんなの私が聞きたいわよ!!)
成瀬にとって、葉村は下にいないといけない存在。
所属しているギルドのランクが、葉村より下という事実を成瀬は許せない。
成瀬は葉村を自分より下に引きずり落とすため、一芝居をうつ。
「……きっと、唯我も
涙を浮かべ、成瀬は言い放つ。
飯塚は「どういうことだよ!?」と身を乗り出す。
「アイツ……魔法を利用して盗撮とか盗難とか普通にするのよ。唯我は多分、盗撮写真をネタにギルドに入れるよう脅されたのね。私も、着替え中の写真とか入浴中の写真とか撮られて、それで脅されて、ペアを組むように強要されたし……」
「なんだと! あの野郎~っ!! お前があんなカスと組むなんておかしいと思っていたんだ! 脅迫とか、マジでクズだぜ!!!」
正義感に燃える飯塚。成瀬は密かに口角を上げる。
「だけどアイツばかり責めないであげて! アイツがああなったのは幼馴染の私のせいでもあるから……もう1度、アイツを私達のギルドに入れましょう! 今度はちゃんと、幼馴染として、アイツを更生させるから!」
「美亜……お前って奴はどこまで慈悲深いんだ! わかった! なんとかしよう!」
「い、いいの敦君? 私達の問題にあなたを巻きこんじゃってさ」
「いいってことよ。俺に任せておけ! そうと決まれば、アイツを俺達のギルドに引き込むために、何か作戦を考えないとな……奴の手元にある美亜や唯我の写真も没収しねぇと……」
張り切る飯塚を傍目に、美亜は小さくため息をつく。
(ま、今はこれでいいわ。後はこのアホが火種を作ってくれるでしょう。なんでオッドキャットにアイツがいるのかわからないけど、あんな雑魚を唯我阿弥数が必死になって守るはずもない。徹底的に粘着すれば、あんなのすぐに切り捨てるはず)
飯塚は厭らしい笑みを薄っすらと浮かべる。
葉村の手元にあるというアビスと成瀬の盗撮写真を想像しているのだろう。成瀬は飯塚の心の内を読み、ぞわっと鳥肌を立てる。
(盗撮写真なんて無いってのに、ホントアホねこの男)
益々自分のギルドが低レベルだと感じ、成瀬の怒りが増していく。
(ちっ! 絶対後悔させてやるわ。あの能無し……!)
――――――――――
【あとがき】
『面白い!』
『続きが気になる!』
と少しでも思われましたら、ページ下部にある『★で称える』より★を頂けると嬉しいです!
皆様からの応援がモチベーションになります。
何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます