第20話 あれ?

「喧嘩を売るって、何をするつもりだ?」

「“ギルドデュエル”を挑もうと思うんだ」


 名前からわかると思うがギルドデュエルとはギルド同士の決闘だ。ギルド協会を通して行われ、互いにギルドの所有物を賭け公平に争う。人材、あるいは物、地位、金。賭けるモノは様々だ。

 さらに敗北した側は“ギルドポイント”を奪われる。ギルドポイントは神理会やギルド協会より依頼されたクエストなどをクリアすることで貰えるポイントで、このポイントが高いほどギルドランキングが上がる。基本的にはこのギルドポイントを奪い合う目的で行われることが多い。

 しかしオッドキャットのギルドランキングは9位、フェンリルは109位だ。これだけランキングに差があると、勝っても貰えるギルドポイントはたかが知れてる。


「もちろんギルドポイントが目的じゃない。目的は如月ちゃんの籍さ」

「如月が欲しいなら金で引き抜けばいい。如月は借金があるから飯塚と組んでいるだけで、より多くの金を払ってくれるなら喜んでこっちに来るはずだ」


 コイツなら金を腐るほど持ってる。如月の借金ぐらい簡単に返せるはず。


「そうできればよかったんだけどね。どうやら如月ちゃんは飯塚に借金を肩代わりしてもらう代わりに10年間コンビを組む契約を結んでいるんだ。彼女が飯塚と契約を結んだのが1年前だから、あと9年、彼女はフェンリルから出られず飯塚からも離れられない」

「そんな契約を結んでいたのか……なるほど、飯塚の奴が増長するわけだ」

「この契約の撤回を賭けてギルドデュエルを仕掛けようと思うんだよ」

「乗らないだろうな。お前1人でフェンリルの連中全員相手にできるだろうし」


 アビス1人>フェンリルの全戦力で間違いない。元フェンリルの俺が保証する。


「そこはほら、上手くハンデをつけてやるさ。やるだろ? 君、彼らにはそれなりに恨みがあるだろう。復讐の場を設けようじゃないか」

「余計なお世話だ。俺は復讐なんてするつもりはないよ」


 アビスはベッドの傍の椅子に座り、足を組む。


「そうなのかい? この前、飯塚と会った時はる気満々だったじゃないか」

「もちろん許せはしない。だけどデュエルでフェンリルが敗北すれば、飯塚だけでなくフェンリルの他のメンバーにも迷惑がかかるからな。フェンリルには悪党じゃない奴もいる。俺個人の復讐心を優先して、判断を誤りたくはないんだ。あくまでデュエルは最後の手段にしたい」

「じゃあ、最初の手段は?」

「如月を解放してくれって直接交渉してみる。もしかしたら2つ返事でOKしてくれるかもしれない」

「そんなわけないだろう」

「無駄かもしれないが可能性は0じゃないし、それに1度交渉したって事実が大事だと思うんだ。最初から武力行使するとこっちに悪いイメージがつくだろ」

「大人だねぇ」


 アビスは呆れ気味に言う。


「もちろん、飯塚がどうしようもない程の馬鹿だったら武力行使――ギルドデュエルを挑むしかないだろうな」


 そうならないことを祈るが……。

 

「とりあえず、如月と1度話さないとな」

「わかった。今日中に君が退院できるよう手配しよう。如月ちゃんが居る病院、病室は後でメッセージで送る」

「ありがとう」

「礼には及ばないさ」


 アビスは立ち上がり、病室を去ろうと扉に手を掛けた後、「ああそうだ」とこちらを振り向いた。


「言い忘れていたけど、君の義手、まだだから」

「未完成?」

「そ。オリジンはオーパーツの卵だからね。まだ孵化していない。経験値を貯めていけばいずれ君の魂の形に沿ったオーパーツに変幻する。まだまだ先の話だろうけど、一体どんなオーパーツが生まれるのか今から楽しみだね」


 お前の100倍、俺の方が楽しみだよ。


「念押しで言うけど、その義手についてはご内密に。お互いの命のためにね」


 アビスは「ばいば~い」と手を振り部屋を去る。

 俺は義手を見つめる。


「未完成……か」


 まだこの義手には上があるのか。

 今までは迷宮に行くの憂鬱だったけど、今は早く、迷宮に潜りたいな。


「そういや、美亜の奴はどうなったかな」


 俺が離れてから1週間ちょっと。もう再出発しているはずだ。

 元相方として動向は気になる。


「調べてみるか」


 俺は動画サイトを開き、美亜のチャンネルを開く。


「……あれ?」


 俺が抜けてからの動画の再生数を見て、俺は目を疑った。

 動画が新しく出る度に再生数が落ちている。6日前は85万再生、5日前は40万再生、3日前は15万再生、2日前は10万回再生……。


「どういうことだ?」


 再生数が激オチしている。

 俺は再生数が落ち込んでいる理由を探るべく、まず6日前、俺が抜けて初めての動画を見る。

 美亜がアマツガハラの中層にソロで挑んでいる動画だ。


 なんというか……酷い。


 罠には掛かるし、格下の魔物に手こずるし、あれだけ圧倒していたノーマルのミノタウロスに敗走する始末。

 コメント欄は当然の如く荒れていた。


《お荷物が残った末路www》

《これはこれで面白い。迷宮の悪しき攻略例として使える》

《なんでコイツがオーパーツに選ばれて俺が選ばれてないのか不思議でならない》

《雷を操るオーパーツとか普通に当たりなのにな》

《薄々気づいてたけど、やっぱり魔法1つも使えないのな》

《Sサポ君居ないなら見る意義なし。登録解除しまーす》


 あらら……こりゃ酷いな。


 コメントの統制もしてないから美亜の目にもこれらのアンチコメントは映っているだろう。美亜が怒り、焦っている姿が目に浮かぶ。


 次の日の動画では新しいサポーターが付いているが、サポーターとの連携がボロボロで、美亜が常に怒鳴り散らしていた。美亜のサポーターに対するぞんざいな態度が視聴者の不評を買い、更にコメ欄が荒れている。


 3つ目の動画は迷宮配信ではなく、部屋での雑談配信だった。美亜は胸元の見える露出の広い格好で視聴者と雑談をしている。次の日はメイク解説動画……高級化粧品を一般向けと紹介し、炎上している。


 め、明確に迷走しているな……。


「……ま、もう俺には関係のないことだ」


 自業自得とはいえ、見てて痛々しい。

 俺は美亜の動画を見るのをやめ、今後のためにも他のA級シーカーの動画を開き、研究を始めた。



 ――――――――――

【あとがき】

『面白い!』

『続きが気になる!』

と少しでも思われましたら、ページ下部にある『★で称える』より★を頂けると嬉しいです!

皆様からの応援がモチベーションになります。

何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る