第15話 成瀬美亜、転落の序章

「ったく、なんで電話が繋がらないのよ!」


 高級マンションの最上階、自室のソファーで成瀬美亜は1人怒鳴る。

 葉村に雑務を押し付けるため、何度も何度も電話を掛けているが……繋がらない。メッセージアプリを使うも既読すら付かない。

 葉村は前日の夜、成瀬と繋がりを絶つため全ての連絡ツールで成瀬をブロックしている。いくら電話を掛けようが、メッセージを送ろうが、繋がるはずも無し。


「は? なんなのアイツ、何様? うっざ!」


 仕方なく、成瀬は葉村の家にタクシーで向かった。

 葉村の住むボロアパート、その2階にある葉村の部屋のインターホンを押すも応答なし。

 現時刻は18時半。葉村は義手の取り付け手術を行っている最中なのだが、そのことも一切聞いていない成瀬は葉村が居留守を使っていると思い込み、ドアをガンガンガン! と殴り始めた。


「ちょっと! いるんでしょ! なに? まさか昨日の本気? 私と離れてアンタ1人で何ができるの!? ねぇ! 私と組みたいってサポーターはいくらでもいるのよ! でもアンタはどう? アンタと組みたいシーカーが居ると思ってるの!? ねぇ!!!」


 もちろん、応答は無し。

 成瀬は最後にドアを蹴り、タクシーに戻った。


「フェンリルの本部までお願い」


 そうタクシーに告げ、成瀬はイライラから鼻息を鳴らす。


 成瀬にとって新しいサポーターを雇うことは2つの理由から嫌だった。1つ目の理由は葉村への個人的な思い入れ。2つ目の理由は新しくサポーターを奴隷教育するのが面倒、というもの。

 現在、葉村は成瀬の雑用係として完成している。言わずとも動画編集をするし、自分の欲しい物を買っておいてくれる。さらに給料は格安で、迷宮攻略の利益のほとんどを成瀬が独占できる。完全に上下関係が完成している。だが新しくサポーターを雇えばまた1から調教しなければならない。成瀬はそれが面倒だった。


 決してサポーターとしての葉村の実力を評価しているわけじゃない。ただの都合の良い手下として、雑用として、葉村を欲しているだけだ。


 フェンリル本部に着いた成瀬は受付嬢に葉村の居場所について聞く。すると、


「はぁ!? アイツ、ギルドまで辞めたっての!?」

「はい。いやそれより! 大変なんですよ成瀬さん! マスターが行方不――」


 飯塚の行方不明などどうでもよく、成瀬は葉村のことだけを考えていた。


(1人じゃ何もできないクセにどういうつもり? てっきりフェンリル内で新しくシーカーを見つけると思ってたのに、フェンリルまで辞めたって?)


 もし葉村がフェンリル内で新しくシーカーを探そうとしたら、成瀬は間違いなく妨害していた。

 だが別のギルドに行ってしまったら成瀬の支配力は及ばない。


「は、はは! 上等よ……!」


 成瀬は葉村への怒りを募らせる。


「どうせすぐに金が尽きて泣きついてくるに決まってる。それまで辛抱すればいい話でしょ。余裕余裕……次縋ってきたら今よりもっと使い潰してやる。反抗する余裕が無くなる程にね」

「あの、成瀬さん! 飯塚マスターが!」

「行方不明なんでしょ。救助隊がなんとかするわよ」


 もし死んでも私がマスターになるだけだし。と成瀬は思うが心の内で留めた。


「それより新しくサポーター欲しいから適当に見繕っておいて。金はいくらでも出すわ。最近、動画の収入があるから財布に余裕あるしね」


 動画の広告収入のほとんどは成瀬の懐に入っている。財布に余裕はある。

 金もあり、実力もあり、若く、美しい完璧な存在。成瀬は自身をそう評価する。その自己評価に準じた非常に高いプライドを彼女は持っている。

 決して、葉村が居なくなったのは自分のせいとは考えられず、今回の1件も葉村の暴走ということで自己完結させる。葉村をこき使っていた事実や、低賃金で雇っていた事実など目に入らず、彼に謝るなんて選択肢は1ミリも浮かばない。自分が彼を助けていたと考えており、その逆であった事実など認められない。


 このプライドの高さゆえ、彼女の人生は下り坂に入る。


「ま、そこらの奴でもあの馬鹿よりは優秀でしょう」

「は、はい。わかりました。サポーターのリストを作っておきます」


 成瀬はギルド本部を出て、タクシーで高級マンションに向かう。

 タクシーの中、成瀬は窓の外を見る。


(そうだ。シーカーなら1人でも迷宮に潜れるし、1人で迷宮攻略動画を撮るのも悪くないわね。ソロ攻略って人気あるし、もしかしたら100万再生と言わず200万とか、伸びに伸びたら1000万再生とかいっちゃうんじゃない? そうなったらあのバカ、めちゃくちゃ後悔するでしょうね。この際だから今まで行ったことのない高層までソロで行って、私の優秀さをアイツに見せつけるのも悪くないわね……!)


 そんな妄想をしながら、成瀬は小さく笑った。



 ――――――――――

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