第34話 セオside:大胆すぎる作戦

 ベッドを重ねて塞いだ部屋のドアが、魔物によって突破されそうになっている上、地上にも魔物が待ち伏せている。

 八方塞がりの状態で、バリケードが崩壊するまでの猶予がない。

 そんな中、ここの商館より少し高さが低い正面の建物に目を向けたセオは、賭けに出る。

 ロープを長めに持ち、ブンブンと振り回す。

 遠心力を利用し、建物の屋根に目がけてロープを放り投げた。


「くそっダメか」

「ちょっと、何してるの?」

「あっちの建物に乗り移るために、ロープを引っかけようとしてるんだ」

「嘘でしょ⁉︎」

「もうこれしか逃げ道はない」

 

 再度チャレンジするため、ロープを振り回す。

 その間も、ドアを体当たりしてこちらに侵入しようとしている魔物がいる。

 背後から幾度も聞こえる衝撃音に急かされる。


「いけええええええええ」

 

 振り回したロープは真っ直ぐ飛び、屋根の縁にフック部分を引っかけることに成功した。


「部屋に魔物が入ってきたわ!」

「マリル、僕の背中に乗って!」

 

 セオはマリルが背中に乗ったことを確認すると、ロープを掴んで、ひと思いにバルコリーから飛び降りた。

 飛び降りた勢いのまま地面に向かって下降すると、振り子の軌道を描いて上昇し始めた。

 隣の建物の壁面に衝突する寸前、セオは両足を踏ん張って勢いを殺し、衝撃の軽減に成功した。


「背負いながらだとキツイから、マリルが先に登って」

「わ、わかったわ」 


 屋根から垂直にぶら下がったロープを先に登ってもらおうと、背中にしがみつくマリルに指示する。


「ひいいいいいい」


 高所に怯える声を漏らしながら、背中からの移動を始める。

 セオの頭を支点に、マリルはゆっくり這い上がり、セオの両肩に膝立ちで乗っかった。

 両肩を足場にしながら、上のロープに手をかけて上昇する。

 無事に屋根上まで到達したようだ。

 セオもマリルに続いて、屋根上にやってくる。


「ふう……なんとか上手くいってよかった」

「し、死ぬかと思ったわ」

「お疲れ様マリル」


 セオはフック付きロープを回収し、これからどう動くかを考える。


(魔物にはこの建物に乗り移ったことはバレてるから、いま地上に下りると先回りされる危険がある)


 カバンからランタンを取り出して着火したセオは、平らな屋根上を歩いて、辺りを調査する。 

 すると、船の甲板にあるような上ぶたを地面に発見した。

 鍵はかかっておらず、取っ手に手をかけ外側に開き、ランタンで内部を照らした。

 顔を入れて中を覗き込むと、長い梯子が下まで続いていて、どこかの部屋に繋がっているようだ。


「この建物に入れる梯子を発見したから、そこから下りて建物の内部に身をひそめよう」

「わかったわ」


 セオを先頭に梯子を下りていくと、籠り切った湿気がまとわりつく。

 一番下に到達し、周りの様子を窺うと、埃が被った雑多な物やチェストなどであふれ返っていた。屋根裏部屋を物置として使っているのかもしれない。

 

 二人して埃っぽい空間に身をひそめていると、かなり下の階から物音と足音がここまで届いた。遅れて階段を駆け上がる音がする。

 二人は急いで梯子を上り、屋根裏部屋から出ると、商館周りの路地を見下ろした。

 魔物の姿は見当たらないので、いまが好機と踏む。

 セオは、屋根の上から商館とは反対側の路地に降り立つため、縁にフックをかけてロープを地上に垂らした。


「先にマリルが下りて。地上に降りたら路地を進んで、左側の手前から五軒目の家に隠れて。その家が入れなかったら、六軒目、その家もだめだったら七軒目って感じでお願い」

「セ、セオが先に行った方がいいんじゃないの?」

「このロープを回収していきたいから、あとに下りたいんだよね。悪いけど頼めるかな」

「あーーーもう、わかったわよ。行けばいいんでしょ、行けば! フックが外れないか、魔物が地上に来てないか、きちんと見てなさいよ!」

 

 マリルが決死の覚悟でロープに手をかけると、視線を真っ直ぐ固定したまま、慎重に下降していく。

 どうにか地上に降り立ったマリルは、セオの指示通り路地の中に向かって駆けていった。

 ランタンの火を消してカバンに仕舞うと、セオはぶら下がっているロープを手元に巻き取る。 

 それから、さっきと同様にロープを振り回して、今度は隣の家の低い位置にあるバルコニーにフックを引っかけた。

 ロープに捕まりながら空中を移動し、隣の建物の壁面を蹴り上手く勢いを殺すと、バルコニーに手をかけた。

 フックを外してロープを回収したあと、自力で地上に飛び降りる。

 マリルとの待ち合わせ場所を目指して走り出した。

 

 運よく魔物と遭遇はせず、五軒目の家に辿り着く。

 施錠はされておらず、すんなりドアが開いた。おそらくマリルはここにいるはず。

 ここは日用品などを取り揃えている店のようだ。


「マリル、いるかい?」

「ええ」


 棚の陰からマリルが姿を現した。手には自分用のランタンを持っている。

 入り口から死角になる場所を選んで、再び今後の方針を話し合う。


「ロープを利用すること前提なら、城外に出るよりも城門の高さが低い貴族街に向かうほうが得策かなと思う。その場合、ロープで城門を乗り越えるには、地上からの延伸力だけじゃフックを城壁上部に引っかけることはできないから、高さを何かで賄いたい」

「梯子くらいしか思いつかないわねえ」

「石工とか建築関係のギルドを探す他ないか」

「……そういえばこの店に来る道中に、建築途中の家屋を発見したわ。そこに行けば梯子が見つかるかも」

「ナイス情報だよマリル。さっそく行って見てくる」


 日用品店を出ると、マリルの情報を頼りに来た道を戻る。

 すると二軒手前に、骨組みだけの木造建築があった。建築の周りを探索すると、壁に立てかけてある梯子を発見する。

 魔物に警戒しながら日用品店まで戻ってくると、ドアの横に立てかけてから中に入った。


「見つかったよ梯子!」

「これで準備完了ってことね」

「うん。あとは城門に至るまでのシミュレーションと、城門に着いてからのシミュレーションをしておかないと」

 

 魔物と遭遇した際の対処法などを相談し合う。


「高所にある城門で魔物に追い込まれたら、逃げ道はないわね」

「城門へと繋がる階段を上り始めた時点で、もう逃げるという選択肢は排除した方がいい。死ぬか脱出するかしか残されてないから」

 

 他にも意見を出し合った結果、ようやく話がまとまり、二人はさっそく作戦の実行に移った。

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