大人気ダンジョン配信者のサポーターをやっていたけど、あまりにパワハラが酷いから辞めることにする。自分無能なのでいなくなっても問題ないですよね。 ~あれ? なんか再生数激オチしているけど大丈夫?~

空松蓮司

第1話 A級シーカーと無能サポーター

 神製しんせい塔型迷宮アマツガハラ・51階。


「ちょっと! いつまで休んでるの! 早く行くわよ!」

「……悪い。いま行くよ」


 薄暗い洞窟を俺と美亜は歩いていく。

 連日の迷宮探索、動画の編集、マネージャー業務や道具の手入れ……すでに5徹目、疲れが全身を縛り付けている。

 一方で、全ての雑務を俺に押し付けている美亜はらくそうだ。

 彼女は探索者シーカーで、俺は補助者サポーター。2人1組で行動している。サポーターの俺は完全に彼女の雑用係と化している。


「ほら、カメラ回しなさい」

「わかった」

「……ったく、ぼさっとすんなっての。あー、ホントすべての行動がおっそくて腹立つ」


 不満を聞き流しながら俺はポケットから迷宮用スマホ、バトラーを出す。バトラーには迷宮で使える様々なアプリが入っており、俺はその内の1つ“自動追跡撮影アプリ”を起動する。バトラーは宙に浮き、カメラを起動させ俺らの後ろから撮影を始める。カメラが起動したのを察すると、美亜はカメラに目線を向けた。


「皆さんこんばんは~! A級シーカーの成瀬美亜です♪」


 さっきまでのしかめっ面から一転、最高のビジネススマイルをする美亜。


「今日は第51層を探索します。解説を交えながら探索していくので参考にしてください~」


 ちなみに俺は完全に黒子であり、必要最低限のこと以外喋ることは禁じられている。顔も黒い覆面で隠して、マントを羽織って手すら見せないようにする。少しでも目立つと怒られるので出来るだけ影を薄くする。

 眠いし気怠いが、迷宮内で気を抜くのは自殺行為。気合を入れ、力を振り絞る。


「【蒼炎そうえん】」


 まず魔法で蒼い炎を発生させ、鬼火のように宙を移動させて辺りを照らす。

 51階は薄暗いからな。こうして辺りを照らさないとならない。

 その後で瓶に入った聖水を体に撒く。この階層で怖いのはゾンビ系の魔物の不意打ち。ゾンビ系魔物が苦手な聖水を体につけることでゾンビ系魔物は近寄ってこない。俺が聖水を被っていればここら一帯は襲われないので、美亜も心配ない。……本当は美亜にもつけてもらった方が安全なのだが、前に掛けたら『臭い!』とぶちぎれられた。


「【看破かんぱ】」


 次に探索用の魔法【看破】を使う。辺りの足跡や指紋が緑色に輝き出す。

 美亜は目の前で途絶えている足跡を指さし


「は~い! 皆さんご覧ください。足跡が途絶えておりますね? これは落とし穴がある証拠です。こういう時は……」


 美亜が顎をくいっと上げて合図する。

 俺はまた魔法を発動させる。


「【虚動幻影きょどうげんえい】」


 自身と同じ姿・同じ質量を持った分身を生成し、目の前を歩かせる。分身が足跡が途絶えた場所を踏むと落とし穴が起動、分身が落ちていく。


「【光点軌盾こうてんきしゅ】」


 落とし穴からの不意打ちを危惧して穴にバリアを張る。ついでにバリアを踏んで移動できるようにした。


「こうして分身に踏ませることで落とし穴を回避できます。さらにバリアを橋にして渡ることができま~す」


 美亜は俺に一瞥もせず、バリアを踏んで落とし穴を越える。俺も後を追って、落とし穴を越えた。

 俺のサポートを我が物面で語る美亜に呆れつつ、俺は周囲を警戒する。



 ---動画コメント欄---



《出た! S級サポーター君だ!》

《相変わらずサポーターとして完成してる》

《サポに解説させろや。お前の説明ザックリ過ぎるねん》

《当たり前のように四字魔法使ってるのウケる》

《いつも思うけど、なんでこんな精々B級レベルのシーカーについてるんだろ。彼女なんかな?》

《さあ。引く手あまたのはずだからプライベートでなんかの繋がりがあるんだろ。知らんけど》

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